〜 午 睡 〜
〜コスタ・デル・ソル in ストライフ一家〜
<23>
 
 ヴィンセント・ヴァレンタイン
 

 

 

 

「ツォンです。入ります」

「ああ、すまない。ちょっと教えて欲しいのだが」

 私は、デスクから立ち上がって彼を迎えた。

 書類上の話だから、結局デスク側に来てもらわざるを得ないのだが、人を呼びつけておいて座ったままでいるのはひどく落ち着かない。

「なんでしょう。私にわかることでしたら」

 ツォンは至極丁寧そう応じてくれた。

「この部分なのだが、新設部門のようだな。私には知識が無くて……」

「ええ、それは昨年度、予算計上され、試験的に発足されたセクションで、まだ実質的には……」

 

 ……ここでの仕事もそろそろ十日ほどになる。

 ああ、いや、もちろん夢の中での話しなのだが。そもそも夢において『十日』などと、日数を数えるのはおかしなものなのだが、少なくともこの世界では、確実にそれだけの時間が経っていた。

 目の前のダイアリーでもそれは確認できるし、今署名した書類に書いた日付でも理解できる。

 この不可思議な夢を見始めたころは、いったいいつ目覚めるのだろうと、そればかり気にしていた。だが、もはやそんな気持ちも失せていた。

 夢であることに間違いはない。

 私の髪はコスタ・デル・ソルにいた頃のように長いし、クラウドやセフィロスが神羅にいた頃、すでに私は神羅屋敷の地下室で眠っていた。

 絶えることない悪夢にうなされつつ、だ。

 だから、ここにこうしている私は、あくまでも、自身の夢の中の私で、いつか目覚めるときがくるのだろうけど……

 ならばこそ、少しでも長く、この世界で生きるクラウドやセフィロスを見ていたかった。

 

 

 

 

 

 

「ヴィンセント。私はこれから所用で明日まで不在なのですが……」

「ああ、聞いている、仕事だな。……気をつけて行ってきたまえ」

 生真面目で疲労を上手く解消できそうにない部下に、私は頷き返した。

「……ヴィンセント。私がいなくても食事はきちんとしてください。無理をせず、適宜休息をとって、夜も早めにおやすみください」

「ツォン…… 大丈夫だから」

 心配性の彼に、私は微笑み返した。やれやれ、こんなに下の者に気を遣わせてしまうとは……やはり私には分不相応の職責なのだ。

「貴方はすぐに無理をなさるでしょう……! それから、くれぐれもジェネシス……いえ、ソルジャー部門の人間にはお気をつけください」

「そんな……ツォン、彼らはとても気持ちのよい青年ばかりだ」

「ええ、もちろん、職務には忠実でしょう。仮にもソルジャーなのですから。ですが、プライベートでは、貴方の側には近づけたくないような不埒な輩もおります。どうか、くれぐれも……」

 さらに言葉を重ねようとしたところ、具合良く同行者が呼びに入ってきた。

「ツォンさ〜ん、時間っすよ〜! あ、シツレーしました、ヴィンセントさんッ!」

「ああ、レノ…… 君もご苦労様」

「レノ! 私はまだ補佐官殿と話し中だッ」

 腹立ち紛れに、部下を叱りつけるツォン。まだこのころの彼はメンタルコントロールが上手くなかったらしい。

「ツォン。君の注意事項はきちんと覚えておくから、安心して行ってきてくれたまえ」

 私はとりあえず、きちんと請け負った。

「それでは、ふたりとも、気をつけてな……」

 そう言って送り出すと、未だ後ろ髪を引かれる様子であったが、ツォンはレノに引っ張られるように、執務室を退室していったのだった……