〜 午 睡 〜
〜コスタ・デル・ソル in ストライフ一家〜
<28>
 
 夢の中のセフィロス
 

 

 

「未調査区間−10%…… 居住区域インフラ整備82%…… 負傷者12名死者無し、損益分岐点…… ほぅ、たいしたもんだ、ずいぶんよくなっている」

 オレは執務室のソファに転がりながら、月度調査書を眺めていた。

「まったくだ。新しい部門長は優れた人物だな」

 さも感心した口調で、生真面目なアンジールが頷いた。彼の方はペラ一枚ではなく、分厚い調書をデスクに置いていた。

「見かけによらないとはこのこったな。……ふふ、ツォンの自慢げなツラが目に浮かぶぜ」

「いや、正直、着任されたばかりのころは、こんな線の細い人物に軍事部門長など大丈夫なのかと心配だったんだが……恐れ多い考えだった。わずか一月程度で、これほどの結果を出されるとは」

「なんでも休止状態の部隊に、タークスの若手を突っ込んでドブさらいしたようだ」

 ツォンから聞いた話だが、ヴィンセントは赴任当時にすでに計画を構築していたのだという。

「危険区域と認定されていた場所が、ほとんど指定解除になっている。居住区になれば、安価で市民に供給できるからな。おかげで神羅の人気も鰻登りだ。上層部としてはしてやったりという人事だったろうな」

「まったくだぜ。プレジデントが正式に部門長に据えると話をしたらしいが、ヴィンセントは固辞したらしい。……あそこまで出世欲のない男もめずらしいな」

 初対面の時からずっと感じていたことをオレは口にした。アンジールもそう感じていたのだろう。オレの言葉に深く頷き返した。

「まだ本社に勤務して一月しか経っていないからとおっしゃったらしいな。……ツォンも傍らでやきもきしたらしい」

「つくづくおかしな野郎だ。だが、社内での評価はこの上なく上々だ。もうしばらくすれば、さすがに昇進の話を断れなくなるだろうよ」

「社員の人望もすごいからな。知っているか? 上層部だけでなく、ごく一般の女性職員らの中でも赤丸上昇中なんだと。彼は独り身だからよけいにな」

「……アホくさ。どこからの情報だ」

「ハハハ、ザックスが教えてくれたんだ」

 昼下がりの午後、急ぎの任務もないオレたちはたわいもない話に花を咲かせていた。

 

 ソルジャークラス1stは現在三名ばかりの人員がいる。

 オレとジェネシス、そしてこの男アンジールだ。ソルジャーの中でも最上位に位置するクラス1stには、当然難易度の高い仕事が回ってくる。一旦任務に就けば、下手をすると一月も帰社できない状況さえある。

 それゆえ、フリーのときには比較的自由な時間の使い方が許されているのだ。

 

 

 

 

 

 

「……まったく節操のない輩ばかりだ。困ったものだね」

「うわっ! なんだ、おまえッ!」

 いきなり顔をのぞき込まれ、オレはソファの上でのけぞった。

「気色悪ィんだよ! 顔近づけるな!」

「ごあいさつだな、セフィロス」

「ああ、ジェネシス。仕事は済んだのか」

「まぁね、式典の護衛だからな。予定より早く終わったんだ」

 なまめかしい仕草で髪を掻き上げつつ、ジェネシスがこたえた。

「そうか、ご苦労。午後はヒマなんだろ。食事は? 済ませてきたのか?」

「それが……だ。聞いてくれ、ふたりとも」

 さも憤懣やるかたなしといった様子で、ジェネシスが勢いよくソファに腰掛けた。

「式の後、さっそく女神を食事に誘おうとしたのだが、ありとあらゆる輩に邪魔をされた」

「あー、ヴィンセント的には助かったろうな」

 オレの言葉を黙殺して、ジェネシスはさらに続ける。

「最初は上層部の連中が彼をとりまくようにしていたのだが、邪魔に入ってきたのは秘書課の女性たちなのだ。まったく女という生き物は執拗この上ない!」

「いや、おまえに言われたくねーだろ」

「女神もひどく困惑していた。なんせ彼の気持ちなどお構いなしに、囲い込まれてしまったわけだからな。だが、次にやってきたのは何者だと思う?」

「……知るかよ」

「式典の撤収に呼ばれた総務部の女性たちなのだ!」

 コイツ……普段は女に優しいフェミニストで通っているくせに、ヴィンセントのこととなると自制が効かないらしい。

「総務部など…… ヴィンセントは軍事部門の部門長なのだから、ほとんど接点などないはずなのに! だいたい女神の身の回りのことはツォンがしているのだ。総務の出番など皆無に等しい!それにも関わらず、人海戦術よろしく、秘書課から彼を奪い取ったのだ」

 ……女は怖いとはこのことだろう。

 三十そこそこで、軍事部門の部門長に抜擢されたヴィンセントの出世は、もはや約束されたようなものだ。

 しかも独身で、あの美貌。

 やや大人しすぎるが、人当たりも良く思いやり深い人物なのである。

 ましてや、赴任してわずか一ヶ月で、これだけの成果を上げられる実力ある軍人なのだ。

 女どもが未来の旦那にと、目の色を変えるのも道理というものだ。

「あっはっはっ。補佐官どのは大もてだなぁ」

「のんきなことを言うな、アンジール! 彼が魔女どもの毒牙にしてやられたらどうするつもりだ!」

「……いや、おまえみたいな変態に狙われるより、百万倍マシだろう」

 すかさずオレはつっこんでおいたが、またもやその言葉は右から左へと流された。

「それで、ヴィンセント殿は女子職員らに連れて行かれたのか、ジェネシス?」

「いや…… 後からタークスを引き連れて参上したツォンが奪い返した。タークスは社内でも不気味な暗殺部隊と恐れられているからな。そこの主任のツォンには、彼女たちも逆らえなかったようだ」

「なんつー、アホくさいバトル……」

 オレは心底呆れてそうつぶやいた。

「だいたいツォンは出しゃばりすぎだ。女神自身がタークス出身とはいえ、今は部門長なのだ。特にタークスにのみ所属するというわけではないのに!まるで執事だかなんだかのようにへばりついている」

「彼は心配性だからな。補佐官殿は人がいいし、他人の好意を無碍にできる人ではなさそうだ」

「おまえみたいな危ない野郎から、ヴィンセントを守ってんだろ。あー、バカバカしい。オレは今日はもう上がるぜ」

 暇つぶしで執務室に居たのだが、ジェネシスが来たなら話は別だ。

 部屋で昼寝でもしていたほうがずっとマシである。

 

 オレは適当な理由をつけて、部屋を出ると私室に戻ったのであった。