〜 午 睡 〜
〜コスタ・デル・ソル in ストライフ一家〜
<35>
 
 ヴィンセント・ヴァレンタイン
 

 

 会話が途切れると、彼はまたのんびりと茶をすすった。

 重苦しくない沈黙は、むしろほっとできる時間であり、私にとっては心地よいものであった。

 ……正直、昨夜の事情を訊ねたかったのだが…… ああ、もちろん、下世話な覗き趣味ということではなく、泥酔するほどに飲んでしまった理由があるのではないかと……

 これも、覗き趣味と言われてしまえばそのとおりなのだが。

 

「ああ、そうだ、セフィロス。デザートを食べよう。君は甘い物は好きではないかもしれないが、さっぱりしたものを作ってみたから」

「デザート?」

「簡単なものなのだが…… ああ、少し待ってくれたまえ」

 と断り、私は冷蔵庫から蓋付きのガラスプレートを取り出した。取り分けようのナイフなどはすでにテーブルにセッティング済みだ。

 私は彼の前にプレートを置くと、そっと蓋を開いた。

「ヘェ…… 綺麗なもんだな」

 とセフィロスがつぶやいた。

 グレープフルーツと夏みかんを、ゼリーで固めた洋生菓子だ。スミレとリラ・ローズのトッピングもそれなりに綺麗にできたと思う。

 切り分けて差し出したところ、セフィロスは物珍しそうに、クリスタルフラワーを指でつまみ上げ、じっと見つめていた。

「これ……なんだ?植物?」

「ああ、淡い紫のものが、スミレの花びら、ピンクはリラ・ローズだな。花びらを砂糖づけにしてあるのだ」

「ほぅ…… 食えるのか?」

「あはは、もちろん。洋菓子のトッピング用のものだから」

「冷たくて……美味い」

 彼はあっという間に皿を綺麗にしてしまい、私はすぐに二切れ目を差し出した。

「オレ、グレープフルーツ好きなんだ。美味いな、これは。甘すぎないから、いくらでも食えそうだ」

「そうか…… よかった」

「もっとくれ」

 遠慮無くお代わりをせがむ彼に、笑みを返しつつ、私はできるだけさりげなく訊ねてみた。セフィロスが答えにくそうだったら、それ以上追求しない姿勢で。

 

 

 

 

 

 

「……昨夜、君の姿を見つけたとき、暗かったから誰だかわからなくてな」

「ああ、ここ、廊下の電気点いてなかったな」

「銀の髪に気付くと、すぐに君だと認識したのだが…… 心臓が止まるかと思った」

 私はそう言って悪戯っぽく笑って見せた。決して深刻な話ではないという雰囲気で。

「……呼びかけても答えてくれないし。まさかどこか具合が悪くて歩けなくなったのかと…… むしろ酔っていたせいだとわかって安心した」

「……そんなに飲んだ覚えはなかったんだがな」

 セフィロスは独り言のようにそうつぶやくと、はぁと深く吐息した。

「ああ、いや、別に気にすることはない。若い頃は思いがけず深酒をしてしまうものだ」

「…………」

「ただ、セフィロスは酒が強そうに見えたから。そんな君があんなふうに酔うなど……なにか気に病むことでもあるのではないかと考えてしまったんだ。フフ、ただの老婆心だ。気にしないでくれたまえ」

「あー、まぁな、最近はあまり夜に飲み歩くこともなかったんだけどよ。晩飯、社食でクラウドたちと食ってたから。ああ、毎日じゃないけどな」

 彼はもう5皿目のゼリーにスプーンを入れながら、ぼそぼそとつぶやいた。

「今、クラウド……いや、修習生は現地実習が立て込んでいるんだ。休日もないような雰囲気でな」

「あ、ああ、そうか」

 昨夜の泥酔とクラウドの実習に因果関係があるのだろうか? 私は大人しく続きを待った。

「まぁ……冬場は天候の関係で実習に向かないから、気候の関係で前期が中心になるのもわかるんだが…… さすがにつまらんな」

 思わず、プッと吹き出しそうになり、私は気取られぬよううつむいた。

「……その、休日などはいつもクラウドと?」

「いや、必ずしも休みが重なるわけではないから。それよりこの前みたいに、平日、仕事が終わってから一緒に食事に行ったり、部屋に呼んでやったりしていたのだが」

「ああ、なるほど」

 私は頷いてみせた。

 泊まりがけの演習でなくとも、授業に実地訓練が組み込まれれば、座講のように決まった時間に終了するとは限らない。となると、時間を合わせて食事に出る……などという予定は組みにくくなる。

 クラウドの問題だけではなく、セフィロス自身も多忙な軍人なのだ。

「……昨夜は約束をしていたのだが、結局無理になってな。退屈だったからいきつけの店に飲みに行ったんだ」

「ああ、そうだったのか。……残念だったな」

「自分では、それほど飲んだという感覚ではなかったんだが……」

 言い訳というわけでも無かろうが、セフィロスはぶつぶつとつぶやいた。

「……疲れが溜まっていたのではなかろうか。もしくは体調がよくなかったとか。そういったときは酒が回りやすくなるからな」

「別にそんな感じではないんだが…… あー、だが、それなりにストレスは溜まるかな。約束したのに会えないとか……そういうことがあると」

「……そうだな。今日は休日だし、ゆっくり休めばいい。修習生の実習が落ち着けば、あの子もまた君と一緒に出かけたりという楽しい時間を持てるはずだ」

 私はそう言って彼の気持ちを引き立てた。