〜 午 睡 〜
〜コスタ・デル・ソル in ストライフ一家〜
<24>
 
 ヴィンセント・ヴァレンタイン
 

 

 

 

 彼らが出かけていって数刻……

 私は黙々と執務をこなした。やるべきことをこなさなければ、やはり落ち着かないから。

 それにツォンが戻ってきたとき、何の問題もないと安心させてやりたかったから。

 

 ……神羅は巨大な組織だ。

 これから訪れる未来を、すでに知る身としては、この巨大企業の行為が、星の命を縮める行いであったこともわかっている。

 だが、それが神羅カンパニーのすべてではない。

 未開の地の探索、レベル4モンスター調査、時にはその駆除。

 徐々に増えるこの世界の人口を、受け止められるだけの居住区と、糧を与え続けた側面をも持つ。

 この世界にとって、神羅は必要だったのだ。

 

『神羅の存在は必要悪でしょ。少なくとも過去の人間たちにはそうだったはずだよ。それがいつの間にかただの悪になった。……そうしたら、もう存在意義はないよね。まぁ、今は違うみたいだけどさ』

 

 ヤズーの言葉を思い出す。

 私のために、意に反して神羅カンパニーに助力してくれた彼ら。

 ミッドガルでひどい怪我をしたにもかかわらず、ヤズーは冷静にそう言っていた。

 

 壁時計を眺めると、すでに時刻は昼を回る。

 ツォンの言葉を思い起こし、私は外に昼食に出ることにした。

 ここしばらく、ずっと本社から出ていなかったから。

 

 蒼く澄んだ空を眺め、私はのんびりと歩みを進めた。

 

 

 

 

 

 

「にゅん、にゅん! みゅあ〜ん!」

 私を彼に気づかせてくれたのは、愛らしい小動物らの鳴き声であった。

 簡単な食事を済ませた帰り道、せっかくの外出なので、公園通りを歩いて戻ったのだ。

 公園通りというのは、実はここも神羅の敷地内で、広範囲のなだからな丘に季節の花が植えられている。そしてお約束の噴水……綺麗に掃除された石畳が続き、ちょっとした社内デートコースといったところだ。

 その真ん中よりも少し外れた場所に、見慣れたその人は寝転がっていた。大きな木陰になっているその場所に、人影はその人しかない。

 

「……セフィロス……?」

 眠り込んでいるわけではなさそうだったが、驚かせないよう足音に気をつけて近づいた。

「みゅお〜ん! にゅんにゅん!」

 数匹の子猫たちが彼の周りで遊んでいる。おそらく食べ物を与えていたのだろう。

 満足そうに眠っているブチの子、一生懸命にセフィロスの手を舐めている子、彼の腹の上で丸くなっているのは、我が家のヴィンのように真っ黒な子猫だった。

「セフィロス……」

「ああ、アンタか」

 彼は寝転がったまま、私に目線を寄越した。

「にゅんにゅん!」

「みゅ〜みゅ〜」

 私の足下にも子猫が集まってきてしまう。紙袋の中身が気になるのだろうか。

「なんだ、お伴も連れずに外出か? いつもの小うるさい小姑はどうした」

「ツォンのことか? 彼は今、出張に出ている。……あ、あの、となりに座ってもよいだろうか?」

 私は勇気を出して、そう訊ねた。

「ああ、別に。好きにしろ」

「ありがとう……」

 私はセフィロスのとなりに静かに腰を下ろした。

「みゅんみゅん!」

「にゅん!」

「……ああ、もう食い物はねーぞ。あっち行け」

 私が側に来たせいだろうか。さきほどまで子猫たちの相手をしていたセフィロスだが、鬱陶しげに子猫を追い払おうとした。

「あ、あの……食べ物なら、ここに…… それにしてもずいぶん猫が多いんだな」

「棲み着いてんだろ。ここに居りゃ餌には困らないだろうし、なんだかんだで神羅が面倒見てるからな」

 ……確かに。

 野良猫というが、非道く汚れた子や病気もちの子は一匹もいなかった。人を恐がりもしない。

「……いいにおいがする」

 セフィロスがぼそりとつぶやいた。まるでこどものように。

「え、あ、ああ。昼食に出たついでにちょっと買い物を。パンケーキと焼き菓子があるが、食べるか?」

「くれ」

 彼の答えは端的だった。この辺は我が家にいる彼とかわらない。

 けっこう大量に買ってきたのだが…… セフィロスは遠慮なくバクバクと食べ出した。本当はタークスの皆へ差し入れようと思っていたのだが、近くの店だし、また買い物に行けばいい。

「にゅんにゅん!」

「みゅうみゅう!」

 子猫たちの抗議の鳴き声に、私は慌ててもう一つの袋を開いた。

 そちらにはくずカステラがたっぷりと入っている。それこそ1キロ分でさえ、小銭で買えるプライスなのだ。

 プディングなどに仕込むときには、返ってこういったもののほうが上手く作れるので、必ず買って帰る。

「じゃあ、君たちにはこちらをあげよう。本当はミルクがあればよいのだが……」

 私は近くに転がっていた二口のプラスチックトレイを水飲み場で洗い、片方に水を、そしてもう一方にカステラくずを入れてやった。

 先を争って食べる猫たちを見ていると、ここ数日ぶりにひどく和んだ気分になった。

「おい、ヴィンセント、それ、ちょっとくれ」

「え……あの、まだケーキがある。これはカステラくずだから……プディングなどに使うものだ」

「別にかまわん。どんなもんか食ってみたい」

 そういうと、躊躇する私の手から、大袋を奪ってしまった。神羅の英雄がカステラくずを食べるなど……口に合うはずがないのに。

「……ふーん、別にフツーの味だと思うがな」

 私の心を読み取ったように、セフィロスはつぶやいた。遠慮無くそれを口に放り込むと、トレイからあぶれてしまったチビ猫の口にも持って行ってやる。

「ほれ、チビ。ああ、ゆっくり食えよ。大丈夫だ、ヴィンセントはまだここにいるしな」

 やさしく微笑む彼。

 ……邪気のない、ごく普通の、美しい青年の姿がそこにあった。