〜 午 睡 〜
〜コスタ・デル・ソル in ストライフ一家〜
<18>
 
 ヴィンセント・ヴァレンタイン
 

 

 

「天使だな」

 と、即答するセフィロス。彼の表情を盗み見るがとても冗談を言っている様子には見えない。

「……は?」

 思わず間抜けた声を上げてしまう。傍らではザックスがやれやれというように頭を振っていた。

「天使だ。きっと天使が人間の少年の姿を借りて、この世に舞い降りてきたんだ」

「アンタ、ジェネシス病に感染したんじゃねーの?」

 と、ザックスが妙に上手いことを言った。

「黙れ、クソハリネズミ。まぁ、アンタもあの子に会ったら吃驚するだろうよ。だがオレのだからな。取るなよ」

 じっと私を見つめて、彼はそう言った。

「え、あ、ああ……もちろん」

「絶対好きになるなよ。そういう意味では」

「あ、ああ……わ、わかった、セフィロス」

「オイオイオイ!どこまでシツレーなんだ、アンタは! ヴィンセントさんはごく普通の人なんだよ! ジェネシスやアンタとは違うんだッ!」

 必死にかばってくれるザックスであったが、後年、クラウドと一緒に居ることになる私には、耳の痛いセリフでもあった。

 ああ、もちろん、後悔しているという意味ではなくて。

「ま、まぁまぁ、ザックス。人を好きになる気持ちというのは、時に性別をも超越するものであろうから」

「……ヴィンセントさんって、人間出来てますね! ホモに偏見をもつこともせず……どこまでいい人なんスか!」

 キラキラした純粋な眼差しでそう言われると、こちらもつらい。

「あ、いや……別にその……」

「でも、ジェネシスに甘い態度は禁物ッスよ! あの男は本当に何するかわかんないッスから! だいたいセフィロスの友人ですからね!危険ッス!」

 必死に言いつのるザックスの首に、グワシと太い腕が巻き付いてきた。

「なんだと、テメェこの野郎!どういう意味だッ! それにオレ様はあの変態詩人と友達なんかじゃねェ! 偶然、たまたま、夜行列車でとなりの席に座っちまった赤の他人みてーなもんだ!」

「ぐあぁぁ! な、なぁに言ってやがる! オメーらは悪友だろ! 毎日、フラフラ遊び回りやがって! アンジールに迷惑かけまくりのくせに!」

「黙れッ! アンジールの小心者が勝手に心配しているだけだろーがっ! それにオレ様とジェネシスじゃ遊び場所が違うッ!」

「ほぅら! 遊んでるって認めたじゃねーか!」

「くぉのぉぉぉ!」

「ふ、ふたりとも! よしなさいッ! ほ、ほら、年少の者たちが見ているではないか!」

 寮への入り口のところでもめていたのである。

 物見高い少年たちは、我々の醜態を眺めていた。もちろん、側に寄ってくるような勇気ある子はいなかったが。

「さ、ほら、寮に着いたぞ、ザックス。早く案内してくれたまえ」

 私はなんとかふたりを宥めようと、ザックスに声を掛けた。

 

 

 

 

 

 

「ザックス〜!」

 小さな男の子が、やはりちっちゃな手をぶんぶんと振り回していた。

 頃合いがよかったのか、広い食堂はかなり余裕があり、すぐにその子が目に入った。

「あ、セ、セフィロスさんッ! そ、それから、ほさかんさま」

「クラウド……ッ!」

 駆け寄ろうとするセフィロスに、さりげなくザックスが足を掛ける。バランスを崩した彼は、飛び出してゆくタイミングを失った。

「ええと、紹介します。彼が同室のクラウドです。それから、クラウド、昨日話した軍事部門・部門長補佐官、ヴィンセント殿だ」

 クラウドはカッと頬に血を上らせ、私の前に歩み出ると、きちんと敬礼してみせた。

「こ、こ、今年入社の修習生、クラウド・ストライフです……ッ! は、はじめまして!」

 ああ、可愛い……ッ!

 なんて可愛らしいのだろうか! セフィロスが「天使」などと言っていたときは、思わず苦笑したのだが、なるほどそのたとえは言い得て妙だ。

「こちらこそ初めまして、クラウド。私のことはヴィンセントと呼んでくれたまえ」

 そう言って、私のほうから彼の手を取った。ごく当然のように握手をすると、彼は少し惚けた面持ちで私を見上げた。

 そう、本当に『見上げる』という視点で。

 私の知るクラウド……つまり、コスタ・デル・ソル現在の彼は、中肉中背といったところだ。

 本人は身長がコンプレックスであるようだが、特別に低いというほどではない。

 単に私を含め、セフィロスや三人の兄弟たちが、平均以上に長身だから、そう思いこんでしまっているだけだと思う。

 だが、今、目の前にいる、14歳のクラウドは、同じその年頃の少年よりも、ずっと小柄で線が細くて……チョコボの雛というジェネシスの例えは、非常に的を射ていると感じたのだ。

 ついつい笑みがこぼれ落ちてしまう。人目が無ければ、抱きしめて膝に乗せてやりたいような気持ちになる。

「……今日は無理を言って、ザックスに同席を頼み込んでしまった。夕食の席を共にさせてもらってよいだろうか?」

「え、あ、あの、もちろんですッ! おれ……じゃない、じ、自分は、ほさかんさまと一緒にゴハンが食べられて、う、うれしいですっ!」

「……言っただろう? 私のことはヴィンセントと呼んでくれたまえ、クラウド」

 ホワホワと綿毛のように飛んでいる、彼の髪をそっと撫でた。目があった彼に、自然に微笑むと、今度は無理のない笑顔でにっこりと笑い返してくれた。

 クラウドは警戒心が強い子だが、一度『身内』と認定してくれると、とたんに素直に甘えてくる。この当時からそういった資質が感じられた。

 となりに突っ立っているセフィロスをちらりと盗み見ると、ふわ〜っと蕩けるような面持ちでクラウドを眺めていた。

 猫好きが子猫を見つめるような……という例えが似つかわしい様子で。

 そんな彼を見たことがなかったので、なんだかひどく吃驚した。