〜 午 睡 〜
〜コスタ・デル・ソル in ストライフ一家〜
<17>
 
 ヴィンセント・ヴァレンタイン
 

 

 

「グハッ!」

 と、呻くザックス。

「ザックス、このヤロー……テメェだけ抜け駆けはさせん!」

「ぎぃあぁぁぁ! セフィロス!」

「クラウドのところへ行くんだろ! オレ様も連れて行け」

「ダメだ!ダメだよ、今日は!!」

 ザックスは必死に彼の腕から逃れようともがいた。しかし、相手はあのセフィロスだ。ザックスも相当体格のよい青年だが、神羅の英雄にはかなわない。

「なんだと? 誰に向かって言ってやがる! 昨日は遠慮してやったんだ。今日はクラウドのところに行く!」

 子供が駄々をこねるような口調で、セフィロスが繰り返した。

 『クラウドのところに行く』

 そんな率直な物言いがひどく可愛らしくて。

 ザックスが、どうしてこんなに嫌がっているのかは知らなかったが、ついついセフィロスの味方をしたくなってしまう。

「ザックス? 別に彼も一緒でいいではないか。食事に行くだけなのだから」

「いや、ダメッスよ! この人来たらめちゃくちゃになります!」

 力一杯断言するザックス。

「なんだと、テメーこの野郎!」

「アンタ、すぐにクラウドにベタベタすんだろうが! やたら騒々しいし!」

「オレはあの子が好きなんだ。しょーがねーだろ」

 セフィロスは信じがたいほどにストレートだった。

 基本的に私のセフィロス像は、今現在……そう、コスタ・デル・ソルで共に生活しているときのものがベースになっている。

 クラウドと大声でケンカすることもあるが、基本的には口数の少ないタイプで、本音を気軽に口にする人ではない。

 ヤズーなどは、彼の物言いを「無遠慮でロコツ」などというが、いわゆる『真意』ほど軽々しく口にはしない。

 だが、この時期のセフィロスは、英雄としての自信も相まってか、かなり明確な意思表示をするようだ。……青年らしいといってやるべきであろうか。

「ま、まぁまぁ、ザックス。今日は私も一緒なのだし…… せっかく同行したいと言ってくれているものを、無碍に断るのも気の毒ではないか」

「アンタ、いい人だな、ヴィンセント」

 上目遣いでじっと見つめられて、心臓が跳ね上がりそうになった。ひとつひとつの動作が、私の知っているセフィロスより、ずっと幼く感じて。

「ほ、補佐官殿に向かって、なにエラソーに言ってんだよ、セフィロス! オメーってヤツはどこまで常識がないんだ! だから、俺は……」

「うるせーな、小姑か、おまえは。ぐずぐずしてると、ジェネシスがシゴトから戻ってくるぞ。それこそ大騒ぎだと思うが?」 

 悪戯っぽい眼差しで、私をちらりと見遣った。きっと今朝の騒動を耳にしているのだろう。それには苦笑を返すしかない。

「チッ……仕方ねーな! いいか、今日はヴィンセントさんも一緒なんだからな!我が儘言ったり、騒いだりしないでくれよ!」

「オレ様はガキか!?」

「似たようなもんだろ! それから、クラウドにちょっかい出すなよな! 社食は人目がありすぎるんだよ!」

 くどくどとザックスは言った。確かにセフィロスが寮の社員食堂に行ったら、注目を集めて仕方がないだろう。

 私はここで敢えて、質問してみた。

「その……クラウドというのは……」

「はい、俺のルームメイトで親友ッス!」

 とザックス。彼の誇らしげな物言いが、なんだか嬉しく感じた。

「ああ、今年入社の可愛い修習生で、オレの恋人(予定)だ」

 とセフィロス。

「アンタ、勝手なこと言ってんじゃねーよ! クラウドはアンタに憧れているだけで、恋人になりたいなんて、一言も言っていないんだからな!」

「それはまだオレが告白してねーからだッ! あの子は子供だからな。普通の相手より時間がかかるのは仕方がないんだ!」

 ……その『クラウド』が、今は私の傍らに居てくれている……

 運命とは数奇なものだ。

「ふたりともよさないか…… その子もお腹を空かせて待ってくれているのだろう? 早く食堂へ行こう」

 私は穏やかに提案した。いつまでもふたりの言い争いを聞いていても埒があかないし(それはそれで面白いのだが)、早くこの世界での私の恋人に会いたかったからだ。

 

 

 

 

 

 

 神羅には、『社食』と呼ばれる場所が二カ所ある。

 そのうちのひとつは、今我々が向かっている場所…… 寮の社員食堂だ。

 これは場所柄からわかるように、ほとんど寮生のための食堂ということになる。もちろん、誰が食事をしてもかまわないのだが、集まってくるのは、寮で生活をする修習生、見習い兵、ザックス曰く『下っ端ソルジャー』が中心だということだ。

 実は私も寮の食堂で食事をするのは今回が初めてで、ちょっとワクワクしていた。

「食堂は一階ッス。二階から五階は修習生のための教室があって、その上は寮になっています。住んでいる連中は、主に修習生や見習い兵なんかですね。けっこうな人数ですよ!」

「そうか……君もそこで生活しているわけだな」

「はい。基本的には三人部屋なんスけど、俺のところは人数の関係で、クラウドとふたりッス」 

 ザックスは無知な私に一生懸命教えてくれた。これからの時間はナビゲーターとして務めてくれるつもりなのだろう。

「君は同室の子ととても気が合うようだな」

 本当のことを知っているのに白々しいが、私はそんなふうに言ってみた。

「ええ、もちろん。クラウド……クラウド・ストライフは今年入社の新入社員です。ソルジャーになりたいって言ってて、初日からすごく気が合って。わがままで甘ったれなんスけど、かわいいヤツっす」

「……クソえらそうに。何様だテメーは。オレだって、クラウドと一緒の部屋になりたかったのに!」

「あ、セフィロス、いたのか」

「居るに決まってんだろ! このヤロー! だいたい、なぁにが『わがままで甘ったれ』だ。貴様がクラウドの何を知っている!」

「いや、悪いけどアンタより知ってると思うよ、毎日一緒に生活してんだから」

「なんだと、この……ッ!」

 いきなりザックスの襟首を掴み上げるセフィロス。私は慌ててそれを制止した。

「ああ、や、やめたまえ。ほら……! き、君たちは同じソルジャーだろう? そんなにすぐにけんか腰になるのはよくない」

「ヴィンセントさんのいうとおりだ。アンタは血の気が多すぎんだよ!」

「フン! テメーが軽々しくクラウドのことを話しやがるからだ! おい、ヴィンセント! クラウドのことならオレ様に訊け、オレ様に!」

「あぁぁぁ! アンタ、敬語って知らねーのかよッ! ヴィンセントさんはアンタの上官だろっ!」

「い、いや、別にそんなことは全然気にならないから……」

「だとよ。」

「『だとよ』じゃねーだろ! 偉そうにッ! 少しは空気を読まねーかッ!」

「ま、まぁまぁ、そ、それではセフィロス、君にも訊ねるとしよう。……君から見た、クラウドという少年はどのように見えるのだ?」

 私は子供に訊くようにやさしく語りかけた。

 ……なんだか、幼稚園児のケンカを仲裁している、保育士のような気分になってきた……