〜 午 睡 〜
〜コスタ・デル・ソル in ストライフ一家〜
<20>
 
 ヴィンセント・ヴァレンタイン
 

 

 

「ほさかんさま」

 と、クラウドが話し掛けてきた。

「……言っただろう。ヴィンセントでいい」

「ヴィンセント……さん?」

「ああ、それでかまわないから」

「ハ、ハイ。」

 と頷いてからザックスのほうを見る。目線の意味は、おそらく『本当にいいのかな?』と先輩に確認しているのだろう。軽く頷き返されると、安心したように微笑んだ。

 仕草の一つ一つが、ひどく幼くて……だからこそ、実直でその素直さが可愛らしい。

「……ヴィンセントさんは背が高いのに、あんましお食べにならないのですね」

「ふふ、もっとリラックスしてしゃべってくれたまえ、クラウド。そうだな……食欲がないわけではないのだが、確かにどちらかといえば小食だろう」

 正直にそう答えた。……少なくとも前の席に座っている彼らに比べれば。

 目の前の二人組……ええと、私はクラウドの隣に座っているから、『目の前』に居るのはセフィロスとザックスなのだが……

 彼らはその体格に見合った分量をトレイに乗せていた。

 

「……しかし、君たちはすごいな……」

 私はほとんど無意識に言葉に出していた。

 スープはラーメン、ご飯はかつ丼、おかずは生姜焼き……といったふうに、割り振りが出来てしまいそうなザックスの注文を眺めつつ、ついつぶやいてしまった。

 セフィロスはザックスのように多国籍メニューというわけではなかったが、ビーフシチューには牛の足一本分は入っていそうだったし、サラダはボウルをそのまま置いたような有様だった。

「いや、もう、俺は育ち盛りッスから」

「ああ、まぁ……確かに」

「セフィロスはちょっと控えたほうがいいんじゃねーの? 腹出た英雄なんざ、みっともねーぜ」

 と一言多いザックス。

「なんだと、この野郎ッ! メシの量は仕事量に比例させてるんだ! これくらいのカロリー消費は朝飯前だからな!」

 クラウドがいなければ、跳び蹴り締め上げくらいはしたかったのだろう。だが、セフィロスはこの子の前では、極力紳士的に振る舞いたい様子であった。

 

 

 

 

 

 

 ……味は悪くないと思う。

 

 寮の食堂とはいえ、神羅カンパニーという大企業の社食なのだ。食材も良いものを使っているし、それを調理する人員も十分な人数そろえられている。カウンターで接客する者はそれに従事し、裏方で調理を担当する輩は料理に注力している。

 かなり理想的な環境ではあるのだが……

 だが……しかし……

 

 ……なぜ、こんなにも量が多いのだろう……?

 

  食べても食べても減ってくれないパスタを呆然と眺めつつ、私はため息を押し殺した。

 無難なメニューをセレクトしたことに安堵し、分量の注文を付け損ねた。

 クリームシチューのクラウドが、「にんじんキライ」などと言っているのが可愛らしくて……それに後ろのセフィロスだの、ザックスだのが、威勢良く「大盛り!」と叫んでいるのが頼もしくて、おのれのことに無関心すぎたのだ。

 コスタ・デル・ソルでは、給仕担当は自分自身だからいくらでも調節できるのだが。

 

 だが……

 トレイを持って着席してしまった今、分量を減らしてくれと言いに行くのはマナー違反だろう。

 クラウドも小柄ではあったが、食べ盛りの少年だ。クリームシチューのにんじんは、嫌われて端によけられていたけれど、ごく普通のペースで食べていた。

 私だとて若かりしころは、それ相応に……いや、そうでもなかったか……?

 あ、いやいや。そんなことを言っている場合ではない。

 まずい……このままだと、デザートどころか、主食さえも完食できないのではなかろうか。

 

 ちらりと前の席に視線を投げる。

 早くもセフィロスは巨大なシチュー皿を半分空けてしまっていたし、ザックスに至っては、『スープ』という名のラーメンのおかわりにでかけるところであった。