〜 午 睡 〜
〜コスタ・デル・ソル in ストライフ一家〜
<19>
 
 ヴィンセント・ヴァレンタイン
 

 

 

「私はこちらに来たばかりだから…… 寮の食堂というのは、とても広いのだな」

 キラキラと黒目がちな瞳を輝かせているクラウド。そんな幼いこの子に話し掛けるのはとても楽しい。

「は、はい! 寮にはいっぱい修習生がいますから」

「そうだな。とてもにぎやかで楽しい場所だ」

 笑顔を作るのは不得手だが、幼いクラウド相手なら、自然に頬が緩むのだった。

「さ、ゴハン取りにいきましょう! おれ、案内します!」

「ああ、君の後についていこう、クラウド」

 心配性のザックスが、一生懸命なクラウドを見守っている。その不安げな様子に、なるべく安心させるよう笑顔で頷き返し、

『問題ない』

 と知らせた。クラウドのナビゲートを楽しんでいる、と。

 聡明なザックスは、私の意図を理解してくれたのだろう。あきらかに、ホッと安堵の息を吐き出した。

「なんだ、テメーら。アイコンタクトし合って気持ち悪ィ」

「……アンタ、クラウドがいなくなると、あからさまに地が出るな」

 私の後に続いてきたザックスが小声でつぶやいた。たぶん後ろのセフィロスとの会話だろう。

「トーゼンだろ。……ところで、めずらしくもあの内気な子が積極的だな」

「ヴィンセントさんの雰囲気がいいからだよ。あの御方はホント、人間できてるよ。誰かさんと違って」

「ツォンのことか」

「……アンタって幸せな男だよな、セフィロス」

 思わず吹き出すのをこらえる。

 ああ、なんだか本当に楽しい! 私の記憶にある神羅時代とはまったく異なる。

 こんなに心躍る夢を見るのは、いったい何年ぶり……いや、何十年ぶりだっただろうか?

 

 

 

 

 

 

「えっとえっと、ほさかんさま。ここで食べたいもの選ぶんです。おやつも選べます」

「ああ、なるほど。食券形式なのだな。ああ、支払いはIDカードだな」

「おやつはここです!」

「ああ、はいはい」

「おやつを強調すんなよ、クラウド……」

「デザートは食後の基本だろう。なぁ、クラウド」

 どれが誰のセリフだかわかるだろうか。

 なんだかコスタ・デル・ソルでの家族のやり取りと少し似ている。さすがにおやつのことで口論になったりはしないが、クラウドやセフィロス、そしてカダージュらは、非常につまらないことで争うのだ。

 ああ、いや、セフィロスは「争っている」という意識はないのだろうが、クラウドが一方的に食ってかかっていくから、つい相手になってしまうのだろう。

 あの家で家族ケンカに参戦しないのは、ヤズーくらいのものであった。

 巨躯のロッズは大人しい性質だが、同じ目線のカダージュとは、よくやりあうのだ。

 

 適当に食券を購入し、プレートを手にしてカウンター沿いに歩いてゆく。

 食堂というと、猥雑な印象があるかもしれないが、そんなことはない。メニューの内容が男性向けなのはともかく、室内は非常に整然とし、衛生的に保たれている。

 賄い担当の女性たちは、もはや手慣れたもので、湯気の立つワゴンやら何やらから、提示されたメニューを並べていってくれるのだ。

 私はあっさりしたものが好きなので、ほうれん草のパスタと海藻のサラダ。それにクラウドが一生懸命奨めてくれたので、簡単なデザートをもらうことにした。

 ……食べきれるとよいのだが。

 クラウドはクリームシチューに、ロールパン、グリーンサラダ、デザートには巨大プリンだ。

 ザックスに、『一個でいいのか?』などとからかわれていたので、普段はきっと複数個食べるのだろう。遠慮せずともよいと思うのだが。

 

 クラウドが先頭で、その後に私が続き、ザックスとセフィロスがなにやら言い合って、最後尾でやってきたのであるが……

 やはり私の目線はクラウドに釘付けであった。

 セフィロスがこの子をどうしても側に置きたいという気持ちがわかるほど、彼は可愛らしかったのだ。

 身長はせいぜい私の胸のあたりまでだ。

 肌の色は白というより、桜色という感じで、チョコボの産毛のようなハニーブロンドが、ホワホワと歩く動作で揺れている。

 またその歩き方も可愛らしい。なんだか小さな子供を見ているようで……ぴょこぴょこと身体を揺らしながら歩くから、雛チョコボが尾っぽをふって歩いている様にも見える。

 ずっと側に着いていて、危ないものや、よくないことから、つい守ってやりたくなるような……。

 ああ、やれやれ。これでは私は、子離れできない母親のようではないか。