〜 午 睡 〜
〜コスタ・デル・ソル in ストライフ一家〜
<16>
 
 ヴィンセント・ヴァレンタイン
 

 

 

 

 午後六時過ぎ。

 私のデスクはすでにきちんと片づいている。

 昨日、やりかけで放り出してしまった書類も、完全に処理済みだ。ツォンはすでに退社しているし、誰も私の行動を阻止する者はいない。

 最初は一度部屋に戻って、着替えを済ませていこうかとも考えたのだが、返ってザックスに気を遣わせるかも知れないと考え、当初の予定通り、約束の時間までは執務室で仕事をした。

 ザックスは午前中は任務で出ているといっていたが、午後には本社に戻ってデスクワークの予定らしい。それゆえ、私のほうから彼の執務室に帰り際立ち寄り、連れだって社食に向かおうという手はずになっていた。

「よし……見苦しいところはないな」

 私はスーツの上着を脱ぎ、きちんと髪に櫛を通すと、改めて身だしなみをチェックした後、部屋を出た。

 最初ザックスは、

「迎えに来てもらうなどとんでもない。自分のほうから足を運ぶ」

 と聞かなかったが、彼の執務室のほうが、寮のある棟へ近かったし、時間的には私のほうが自由になるので気にする必要はないとなだめた。

 おまけに今日、誘ったのは私のほうなのだ。

 彼はなかなか納得してくれなかったが、何とか言い含めた。

 私自身、なるべくこまめに、ソルジャー部門に足を運びたいという目算もあった。私は生粋のタークス出身者で、ソルジャー部門がどういった体系のもと、動いているのかさえもくわしくは知らなかったからだ。

 言い方は好ましくないが、素直で真面目なザックスは私にとって、格好の情報源になってくれると考えたのだ。

 

 

 

 

 

 

「……ザックス、待たせて済まない」

 室内に彼の姿を見つけて、私は慌てて声を掛けた。扉は開け放ったままになっていたので、ノックの必要がなかったからだ。

「あ、ハッ!こんばんわでございます! いいえ、全然お気になさらずッ!」

 やれやれ、なかなかうち解けてもらうには時間がかかりそうだ。

 ザックスはMTルームで待っていてくれた。ソルジャーは階級によって、執務室が分かれるので、昨日伺った1stの執務室には、彼の席はない。

 だが、アンジールが目を掛けているらしく、彼の指示を受けにちょくちょく1stの執務室にも顔を出しているということだった。

「ではさっそく行こうか。……誰かに言って行かなくて大丈夫か?」

 私はそう訊ねた。

 すでに執務時間は過ぎているが、タークスやソルジャーというのは、急な仕事が入る場合が多い。特に彼くらいの年の者は、もっとも多忙であろう。

「大丈夫ッス。今日は何もないですから。……っと、一応、アンジールにだけは声を掛けていっていいですか」

「もちろん。そうしたまえ」

 ザックスの真面目な性格がそうさせるのだろう。アンジールも人を見る目がありそうな青年だ。

 ソルジャークラス1stの執務室に行ってみると、さすがにもう遅い時間だったせいか、当のアンジールも、ちょうど後片付けをしているところだった。

 巨大なデスクに足を放り出して寝ているのは…… ああ、やはりセフィロスだ。

 なんとなく、我が家のソファでくつろいでいる姿を思い出す。

 

「アンジール! アンジール!」

「おう、ザックス。帰ったんじゃなかったのか」

「うん、これからだ。補佐官……いや、ヴィンセントさんと食事に行くけど、なにか急ぎの用とかないか?」

「ハハハ、気を遣うな。何もないさ。失礼のないようにな」

「ああ、わかってる」

 彼ら二人は理想的な先輩、後輩の関係を作っているらしい。とても好ましいことだ。

「そうだ、セフィロスがおまえに用事があるといって、ずっと…… ああ、こいつはすぐに居眠りするんだ。セフィロス、おい、セフィロス!」

「ああ、呼ばないでくれッ! 邪魔される!」

 ザックスが大あわてでアンジールを止めた。

「仕事もないのに、この男が執務室で待っているというのは、いい気がしねェ……」

「ザックス? どうかしたのか? セフィロスに用事があるのなら、聞いていけばいいではないか?」

 私は彼にそう言ってやった。多少食事の時間が遅くなっても、たいした問題ではないのだから。

「あ、いえ、いいんスよ! もう全然かまわないッス!」

「だ、だが……」

「ジェネシスのいない今がチャンスです!ヤツが帰ってくるとまた大事に……」

「あ、ああ、だが、セフィロスには……」

「ほら、ヤツは爆睡しているわけですし! 同室の子も待ってますから!」

 クラウドのことだ!

 ようやく彼に会うことができる。現在のセフィロスの様子から鑑みて、おそらくまだ14,5才といったところだろう。

「さ、早く参りましょうッ!」

 そういって、私の腕を取ったザックスだったが、彼の首に鋼のような上腕が食い込んできた。