〜 午 睡 〜
〜コスタ・デル・ソル in ストライフ一家〜
<47>
 
 ヴィンセント・ヴァレンタイン
 

 

 

「……では、ふたりの夜に、乾杯!」

「あ……、は、はぁ、か、乾杯」

 通されたのは、広すぎない個室。

 そのままテラスに出られる造りで、六角形の面白い形をしている。

 品の良い調度品が白を基調とした部屋の雰囲気によく合っており、デートコースの締めとしては最高だろう。

 ……だが、もちろん、我々はそんなつもりでここに来ているわけではなくて……

 デートどころか、かなり重い話をしなければならないわけだから。

 ジェネシスの言っていたとおり、料理は申し分ない味で、美食家の彼の本領が十二分に発揮されていた。

 話の邪魔をしないようにという気遣いだろう。

 ある程度、まとまったプレートが並べられ、アルコールランプではスープが適温に保たれていた。

「……美味しい」

 私は素直に料理を誉めた。正直そんな気分にはなれないと思っていたのだが、やはり旨いものは旨いのだ。

 それにいざ救出作戦実行となれば、かなりシビアな状況になるだろう。それまで食事や睡眠などは、多少無理をしてでもしっかりととっておくべきであったから。

「口に合ったようだね、よかった」

「あ、ああ、もちろん。君のセンスの良さはセフィロスから聞いている。店の雰囲気もいいし、料理も申し分ない」

「へぇ、セフィロスが君にそんなことをね。彼のほうは一方的に、君の手料理を誉めていたけど」

 あながち冗談でもなく、ジェネシスはそう言った。

「え……あ、ああ、いや。ただ単にめずらしかっただけだと思う。自炊した経験が少ないせいだろう」

「あくまでもご謙遜というのが、とても君らしいね、ヴィンセント」

 笑みを浮かべながら、そういうと、彼は穏やかな声音で私を促してきた。

「……それで? 君のほうから何か話があるのだろう?」

「え……あ、ああ」

「もちろん、今回の一件のことだと思うが……」

「そ、そうなんだ。あの場では口にしにくかったから」

 私はそう前置きをして口火を切った。

 

 

 

 

 

 

「あの……あの場に君も居ていくれたから、セフィロスなどは当然君も協力者だと考えて疑いないようだが…… そ、その……」

 言葉を選んでいる私を、彼はなんとなく微笑ましげな表情で見守ってくれていた。

「聡明な君には、社の意向に逆らうことが、何を意味するのかはわかっていると思う」

「ああ、それはそうだね。おそらくプレジデントは我々の期待通りには動いてくれ無かろうから、結果的に神羅に背くことになるだろう」

 何の躊躇もなくそういうジェネシス。ソルジャークラス1stという地位まで上り詰めた彼が、本当に何の葛藤もないというのだろうか。

「き、君は本当にそれでよいのか……?」

「……? なにがだい?」

「本社の総意に背くとなれば、当然社には居られなくなる。つまり職を失うということだ」

「まぁ、その可能性は高いかな」

「年若い君が、そんなにあっさりと言ってはいけない!」

 ついつい年長者として、深刻な口調になってしまった。

「君は神羅のソルジャークラス1stだ。全社的にも特別の立場にあるし、なにより軍人としての未来がある。君の正義感は甚だ尊いものだが、それによって君の将来が閉ざされるのは、本当によいことなのだろうか」

「それをいうなら、セフィロスだってソルジャークラス1stだよ、女神。世間的にはあっちのほうが名前が売れているだろうし、はははは」

 のんきに笑いながら、そんなことをいうジェネシス。

「ジェ、ジェネシス!これは君の将来に関わる非常に重要な問題なのだぞ……!」

 怒るつもりではなかったのだが、彼の飄々として動じない態度に、こちらのほうがのぼせ上がってしまっていた。

「セフィロスは……セフィロスには十分過ぎるほどの事情がある。彼の最愛の少年が囚われていること…… 仮に私から事情を聞かなかったとしても、彼ならば原因を突き止めて、かならず救出に向かうだろう。協力者などいなかろうと」

「そうだねぇ、セフィロス、チョコボっ子のことは本気みたいだからね」

 まだ、私の言いたいことがわからないのか、しみじみとした口調でそんなことを言っているジェネシス。

「だが……君にはそうした、切羽詰まった事情はないだろう?」

 私は身を乗り出してくどいた。

「君の正義感はとてもすばらしいものだ。さすがにソルジャークラス1stの青年だとも感じる。だが……だからこそ、君の能力を十分発揮できる地位にいる今だからこそ、軽率な行動は慎むべきでは無かろうか?」

 熱心な説得に、彼は少し吃驚したような面持ちで、きょとんとしていた。

 私はどう云ってやれば、理解してもらえるのかと散々考えての発言だったのだが……

「え、ええと、だから、つまり、君に切実な事情があるわけでもないのに、今持つものをすべて捨て去る必要はないのではないかと…… ああ、だからそれが職であるとか、ソルジャークラス1stという立場とか……君の今ある環境を容易に捨て去るには、動機が弱すぎるのでは無かろうか!」

「あ、ああ…… ふふ、めずらしくもしゃべるね、女神」

「わ、私は前途ある年若い君に、一時の同情や感情の揺れで、重大な謀反に加わるべきではないと思う。どのように言葉を飾ろうと、カンパニーのトップの意向に逆らうのなら、それは謀反なのだ。……おまけに、我々の考え通りにコトが進むという保証もない」

 もちろん、命がけでクラウドらを救うつもりではある。

 だが、「そのつもり」と実際の現場では、まったく事情は異なり、いくらでも想定外のハプニングが起こるものなのだ。