〜 午 睡 〜
〜コスタ・デル・ソル in ストライフ一家〜
<25>
 
 ヴィンセント・ヴァレンタイン
 

 

 

 

 

 コスタ・デル・ソルに居る、私の知っているセフィロスは、『すべてを終えた後』の彼だ。

 おのれの出生を知り、自らの存在を呪い、あらゆるものを壊し尽くそうとした片翼の天使なのだ。

 これから訪れる過酷な運命など、今の彼には想像もつかぬことだろう。

 まだなにも知らぬ、いたいけな彼の日常を垣間見、私は平静を保ち続けるのに、ひどく労力を払わざるを得なかった。

 

 ああ、馬鹿……!

 涙など浮かべて、彼に見られたら可笑しく思われるではないか!ここは私の夢の世界なのだから! セフィロスに辛いことは起こらない。大丈夫……大丈夫だ!

 

「ヴィンセント?」

「え、あ、ああ……」

「ああ、悪い、ほとんど食っちまったみたいだ」

 三分の一ほども残っていない紙袋を戻してきた。

「い、いや……全然かまわないんだ。それよりも、君と話せて嬉しかった」

 私は正直にそう言った。そんな私を彼はじっと見つめてきた。

 心の内をよまれぬよう、平静を装ったつもりだったのだが……

 

「……アンタ、めずらしい人だよな、本当に」

 いつぞやの社食での時のようにセフィロスはつぶやいた。

「え……あ、そ、そうだろうか」

「最初は部門長って聞いて、どんなクソ偉そうな野郎かと思ったけど、まるきり予想が外れた」

「あ…… そ、その……私はただの補佐で……」

「実質的には長官だろ。ハイデッカーはもう飛ばされていねーんだから」

 どうでもよさそうに彼は言った。

「え……あ…… いや、でも…… 私は本当に……」

「……実質長官なら、ずっと本社に居るんだろ?」

「あ、ああ……そ、それはおそらく」

 私は素直に頷いた。ここ数日の仕事の内容に鑑みても、本社以外にいかされることはまずないだろう。

「よかったな」

「え?」

「なんだ、耳も遠いのか」

 子供のように乱暴な物言い。だが、そんな彼を見るのは本当に新鮮で、目線が外せなくなる。

「あ……いや、その…… 今、『よかった』と聞こえたから」

「そう言ったんだ」

 ドキドキと胸が高鳴ってくる。

 馬鹿な……若者でもないのに、この程度の言葉で。

 ああ、いや、きっとセフィロスは、ハイデッカーが居座っているよりも、まだ私の方がマシという意味で述べたのだろう。ならば合点がつく。

「……ええと……君はあまりハイデッカー氏と合わなかったのかもしれないな。彼はやや強引な部分があったようだったから」

「は? なんでそこでヒゲゴジラが出てくる? 話の飛躍についていけん」

「あ、いや……す、すまない。その……君が『良かった』と言ってくれたから……私はてっきり……」

 ごそごそと袋を握りしめて必死に弁解する。私の知るコスタ・デル・ソルでのセフィロスより若いとはいえ、やはりセフィロスはセフィロスだ。特別な想いを抱く私にとっては、どうしても緊張させられる相手だった。

「アンタとはしばらくは一緒にいられそうだからな。それで、良かったと言ったんだ」

「セ、セフィロス……」

 言葉を途切れさせた私を見ると、彼は不審そうに眉を持ち上げた。

 おそらく私は、ひどく感動した面持ちをしていたはずだから。

 

 

 

 

 

 

「そういや……アンタ、いくつだっけ?」

 ふたたび、ゴロリと芝生に寝転びながらセフィロスが訊ねてきた。

「え……あ……」

 私は一瞬戸惑った。まさか実年齢を口にするわけにはいかないが、すぐに言葉が出なかった。

「……三十前後ってトコか?」

「え、あ、ああ、そんなところだ」

 セフィロスの言葉に、適当に便乗する。私の肉体はほとんどその時より年を重ねなくなっているから。

「ふぅん。……ヨメさんは?」

「え、あ、あの……私は生来の不調法者で、そのような人は……」

 口ごもる私に、彼はふっと笑みをこぼした。馬鹿にされたとは感じたわけではなかったが、もう少し付け足すことにした。

「その…… 私は……あまり人付き合いなどが得意でないし、陰気だから好かれないのだ。……君のように見目のよい人間でもないし、頭の回転も鈍いし、行動も遅くて……」

「おいおい、別に誰もそんなこと言ってねーだろ。ただの世間話だ。しかしずいぶん自己評価が低いんだな、アンタ」

「あ、す、すまない、つい……」

 言葉を足すはずが、墓穴を掘ったことに気付いて私は顔を伏せた。

「……好かれないってことはないだろ。ツォンやジェネシスを見ろよ」

「あ……い、いや、彼らにとっては、一応上官に当たるし…… まだ出会って日が浅いから、私の不出来な部分に気付いていないだけだろう」

 至極真面目に分析したつもりだったのだが、セフィロスはまたもや呆れた様子で、マジマジと私を眺めた。

「あー、おまえも天然キャラか。だからクラウドがなつくのかな」

 とつぶやいた。

「え…… クラウド?」

「前に一緒に晩飯食っただろ」

 私がクラウドを覚えていないと勘違いしたのか、セフィロスはやや強い口調でそう言った。