〜 午 睡 〜
〜コスタ・デル・ソル in ストライフ一家〜
<33>
 
 ヴィンセント・ヴァレンタイン
 

 

 

 

 翌朝、だ。

 目覚ましを掛けはしなかったものの、私は午前七時前に起床していた。

 セフィロスの世話をしてから風呂に入り、ようやく眠りに着いたのは午前二時くらいだったと思うのだが、不思議なことに十分な睡眠時間を確保したときよりも、身体はすっきりと軽く、いっそ清々しいくらいの目覚めだった。

 傍らのセフィロスは、まだ深く眠り込んでいる。

 明け方くらいに気分が悪くなるのではないかと心配していたのだが、そういったこともなく、夜に寝かしつけてから今まで、一度も目を覚ました様子はなかった。

 額のタオルはもう乾いてしまっていて、枕の下に落ちていた。

「よかった……早くに薬を飲ませたのが効いたのだろう」

 ホッと胸をなで下ろし、念のためにセフィロスの額に手を当てる。

 ああ、大丈夫。発熱している様子はない。

 そっとベッドから降り、浴室に向かう。やはり一日の始まりにはシャワーを浴びなくては。

 それに今日はしたいことがあるのだ。それも朝一番で。

 寝室の扉をそっと閉め、私は為すべき事を始めに歩き出した。

 

 

 

 

 

 

 ふつふつと土鍋の中で米が踊っている。

 ここからが肝心なのだ。焦って強火にしてしまっては、鍋の縁に焦げ付きができてしまう。『おこげ』は炊いた飯だからこそ美味いのであって、水分多めのリゾットでは、ただの焦げたご飯になってしまうのだ。

 それから、サラダは海草をたっぷりと使ったものにする。ホタテをほぐしてからませれば、あおさやワカメ、めかぶなどが苦手な男性でも、口当たりがよく、食べやすくなるのだ。

 それから梅肉と紫蘇を挟み上げたチキンの素揚げ。衣を着けてもよいのだが、二日酔いの翌日ならば、あまり油分が多くない調理法のほうがよいだろう。チキンはやや薄めにそぎ、中身を挟んだ後、素揚げするだけでOKだ。特に味付けをする必要はないのだが、今日は軽く白ごまを振っておくことにする。

 赤ピーマンのババロアはもう冷えているだろうか。コンソメと塩で味を調え、冷やし固めると、食卓を飾る立派な一品になるのだ。

 さて、デザートは…… セフィロスは甘い菓子を食べる習慣などなかろうが、せっかくの来訪なのだから、テーブルを飾るためにも、華やかなものを作りたいと思った。

 私は焼き菓子をよく作るのだが、さすがに今回はやめておくことにする。もっと清々しい……そう、酔い覚ましの朝だからこそ、食べたくなるような、そんなものを作ろうと考えたのだ。

 

 忙しく手を動かしていると時間はあっという間に過ぎる。

 午前九時近くになった頃、寝室の扉が音も立てずにゆっくりと開いた。なんとなく躊躇した風な様子だったのは、セフィロスが完全に正気で、昨夜の出来事をおのれの失態だったと後悔しているからなのだろう。

「おはよう、セフィロス」

 彼が口を開く前に、私のほうから朝の挨拶をした。

「あ、ああ…… やっぱり……ここ……アンタの……」

「ふふ、私の部屋だ。よかった、具合が良さそうで」

「ああ、まぁな。……その……」

 謝罪をすべきだと思っているのだろう。私がどう考えていようと、この世界では、彼は部下であり、私は上官なのだから。

「風呂が沸いているから、入ってさっぱりしてきたまえ。ローブも浴室に用意してあるから」

「いや……悪ィ。こんな……メーワクかけるつもりじゃなくて…… オレは部屋に帰る」

「昨夜も迷惑でないと言っただろう? もし私を気遣ってくれるのなら、せめて朝食だけでも一緒にとってくれないだろうか。せっかく準備をしているのだから」

 そういうと、彼は形のよい眉をひょいと持ち上げた。驚いているらしい。

「朝食……? アンタが作ってるのか?」

「ああ、もちろん。君は私がここに来てから、初めてのお客さまだ。……さぁ、風呂に入ってきたまえ」

 さらにそう進めると、セフィロスはようやく納得してくれたのか、いつもの様子にもどって、

「ああ、わかった。ひとっ風呂浴びさせてもらう」

 と素直にそう言ってくれたのだった。

 彼が浴室に消えた後、デザートの飾り付けを手早く済ませ、それを冷蔵庫に戻した。冷やした方が美味しいお菓子だから。

 すでに洗濯を終えた彼の服を、丁寧にたたみながら、彼が風呂から上がるのを待った。