〜 午 睡 〜
〜コスタ・デル・ソル in ストライフ一家〜
<46>
 
 ヴィンセント・ヴァレンタイン
 

 

 

「こうしていても仕方がないだろ。そのあたりを回ってみるか」

 と、今すぐにでも飛び出したい様子なのが、セフィロスだ。

 それはそうだろう。彼にとっては最愛の人が囚われているのだから。

「……気持ちはわかるがそれはまずい。君やジェネシスは顔が売れすぎている。下手に周囲をかぎまわって、テロリスト共に知られたら元も子もないぞ」

 そう言ったのはツォンだった。セフィロスには気の毒だがそれについては同意だ。

 神羅のトップソルジャー、セフィロスとジェネシスを知らない者などいないだろう。

 ミッドガル周辺に住む人々にも、彼らの存在は十二分に認知されているが、都会的なマナーの良さで、ミーハーな行動に出る輩は居なかろうが、人目を引くのはいつものことなのだ。

「そうだな。ツォンのいうとおりだろう。こういった仕事はタークスが適任なのだが、今度ばかりは神羅の人間には頼れないから……」

 ため息を吐いてもいいことはないのだが。ついついおのれの無力さに愚痴がこぼれる。

「……っつーか、待てよ。クラウド救出作戦のメンバーは誰なんだよ。ホントにここに居る連中がそうだと思っていいのか?」

「……修習生救出作戦、だ。セフィロス。私はヴィンセントが実行するというのなら協力する。つまり間接的ではあるが、君とも同じ目的を持っている者同士といえぬこともない」

「アンタは回りくどいんだよ、ツォン! ジェネシス、当然オメーも協力するんだろうな。こんな場合だ、例え変態詩人の手でも借りたい」

 ごく当然のようにいうセフィロス。彼は命令違反というリスクを本当にわかっているのだろうか。

「やれやれ、セフィロス。当然だろう」

 とジェネシスが答えた。今さら何を訊くのだと言わんばかりに。

「……君たち。まずは明日、プレジデント神羅が帰社した後、彼の意向を伺おうと思う。いずれにせよ、今、無計画に動くのは好ましくない」

 なんせ、話を聞いたのが数刻前だ。

 タイムリミットが決まっている現状ではあるが、だからこそ少ないチャンスを最大限に活かさなければならない。

 

 我々はふたたび、この会合を明日にもつという約束の下で、いったん解散することにした。どこに人の耳があるかわからない。

 セフィロスやジェネシスが、長時間この部屋に居るのも、勘ぐられる可能性はあるのだから。

 

 

 

 

 

 

「ジェネシス。……ちょっと、その……」

 私は背の高いその人物に声を掛けた。

 セフィロスは、我々のことなど待たずに思案顔で、さっさと出て行ってしまっていたから。

「なんだい、女神。君の用件なら、いつでも俺の時間をプレゼントするよ

 と、いつもの調子で対応するジェネシス。

 それにゴホンとツォンが咳払いをする。

 ……プライバシーの問題もあるし、ツォンには申し訳ないが、ジェネシスと食事をしてくると言い置いて、執務室を後にした。

 思いの他、時間が経っていたのだ。

 夜のとばりはすでに降りており、我々の心情とは裏腹に、夜空には星が瞬いている。

 ……もっとも、不夜城ミッドガルでは、あまりよく見えはしなかったが。

 

「すまない、ジェネシス。君の都合も聞かずに勝手なことを……」

 ふたりきりになったところで、私はそう謝罪した。一方的に彼を連れ出したのは私だったから。

「何を言っているんだ、女神。覚えていないのかい? さっき俺は君を夕食に誘いに行ったんだよ。むしろ誘いを受けてもらえて礼を言いたいのはこちらのほうだ」

「ありがとう……」

 そんな彼の気遣いが嬉しくて、やはり私は礼を言ってしまった。

「さて、話があるのだろうけど、せっかくのふたりきりの夕食を楽しんでもいいだろう?」

「え……、あ、ああ、それはもちろん、私も……」

「気に入っている店があるんだけど、付き合ってもらえるかな。ああ、大丈夫。いつも個室を取ってもらえる場所だから」

 私の気がかりなど、当然のように気づいていて、先回りしてそう言ってくれた。

 どうしても先ほどの話をせざるを得ない。

 ……となると、まかり間違っても誰かに聞かれるわけにはいかなかったから。

 

「ヴィンセント、君、食べられないものはある?」

「え……あ、い、いや、特に好き嫌いは……」

「そうかい? 君はあっさりとしたものが好きだったよね。今日の店はフレンチの創作系なんだが、気を張らずに楽しめると思うよ」

 ……セフィロスがかなり気を張り詰めていたせいだろうか……?

 こんな状況なのに、夕食を楽しむ余裕のある、目の前の青年を、なんだかひどく頼もしく感じた。