〜 午 睡 〜
〜コスタ・デル・ソル in ストライフ一家〜
<43>
 
 ヴィンセント・ヴァレンタイン
 

 

 

「……ヴィンセント」

 沈黙が落ち、そして新しい紅茶をテーブルに置いたとき、彼はふたたび私の名を呼んだ。

「なんだ……?」

 私は心ここにあらずの状態で返事をした。

「……滅多なことは考えないでください。私は正直、それが一番心配なのです」

「バカな……いったい何を考えると……?」

「……ならばよいのです。よけいなことを申し上げて済みませんでした」

 ツォンは茶器をかたづけようと立ち上がった。

 私はもはやため息さえ吐く余裕もなかった。頭ががんがんと痛み、思わずこめかみを指先で押さえた。

 と、そのときである。

 遠慮会釈ないノックの音。

 

 トントントン!

 

 ツォンが不快そうに眉を顰めた。

 私が本社で補佐官の職務に就いてから、三月ほどになる。徐々に周囲に打ち解けられたので、来訪者も増えているのだ。

 

「……あ、はい。どうぞ」

 誰が来たのかは知らぬが、ツォンは取り込み中と断るつもりだったらしい。

 戸惑うようなそぶりを見せたが、致し方なくドアを開けてくれた。

 

 

 

 

 

 

「やぁ、女神ごきげんよう! 今日の夕食の予定はどうなっているのだろうか? よければ君をエスコートする名誉を、俺に与えてくれないか?」

 まるで定例行事というように、花束を抱えて顔を出したのは、おなじみのジェネシスであった。

 いつもなら笑顔で迎えられるのだが、あまりに場違いな登場に、私はすぐに返事が出来なかった。

「おい、どけ、ジェネシス」

 そんな彼を押しのけるように身を割り込ませてきたのは、意外にもセフィロスであった。

 彼は何度か私の私室に顔を出してくれることはあったが、執務室に来ることはなかったのだ。

「悪ィ、ヴィンセント。ちょっとアンタに訊きたいことがあってな」

「え……あ…… あ、あのふたりともとりあえず中に…… な、なにか淹れるから」

 不満顔のツォンも、副社長に口止めをされている手前、今日だけ特別な態度に出るわけにはいかなかったのだろう。不満をありありと表情に出しながらも、出入り口から一歩引いてくれた。

「あのよ、ヴィンセント。アンタ、最近、クラウドと会ったりしているか?」

「え……?」

 思わずびくりと背筋が震えた。

「もう研修から戻っているはずなのだが、教室に顔を見せていないようなんだ。ザックスにも訊ねたんだが、寮に戻っていないんだと」

「……すまないが、君たち。ヴィンセントはたいそうお疲れだ。業務上の用件がないのであれば、お引き取り願いたい」

 固い声で、拒絶の意を表したのは、もちろんツォンだ。私が平静でいられないことに気づいているのだろう。

 だが、相手はセフィロスとジェネシスだ。当然一筋縄で引くような人たちではない。

「おやツォン。居たいのかい? すまないが、俺は君ではなくて女神と話しているのだよ」

「ウゼーな、タークスの小姑。テメェなんざに用は無ェ。すっこんでろ」

「あ、あの……」

「ヴィンセント、アンタ、なんか知らねーか? 他に訊けるヤツはもういないんだよ。エデュケーションの学部長の姿も見えねーしよ。なんか胸騒ぎがしてな」

「セフィロス……! 私は……」

 身を乗り出した私の肩を、ツォンが引き寄せた。

「ツ、ツォン……」

 

「ヴィンセント。およしなさい! 君たち、部屋を出て行ってくれ! 部門長命令だ!」

「うるせーな、どけよ! オレはヴィンセントと話しているんだ!」

 セフィロスがツォンの胸ぐらを掴み上げた。

「アンタら、何か知ってんだな? クラウドだけじゃない。あの子の所属している班員全員が寮に戻っていないそうだ。実習が長引いているだけなら、普通にそう答えりゃいいだけの話だろうが」

「ち、違うのだ、セフィロス。ク、クラウドは…… クラウドは……!」

 セフィロスにウソはつけない。

 彼がクラウドに寄せる気持ちを、ずっと以前から知っているのだから。

 例え夢の中でも……彼を裏切ることはできない。いや、私自身がしたくなかったのだ。