〜 午 睡 〜
〜コスタ・デル・ソル in ストライフ一家〜
<27>
 
 ヴィンセント・ヴァレンタイン
 

 

 

「上手くいかないという言い方は正しくない。時が満ちていないのだ」

「…………」

「今は、君たちが、これからふたりで歩んでいくための準備期間にあたるのだと思う」

 これからのふたりの未来を知る私は、自信たっぷりにそう告げた。

「クラウドが、君の前で緊張して、なかなか話ができないのは、ある意味当然ではないか。彼は君に憧れて神羅に入社したのだぞ」

「……だが、もう三ヶ月くらいは経つんだぞ。そろそろ慣れてくれても……」

「私に言わせればたった三ヶ月だ、セフィロス。幼い頃からずっと憧憬を抱いていた人物を目の前に、そうそう楽な気持ちで話掛けられると思うか? ましてや、個人的な悩み事など口にするのは躊躇してしまうだろう」

「……そういうもんか?」

「そういうものだ。私自身、そうだった」

 突っ込まれると困惑するのだが、これまでの実体験を元にそう言い切った。

 セフィロスがコスタ・デル・ソルの別荘に来てくれたとき、気持ちはものすごく彼の上にあるのに、なかなか口が聞けなくて、上手く話ができず、そんな私に呆れられるのではないかと、わざと彼を避けたときもあったくらいなのだ。

「……ふぅん」

「クラウドは君を目標に頑張っている。だから日常的な些細な問題を相談することは少なかろう。あの子が本当に軍人になるつもりなら、これから何度も大きな壁にぶつかるだろう。そのとき、君が側に居てやればいい。ただ手を貸すだけでなく、つらさ苦しさを受け止めてやれば、どんなにか彼は救われるだろう」

「……ヴィンセント」

「……無責任なことを言うなと叱られそうだが、君たちふたりはとてもよい関係になれると思う。それにすごくお似合いだ」

 お世辞ではなく私は本心からそう告げた。

 コスタ・デル・ソルという現在の世界で、クラウドの恋人という立場であるこの私が口にするのは、なんともおかしな発言だったかもしれないが、正直な気持ちだったから。

 金の天使と銀の髪の英雄のとりあわせは、端から見ても本当に美しく似合いに見えた。

 

 

 

 

 

 

「……アンタ、ずいぶん、一生懸命話してくれるな。仕事上でのやりとりより、ずっと熱心だ」

 彼は苦笑しつつそうつぶやいた。

 ……笑ってくれたので、私も少し安心した。さきほどまでは寝転がったまま、顔を見せてはくれなかったので。

「あ、い、いや……失敬。つい熱がこもってしまって」

「フフフ、いいじゃねーか。いきなり、こんな話をするつもりはなかったんだが、オレのほうも、つい口からこぼれ落ちた」

「話すことで気持ちが楽になるのなら、いつでも言ってくれたまえ。大したことはできなかろうが、聞き役くらいにはなれるだろうから」

「クラウドがアンタになつくのもよくわかる」

「え……あ、いや、そんなことは……」

「アンタはいい人だ。それに物静かなタイプだからかな。……側に居てくれると落ち着く」

 そういうと、セフィロスは寝転んだまま、じりじりと私の側ににじり寄ってきた。

 なんだろうと、あたふたしていると、彼は遠慮無く私の膝に頭を乗せた。

「ああ、気持ちイイ……」

 大きく息を吐き出すと、彼は両目を閉じた。氷のような双眸が光を失うと、まるで美しい人形のように見えるセフィロス。

「そ、そうか…… 君、時間は? 大丈夫なのか? 私は特に問題ないが……」

「オレも急ぎの用件はない。……ここんとこ、あまり寝付きがよくなくてな。眠い……」

 彼はほとんど独り言のようにそうつぶやくと、すぐに規則的な寝息を立て始めた。

 ……寝付きがよくないというのは、健康状態がよくないのだろうか。いや、というよりもむしろ『恋煩い』?

 

 セフィロスが恋煩い…… 

 そうだな。

 今、私の膝で眠る君は、私の知らぬ君だ。

 まだ年若く、道に迷う、ごくあたりまえの青年なのだ。

 

「大丈夫だ…… クラウドはきっと君を受け入れてくれる」

 低いささやき声は、すでに眠りの淵にあるセフィロスの耳には入りはしない。

 風に遊ぶ長い髪を撫で付け、私はそう語りかけたのであった。