〜 午 睡 〜
〜コスタ・デル・ソル in ストライフ一家〜
<26>
 
 ヴィンセント・ヴァレンタイン
 

 

 

「もちろん、彼のことは覚えている。金の髪の可愛らしい少年だったな」

「……ああ、そうだ」

 そう言ってから、セフィロスはらしくもない大きなため息を、ふぅっと吐き出した。

「……セフィロス……? あの子がどうかしたのか?」

 ふたたび、私の方から声を掛けた。

「クラウドは人見知りなんだ。……だが、アンタにはすぐになついただろ」

「え……あ、ああ……そうかな」

「オレも出会ってまだそれほど時が経ったわけじゃないが…… なかなか思うようにいかん」

「セフィロス……」

 見たこともない彼の様子に、私は驚きを隠せなかった。

 セフィロスとクラウドが、現時点ではまだ恋人同士にはなっていないことについては、すぐに察したのだが。

「……ええと、その……君はあの子のことを……?」

 不躾な質問かとは思ったが、すでにこぼれ落ち始めた言葉は止められなかった。

「入社式の日に初めて知った。天使のような可愛い子だ。オレの側に置いて守ってやりたい」

 顔を見られたくないのか、転がったままあちらを向いてセフィロスがつぶやいた。

「そうか……」

「……恋愛感情に男も女もないと思っていたが…… よくよく考えればこんな気持ちは初めてだしな。玄人相手と違ってなかなか上手くいかん」

「セフィロス……」

 出会ってから数日…… 

 私への警戒心が解けたのか、意外な弱音を彼は口にした。

 コスタ・デル・ソルでの彼ならば、まず口にしないようなセリフだ。

「だが、入社式の日に初めて会ったと言ったではないか。それからまだ三ヶ月ほどしか経っていないだろう?」

「…………」

「それにも関わらず、共に食事を楽しめる関係になったのだから、展望は明るいと思う」

「……ホントに?」

 そんな訊ね返しをする彼がひどく可愛らしく感じた。

「ああ、もちろん。ザックスに聞いたのだが、あの子は君に憧れて神羅に入社したというではないか」

「……ああ、みたいだな」

 今度ははっきりと照れたふうに、セフィロスは顔を背けた。顔も知らぬ者たちから、憧れを口にされてもどうも思わないのかも知れないが、やはりクラウドのことは別格なのだろう。

「彼は入社して間もない。まだ他のことをゆっくりと考えられる状態じゃないのだろう」

「…………」

「いきなり恋人というよりも、あの子が何かに迷ったとき、壁にぶつかったとき、相談出来る相手になれればよいのではなかろうか? まずは相手の信頼を得ることが肝要だと思う」 

 おのれの乏しい実体験に基づいてそう言ってみた。せっかくセフィロスが本音を漏らしてくれているのだ。わずかなりとも益になる助言をしたかった。

「……そうだな。そのつもりで接しているのだが……」

 言いにくそうに言葉を濁すセフィロス。その彼がふたたび口を開いてくれるのを待った。

 

 

 

 

 

 

「あの子が話しやすいように…… なんでも相談できるような雰囲気を心がけているのだが、あまり頼りにされていないようだ」

「セフィロス……」

「オレはあの子よりずっと年長だし、一応軍人としては出来の悪い方じゃないと思うのだが……」

「何を言うのだ、セフィロス。出来が悪いどころか、君はソルジャークラス1st。英雄と呼ばれる人物だろう」

「それは周りの連中が勝手に言ってるだけだろ」

 吐き捨てるようにセフィロスはつぶやいた。

「……いくら軍人としては優秀でも、ひとりの人間としてはどうなんだろうな。……いや、これまではこんなふうに考えたことはなかったのだが……あの子はいつまでも打ち解けてくれないし、オレの前だと緊張している様子だ。研修中も色々あるようだが、結局同室のザックスにばかり相談している。……オレには何も言ってこない」

「セフィロス……」

 ああ、ここにいるセフィロスは、なにもかも悟りきった、あの人ではない。

 まだまだ年若い青年なのだ。

 想い人の気持ちを手に入れられずに苦しんでいる……ごくあたりまえの人間なのだ。

「……この前会ったばかりのアンタには、人見知りせず楽しそうに話していたからな。なにかコツでもあんのかと思って……」

 ぼそぼそと口の中でつぶやく彼に、私はついつい満面の笑みを浮かべてしまっていた。

 ここまでハッキリと、笑顔によって意思表示したことは、おおらく今まで無かったと思う。

「セフィロス。君は本当に素敵な青年だ。強いばかりでなく、賢く美しく、思いやりに溢れている」

「なんだ、それ。オレはそんなご大層なモンじゃねーよ。だからなにもかも上手くいかねーんだろ」

 焦燥と苛立ちで投げ捨てるな物言いをするセフィロス。

 ゴロリと向こう側に転がった彼に、私はさらに言葉を続けた。