〜 午 睡 〜
〜コスタ・デル・ソル in ストライフ一家〜
<45>
 
 ヴィンセント・ヴァレンタイン
 

 

 

「おいおい、ヴィンセント、呆けている場合じゃねーだろ! 泣きてェのはこっちだ!」

 苛ついたセフィロスの物言いで正気に返る。

「こら、セフィロス。まったくおまえはデリカシーがないね。女神がどれほどの気持ちで、俺たちに事情を明かしてくれているのか慮れよ」

「あ、ああ。いや、すまない。気が張り詰めていたものでつい…… 続きを話そう」

 私はすでに冷めた茶で喉を潤すと、ふたたび口を開いた。残されたわずかな時間で、最良の方法を模索しなければならないのだから。

「テロリスト側が提示した期日は、先に述べたとおりだ。だが、副社長は社長の不在を理由に引き延ばし工作をするつもりらしい。……もっとも、一日程度の時間稼ぎだろうが」

「チッ…… それじゃあ、どれほど余裕を見ても、三日程度が限界か……!」

 セフィロスが舌打ちした。

「そうだな。三日目の午前0時を指定してきているわけだから、せいぜい48時間くらいの余裕しかない」

 冷静な物言いは、ジェネシスである。

「おい…… タヌキ出腹ハゲオヤジが帰社したら、事態が好転するということは……」

「君らしくもない意見だ、セフィロス。社長がどういう人物なのか、君だとてよく知っているだろう」

 冷ややかな口調で割って入ったのはツォンだった。

「……そうだな、ツォンの言うとおりかもしれない。だが、私はルーファウス神羅と、社長に修習生の救出を優先するよう話をするつもりだ」

 私はそう言った。少なくとも私は神羅の社員だったから。

 そこだけは筋を通すべきだと考えた。

「それで聞き入れてもらえなければ、辞表を出す。その上で修習生を救出するつもりだ」

「お、お待ちください、ヴィンセント。なにもいきなり……」

「いや。それが筋だと思う。部門長補佐という立場で、社命には従えないと発言するのだから」

 いっそ清々しい気持ちで、私はそう言いきった。

「……それよりも、彼らの救出方法を考えねば…… 居場所さえ突き止められれば手が打てると思うのだが……」

「……さすがにそれは難しいでしょうね。テロリストと一言で言っても、様々な組織がありますから。アジトを突き止めるにしても、一筋縄ではいかないでしょう」

 タークスの主任として、何度もテロリストと対峙しているツォンが言った。

「だが……彼らは、十番魔晄炉の停止を要求してきているんだよね」

 とジェネシス。私への質問だと思ったので、即座に返答した。

「ああ、そうだ。十番魔晄炉は、神羅カンパニーの主電源を担っているからな。それが完全停止されれば、本社の管理機能はほとんどが役立たずになる」

「へぇ、十番魔晄炉ってそうだったのか」

「……知らないのはおまえくらいだよ、セフィロス」

「なんだと、この変態詩人が!」

「ふ、ふたりとも……」

 雲行きが怪しくなったところで止めに入ろうとしたが、さすがにこの状況でそのまま言い争うような彼らではなかった。

 

 

 

 

 

 

「新兵器の設計図うんぬんはともかくとして、十番魔晄炉の件は手がかりになるんじゃないか?」

 そういったのはジェネシスであった。

「……どういうことだ?」

「少しは自分で考えろよ、セフィロス」

「まどろっこしいのは好かん。気がついたことがあるならさっさと言え」

 つけつけとセフィロスが言った。こんな性格は私の知る彼自身にも共通している。

 決して考えのない人でも頭の回転が遅いわけでもないのだが、一緒にいる輩に知恵があるのなら、わざわざ煩わしい頭脳労働をしたくないという考え方なのだ。

「十番魔晄炉を完全停止しろと指示するなら、それをどういった形でにせよ確認はするだろうな」

 ツォンが独り言のようにつぶやいた。

「確認?」

「もちろん指示通りに停止させているかということをですよ、ヴィンセント」

「魔晄炉の停止は神羅本社の管理室からでなければ操作できない。実際動作しているか否かは、管理室のコンピューターを見るか、直接魔晄炉内に入ってみなければわからないはずだ」

「そこだよ、ヴィンセント。だから、連中はそれほど離れた場所に潜んでいるとは思えない。そもそも取引場所はこの近くなのだからね。魔晄炉の動作確認に、都合のよい、この近辺にいると考えるべきだろう」

 ジェネシスが言った。

「そうだな。だいたい修習生とは言っても男五人を確保しているわけだ。移動距離が長けりゃ、途中で逃げられる危険性が高くなる。そうでなくともアシがつく……とかな」

 セフィロスのセリフを終いに、ふたたび沈黙が落ちた。

 この近辺という予測はおそらく正解に限りなく近いだろう。

 だが、近辺とは一言で言っても、かなりの広い範囲でもある。神羅の兵隊を動かせるのならともかく、今回はその限りではない。なんせ、命令違反を前提の上なのだから。