〜 午 睡 〜
〜コスタ・デル・ソル in ストライフ一家〜
<37>
 
 ヴィンセント・ヴァレンタイン
 

 

 

「あ、あの、ツォン。ごきげんよう。わざわざ……」

 敢えて平静を装いツォンに声を掛けた。

 私の私室に、いかにも風呂上がりといわんばかりにバスローブを羽織ったセフィロスが居るのは確かに物珍しいシチュエーションであったといえよう。

 あくまでも第三者的には。

 だが、私もセフィロスも男性同士なのだし、彼が私の部屋に泊まったとて、あらぬ誤解をするほうがおかしいくらいで…… ああ、もちろん、同性に惹かれる人を異端視するという意味ではなく、世間一般的な解釈としてはだ……

 私がいろいろと考えを巡らせている間に、

「セフィロス……ッ!」

 と、ツォンがうめくような声音で、悠然とソファに座っている人物に声を掛けた。

「よぉ、なんだ、朝っぱらから。今日は休みだろ、小姑」

「セフィロス……どうして……君が……」

「あ?」

「君のほうこそ、どうして朝っぱらから上官の部屋にいるのだ!? しかも、そんな格好で……!」

 ツォンは持参してきたCD−Rをサイドボードの上に置いた。握りしめていたら、そのままバキリと折ってしまいそうな迫力だった。

 だが、詰問調の物言いが、セフィロスには引っかかったのだろう。

 私のよく知っている嫌みたっぷりな、意地悪い微笑を浮かべると、口唇を歪めるように持ち上げた。

「クッ…… はぁ? 別に? オレがヴィンセントの部屋に泊まろうと、一緒のベッドで眠ろうと、ローブを借りようと、アンタにゃまるきり関係ねーだろ?」

「なッ……」

 絶句するツォン。それに勝ち誇ったように笑うセフィロス。

 ああ、まったく子供のケンカじゃあるまいに。どうして、互いに攻撃しあうような話し合いしかできないのだろうか。

 

 

 

 

 

 

「よ、よしなさい、セフィロス。違うんだ、ツォン…… これには事情があって、ひどく単純な理由なのだ」

「ヴィンセント! 貴方はこのような下品な男が好ましいのですが!? おのれの欲求にばかり忠実で、ヒマさえあれば玄人連中を相手にしてきたこのような不誠実な……!!」

 私の語りかけを振り切るように、ツォンが一挙に言いつのった。いつもは怜悧な光を宿している黒い双眸が、今はぎらぎらと熱を持っているようだ。

「こんな下世話で動物的な輩が……ッ!」

「あ、あの、ツォン……」

「なんだと、テメェ、もういっぺん言ってみろ!」

 セフィロスの纏う空気が剣呑になってきた。さすがにここまで侮辱されれば、不快に感じるほうが当然だ。

「ああ、何度でも言ってやろう、セフィロス! 君の恋の相手は男女を問わず、両の手にあまるほどだろう! だが、遊び相手に選んでよい人間とそうでない人との区別くらいはついているものだと思っていた!」

「ツ……ツォン…… 待ってくれ。そ、そんな私は……」

「ヴィンセント、貴方も貴方だ! ご自分の身を大切にしてくださいッ! 無理矢理誘われたなら、すぐに私を呼んでくれればよいのに! 不肖、このツォン、尊敬する貴方のためならば、例え刺し違えてでも……」

 さらにヒートアップする部下の青年を、私は必死に宥めにかかった。

「ち、違う! 物騒なことを口にしないでくれたまえ! だから、これは、君の誤解するような話ではなくて……」

「ほぅ、刺し違えてでもね。おまえがオレに、手傷のひとつでも負わせられるとでも思っているのか、ツォン」

 ケッと悪態をついて鼻で笑うセフィロス。こんな彼の表情は、コスタ・デル・ソルの日常でもよく見る。

「この……ッ!」

「ツ、ツォン、落ち着いてくれたまえ! セフィロスもよしなさい、彼を煽るようなことを言うのは!」

「こいつが勝手に押しかけてきてキレてんだろ。ムカツクんだよ、ちっとばかり年が上だからってよ、クソ偉そうに!」

「セ、セフィロス。ツォンは私の身を案じてくれているだけだ。普通に話をすれば容易に誤解は解けるではないか。わざわざ彼を怒らせるような物言いは……」

「勘違いしてわめいてんのはそいつだろ。ウゼーんだよ。『自分はなにも間違ったことはしていません、部下としてヴィンセントが大事です』って大義名分ちらつかせやがって」

 吐き捨てるようなセフィロスの物言い。遠慮無い言い回しは確実にツォンの急所をついたようだ。その証拠に、彼の顔色が変わった。

「なんだと……!?」

「まだ、なりふりかまわない変態詩人のほうがマシだぜ。少なくともあいつは自分の気持ちに正直だからな」

「わ、私は……! 私はジェネシスのような、よこしまな気持ちでは……!」

「へー、ジェネシスの恋愛感情はよこしまなのかよ。あいつは正直に自分の気持ちを口に出しているだけじゃねーか。アンタみたく上官だの部下だのって、大義名分を引っ張り出してくっついている野郎よりは、はるかに潔いと思うがな」

 セフィロスの中傷に、ツォンの白い面がカッと上気した。

「ち、違う……! 私は純粋にミスタ・ヴィンセントを尊敬しているんだ! だからおまえたちのような、遊び好きの輩のターゲットにしたくはなかったんだ! 繊細なこの人を自分勝手で自己中心的で、乱暴で下品なおまえたちには、必要以上に関わらせたくなかったのだ!」

「ハ……ずいぶんな言われようだぜ。……なぁ、ジェネシス」

 と、セフィロスが嗤った。開け放しだった扉の方に向かってだ。ついつい意識がソファに転がっているセフィロスと、その真横に突っ立っているツォンにばかり向いてしまっていた。

 

「ジェ、ジェネシス?」

「……女神……朝摘みの薔薇を届けに来たのだが……これはいったいどうしたことだい?」

 ひどく神妙な口調でジェネシスがつぶやいた。

 ああ、千客万来とはこのことだ。しかもいずれも真似かざる客……などといってしまっては言い過ぎだろうか。

 もちろん、セフィロスもジェネシスもツォンも、皆大事な同僚であり、友人だと思っているのだが、一堂に会して招こうとは思わない人たちなのである……