〜 午 睡 〜
〜コスタ・デル・ソル in ストライフ一家〜
<38>
 
 ヴィンセント・ヴァレンタイン
 

 

 

「おいおい、ジェネシス。招かざる客はまさしくテメェだろ。おまえまさか、毎朝花束抱えてこの部屋に通ってんじゃねーだろうな」

 さもあきれかえったという口調でセフィロスがため息を吐いた。

「平日は執務室に行くさ。彼は出勤時刻が早いようでね」

「……まったく、セフィロスもジェネシスも!! ソルジャークラス1stの連中はッ!」

 叩き付けるようにツォンがつぶやいた。

「どうして、こうも非常識な輩が多いのだッ! ヴィンセントがきつい物言いができないからといって、そこにつけ込むような……!!」

「ツ、ツォン…… それは……そんなことはない。彼らは別に悪気があるわけではないのだから……」

「貴方が……ッ! 貴方という人が、そんなふうだから! こうして部下がつけあがるのです! 上官に招かれたときでなければ、私室を訪ねるなどという、大それたことはできなかった。それをこうも自己中心的に…… おまけにセフィロスなど、ここに宿泊したというではないか!」

「ツ、ツォン……」

 タークスの風習というべきか、ツォンの世代にありがちなのだが、彼らは上下関係を非常に重んじる。目下の者、階級の下の者が傍若無人にふるまうのに、我慢がならないのだ。

 それでも、これまでずっと辛抱してきたのだろう。だが今のセフィロスらとのやりとりで、こらえていた不満が爆発したのだろう。ツォンは厳しい口調で、年下のソルジャー2名を、きつく罵った。

「いや、ツォン……聞いてくれたまえ。君が怒るようなことではないのだ」

「……いや、ちょっと俺も怒り心頭に発するという感覚なんだけどね、女神」

 クリームイエローの美しい薔薇をテーブルに置くと、ジェネシスは低くつぶやいた。

 ひやりと冷たい汗が背筋を伝わる。

 ジェネシスとツォンはあまり馬が合わないらしいのだ。まさか手を出すようなことはなかろうが、私の態度が原因でふたりが本格的に仲違いするのは困惑してしまう。

「ジェ、ジェネシス……! ツォンは……」

「俺が気になっているのは、君の部屋で、おそらく君のものであろうローブを纏っているセフィロスのほうだよ」

「え……あ、あの……?」

 私が言葉を挟む余裕すらなく、さらに上目線で宣うジェネシス。

「セフィロス。……どういうことかな、これは。俺はチョコボっ子のことでも、ずいぶんとおまえに協力してやったはずだけど?」

「ったく恩着せがましい野郎だ。別にオレがヴィンセントの部屋にいたっていいだろ。なんか文句あるのかよ」

 ツォンに対してはからかい口調だが、ジェネシスは同格と思っているのだろうか。セフィロスの物言いが先ほどとは打って変わった。

「出会ったその日から、俺が女神のことを愛しているというのは知っているはずだな?」

「あ、愛って…… あ、あの……君……」

 私はひどく動揺した。

 陰気で内気な私は、他人に煙たがられることはあっても、好かれたことはなかったから。ましてや、目の前でこんなふうに言われるのは、それこそ前代未聞のことで…… ああ、コスタ・デル・ソルの私の知る世界では、クラウドとジェネシスだけは、奇特にも私のような人間を好むと公言していたのだが。

「あー、そーそー、一方的にな」

 というのは、素っ気ないセフィロスのセリフだ。

「……だからこそ、今は誠意をつくして、彼の気持ちを俺に向けるために努力しているんだ。親友のおまえがその邪魔をするなんて……」

「誰が親友だ。気色悪ィんだよ」

「セ、セフィロス…… そんな言い方は……」

 あまりに遠慮会釈無いセフィロスのセリフに、フォローを入れるつもりだったのだが、ジェネシスもセフィロスも私の発言を気に止めてくれない。当事者のわりには、黙殺されがちであった。……声が小さかったからかも知れないのだが、性分なので致し方がない。

「あ、あの、ジェネシス。それから、ツォンも。セフィロスはな、昨夜…… そ、その具合を悪くしているところを、ちょうど私が通りかかったのだ。遅い時間だったし、心配だったから私の部屋に入ってもらった。ほ、ほら、夜中に気分が悪くなったら、誰かがついていたほうが安心だろう? だ、だから……」

「具合を悪く? 飲み過ぎで泥酔したんじゃないか、セフィロス?」

 とするどい発言はジェネシスだ。

「あ、い、いや、確かに酒も飲んだのであろうが…… そ、その、微熱があったのだ。風邪の引き始めだったのではないかと思う」

 私は必死に愚鈍な頭をフル回転させた。

「そうそう。テメェらが勝手に勘ぐっているだけだ。このモテない被害妄想男どもめ!」

 ケラケラと嘲笑するセフィロス。ああ、もう、子供ではないのだから。

 それに、あまりにも元気にされてしまうと、風邪であったという発言の信憑性に疑問が生じてしまうではないか。

「……ヴィンセント……ほ、本当にそうなのですか? 万一にもセフィロスをかばっているわけでは……」

「もちろん、ウソなどついていない。本当は君を呼ぼうかと考えたのだが、昨夜は遅かっただろう? だからきっと疲れていると思ったし……」

「ああん? なんでわざわざオレのことでツォンに声を掛けるんだ!? オレとふたりきりじゃ心配だとでも!?」 

 おかしなところで機嫌を損ねるセフィロス。

「……そうではない。君は……その……重かった……から。ベッドに寝かすのに、少々難儀した」

 と正直に答えると、彼はこれまた素直に。

「……悪ィ」

 とつぶやいた。

「な、これが昨夜の話だ。ふたりとも理解してもらえただろうか?」

「…………」

「…………」

 二人揃って腹の内を探るように沈黙する。ひとり勝ち誇ったような意味不明の笑みを浮かべているのはセフィロスだ。

「話を聞けば単純なことだろう? さぁ、皆、仲直りしてくれたまえ」

 私は極力にこやかに、ツォンとジェネシスに微笑みかけ、セフィロスにはキーカードを、そしてツォンからはディスクを受け取り、ジェネシスからは大きな花束をもらった。

 

 数分後、私の部屋には静寂が戻ったわけであるが、男性三人が退席した室内は、がらんとして、ひどくだだっ広く見えたのであった……