〜 午 睡 〜
〜コスタ・デル・ソル in ストライフ一家〜
<44>
 
 ヴィンセント・ヴァレンタイン
 

 

 

「ヴィンセント、およしなさい! ……業務命令違反で断罪されたいのですか!?」

 ビクッと、背が震えた。

 私が不用意な発言をするのではと不安になったのだろう。ツォンが強い力で私を自分の側近くへ引き寄せた。

 情けない…… 私にとって神羅カンパニーなどどうでもよい存在のはずなのに。

 夢の中とはいえ、サラリーマン根性が身にしみこんでいるのだ。

「おいおい、おだやかじゃないな、ツォン」

 ジェネシスは表情だけ笑顔に取り繕いつつ、私の肩を抱き寄せるツォンの腕をとった。

 表情とは対照的に、まったく笑っていない双眸には、強い光が宿っている。

「だいたいそこまで言ってしまったら、何か重大な事柄があったのだと誰しもが感じるだろう。業務命令とやらが何を指すのかは知らないが、この場でバレてしまっても、それは女神のせいではないさ」

 ジェネシスは、私の身体をツォンから引き離すと、ごく自然に包み込むように抱き寄せた。もはやひとりで立っていることさえ容易でなかった私は、為されるがままに彼に寄りかかった。

「可哀想に、ヴィンセント。いったい何が君をこんなにも追い詰めるんだい? 話してしまって楽になれるのなら、俺たちに言ってくれたまえ」

 ジェネシスは、その場に我々以外の何者もいないかのように、愛おしげに私に語りかけてきた。

 

 ……ああ、そうだ。

 何も隠すことなどないではないか。

 いずれにせよ、私はカンパニーの総意に背くことになるのだから。

 どのような手段を執ろうと、私は必ずクラウドを助けにゆく。その気持ちに迷いはなかったのだから。

 

「セフィロス……ジェネシス…… 君たちには話しておきたい」

「ヴィンセント!」

 割って入ったツォンを、セフィロスが怒鳴りつける前に、私は先を制した。

「ツォン、すまない。私はカンパニーには従えない」

「ヴィ……ヴィンセント……?」

「口を閉ざせという業務命令を守れないからではない。……いずれにせよ、此度の件で私のとるべき道はひとつしかないのだ。それはもう……決めていることだから」

 激することもなく、声を震わせることもなく、私はごく当然のことを穏やかに口にしていた。ツォンも気圧された様子で黙り込んだ。

 セフィロスとジェネシスをソファに座らせ、私は先ほど耳にした恐ろしい現実を説明した。

 

「……クラウドら、修習生一班が帰社していない理由は……」

 

 

 

 

 

 

「…………ッ!!」

 私の話の途中で、セフィロスが弾かれるように立ち上がった。

「セフィロス、まだ女神の話は済んでいないだろう。……座れよ」

「……ッ!! ふざけるなッ! あのクソ野郎どもッ! ……連中皆殺しにしてやるッ」

「セフィロス、落ち着いてくれたまえ。短慮は、かえってあの子たちの身を、危険にさらすことになる」 

 私は穏やかにセフィロスを諫めた。

 むしろ彼が激しているおかげで、こちらのほうは潮を引くように冷静になっていた。

「……女神のいうとおりだ。今は彼らを無事に救い出すことが最優先だ。話を続けてくれ、ヴィンセント」

 ある意味、第三者的な立場であるジェネシスは、最初から冷静だ。こういうときには、我が家のヤズー並に頼りになる青年である。

「……テロリスト側の引き替え条件は、先ほど述べたとおりだ。社長が不在ということで、とりあえず会議はそこまでで終了した」

「『そこまでで終了』!? 修習生の身柄について言及する輩はいなかったのか! あいつら、ガキどもの命を何だと思っていやがる!」

 セフィロスが力任せにテーブルを叩いた。分厚いガラステーブルが、割れるのではないかというほどの、振動が伝わってきた。

「セフィロス、大声を出すな。他の連中に聞かれると厄介だ」

「ジェネシス! まさかテメェもクソ副社長どもと同じ考えなんじゃねぇだろうな!コソコソと上層部で内密に終えようとしているなら、むしろ全社にバレたほうがいいくらいじゃねぇか!」

「頭を使えよ、セフィロス」

 やや呆れたように、ジェネシスが諭した。

「神羅カンパニーがいったい何人の社員を抱えていると思っているんだ。皆がパニックに陥れば、俺たちだとて、どうしようもなくなるぞ。……ルーファウス副社長らの考えに同調する気はさらさら無いが、少なくとも社外に知られるのは得策ではない」

「……そうだな。テロリストを刺激するのはよくないだろう」

 と、ツォン。

 私は思わず傍らに立つ彼を見上げてしまった。ルーファウスの側付きとして、幼少の頃から仕えていた彼は、どう考えても私のしていることに賛同するとは思えなかったから。

「どうしました、ヴィンセント。……意外そうな顔をなさって」

 苦笑混じりに訊ねてきたツォンに、先ほどまでの険しげな空気はもうなくなっていた。

「あ……いや、君はその……」

「私は貴方の第一の部下であり、……友人ですから」

「ツォン……」

「私は自分自身の考えで、貴方の意志に従います」

 ……ああ、こんなときなのに。

 涙を流す余裕など皆無である、切羽詰まった状況に変わりはないのに。

 自らの立場を顧みず、私を勇気づけてくれた彼に感謝した。