〜 午 睡 〜
〜コスタ・デル・ソル in ストライフ一家〜
<110>
  
 ヤズー
 

 

 

 

「ね、ヴィンセント。その夢の世界でも、俺、ちゃんとヴィンセントの恋人だった?」

「え……」

 クラウド兄さんの問いかけに、返事に窮するヴィンセント。それはおそらく答えが彼の希望どおりではないからだろう。

「ねぇねぇ!子供の頃の俺って言ったって、修習生だったワケだから、ヴィンセントと出逢ったんでしょう? ねぇ、ちゃんとヴィンセントの恋人に……」

「あ、あの…… だが、子供の頃のおまえは……」

 言いにくそうに言を紡ぐヴィンセント。

 う゛ッと、眉をひそめる兄さん。

 ……そう、確か子供の頃の彼は、セフィロスの側に……

「もう!夢の世界なんだから、軌道修正してよ、ヴィンセントってばっ!」

「す、すまない…… だが、とうてい、私ではセフィロスにはかなわないから……」

「もおぉぉぉ! そーゆーコトじゃないでしょ!」

「まぁまぁ、兄さん。さすがに夢の世界をコントロールしろってのは無理な話だよ」

 俺は苦笑混じりに、すぐに本気になってしまう兄さんをなだめた。

「……私の夢の話はこの程度のものだ…… ただ、妙にリアリティがあって……我ながら不思議な気分になった……」

 ふぅと大きく吐息すると、ヴィンセントは肩肘をついた手で頬を支えた。

「ハイハイ、ほら。ヴィンセントのお話はこれで終わり。彼が疲れちゃうからね。これで解散ね。そろそろカダたちも帰ってくるから」

 俺はやや強引にそう言って立ち上がった。

 平静を装っていても、やはりヴィンセントに疲れが見えるから。そして……俺たちには話していないことで……彼には何らかの気がかりがあるように感じたからだ。

 無理に聞き出すことは、好ましくないだろう。繊細なヴィンセントは、それを口に出すだけで傷つくかもしれないから。

 もちろん、俺としては非常に気になるわけだが。

 

「ヤズー……」

「ん、なぁに?」

「……その、ありがとう」

 ぼそぼそと低い声でつぶやくヴィンセント。

「え? なんのこと? ほら、それより、夕ご飯の前に一眠りしてきたら。今夜は食べたい物があるから、俺が作るから」

「……いや。希望を言ってくれたまえ。私が作る。……本来、まだおまえは起きて動き回っていい身体ではない」

 ヴィンセントが頑固に言った。

 もう、何度も大丈夫だと繰り返しているのに。

「だから大丈夫だってばァ。食事作るの、ジェネシスも手伝ってくれるし、彼は手際がいいからすぐにできるんだ」

「でも……」

「そのために、俺はこの家に滞在させてもらっているんだからね。遠慮する必要はないよ、女神」

「そうそう。さ、部屋に戻って戻って」

 それでも躊躇した風だったが、ここで頑張ってもむしろ心配を掛けると判断したのだろう。俺たちの促しに従って彼は立ち上がった。

 

 

 

 

 

 

 なんとなく会話の続きで、俺とジェネシスがヴィンセントを部屋まで送ってゆく形になる。

「ふたりともすまない…… もう私は大丈夫だから」

「ハイハイ、わかっているよ。でもちゃんとベッドに入るところまで見届けないとね」

 後ろを振り返りつつ、上目がちで謝罪するヴィンセント。こんな表情は、兄さんやジェネシスじゃなくとも、ひどく可愛らしく感じる。

 実際には、ずっと年上の人であるというのに。

「そうだねェ、女神はすぐに無理をするから。ヤズーが居るとはいえ、このおうちの人々はかなりがさつな輩もいるからねぇ。俺としては心配だよ」

「まぁ、兄さんとセフィロスは、性格変わらないよね」

「……ヤズー、別に俺は名指ししていないよ」

 そんな軽口をたたき合う。ヴィンセントは参加するわけではないのだが、こういった言い合いを聞くのが楽しいらしいのだ。今も笑みを浮かべつつ、俺とジェネシスのやり取りを聞いていた。

 

「ジェネシス……」

 めずらしくもヴィンセントが口を開いた。あまり舌戦には加わらないのだが。

「ん? 何だい、女神」

「あ、あの…… その……」

「どうしたの?」

「あの…… 君は……ずっとコスタ・デル・ソルに居るのだろうか? どこか別の場所に行く予定などはあるのか?」

「……なんか唐突な質問だね、ヴィンセント」

 思わず俺はそう突っ込んだ。目に見えておろおろと焦ってしまう。……悪いことをしてしまったかもしれない。

「コスタ・デル・ソル以外の場所?……いや、今のところ、そういった予定はないな」

 ジェネシスはストレートにそう答えた。

「……本当に?」

「ハハハ、どうしたんだい? 俺が君に嘘なんてつくはずがないだろう?」

「……君はコスタ・デル・ソルが好きか?」

 不安げに確認する。ジェネシスは眉をハの字に歪めて、困惑笑い?をしそうな表情だ。

「フフフ、そうだね。ちょっと暑いけどね。……でも、そんなことよりなにより、君の居る場所なんだから。ここから離れようなんて考えてはいないさ」

「……ジェネシス…… あ、ありがとう」

「おやおや、お礼を言われてしまったね。そんな不安そうな顔をして、俺の居場所を確認してくれるなんて、ちょっと期待をしてしまいそうだよ」

 冗談めかしたジェネシスの物言いにも、ヴィンセントは動じなかった。それどころか、さらに真摯な声音で先を続けた。

「……私のようなものに、君の自由を束縛する資格はない。それは重々わかっている。……でも、君が近くに居てくれると安心する。元気な顔を見せてくれると…… 胸が……熱くなる」

「女神……?」

「……すまない、おかしなことを口走って。ヤズーも忘れてくれたまえ」

 ヴィンセントは、自嘲の表情になると、後はおとなしく寝台に入ってくれた。

 

 俺とジェネシスは彼の自室を辞す。

 

「……どうしたのだろうね、彼は」

「うーん、俺の察するところ、……ジェネシスだったんじゃない?」

「……なにが?」

「彼の夢の世界での、コ・イ・ビ・ト★」

「え…… そうなのか?」

 切れ長の双眸を丸くして、ジェネシスがつぶやいた。予想していなかったらしい。

 完全無欠の紳士に見えるジェネシスも、殊好きな人のコトになると、やはり自信のない部分があるのだろう。

「んー、なんとなくね。ま、もともと、恋愛感情だのなんだのということを置いておいても、ヴィンセントはジェネシスの人柄が大好きなんだよ」

「……俺はそんなに心優しいだけの人間ではないよ」

「うん、知っている。俺みたいなヤツにはわかる。……でも、ヴィンセントがあなたをそう思ってくれているのなら、それはそれでいいじゃない?」

「…………」

 俺の言葉に、ジェネシスは苦笑で返事をした。

 

 ヴィンセントは夢のすべてを語ってくれてはいない。

 きっと、彼にとって、一番重要な部分……衝撃的な部分は、敢えて端折っているのだと思う。

 好奇心旺盛な俺としては、いつかすべてを聞いてみたいとは思うが……