〜 午 睡 〜
〜コスタ・デル・ソル in ストライフ一家〜
<7>
 
 ヴィンセント・ヴァレンタイン
 

 

 

 

「それで、ラザード統括。いつソルジャー部門のほうに伺えばよろしいでしょうか? 皆さんの都合の良い時間をお教えください」

 私のへりくだった物言いが不満だったのか、ツォンが冷ややかな眼差しでラザードを睨む。

「いえ、そんなとんでもない。ソルジャーと申しましても、3rdから1stまでおります。特に重要な任務をこなす、ソルジャークラス1stの者たちとその補佐に当たる2ndの主立った者に顔見せをしていただければ十分かと存じます」

「……1stとは言っても行政官ではないのですがね」

 ツォンの独り言が耳に突き刺さる。

 タークスとソルジャーとは、長い間犬猿の仲であったが、この時代もそれは変わらぬらしい。

「私といたしましては、補佐官殿のお手すきな時間をお教えいただければと思っております。主立った者を連れて、こちらの執務室にご挨拶に伺わせますから」

「……当然ですね」

 と、ツォン。だが、いくらなんでもそんな横柄な態度を取るわけにはいかない。

 私は新参者なのだから。

 いくら階級が上とはいっても、これは私の中ではルールのようなものだ。

「い、いや、そんなことをしていただくわけにはいかない。私のほうからそちらへ行く」

「ミスタ・ヴァレンタイン……」

 呆れたようなツォンの物言いを無視して、私はさらに言葉を重ねた。

「ソルジャーの皆は非常に多忙なはずだ。ましてや私は新参者。こちらから挨拶に伺うのが道理だと思います」

「……いやぁ……はっはっはっ…… 驚いたなァ、ツォン。タークス出身の方で、こんなタイプの人が居られるとはなぁ」

「……ラザード統括。補佐官殿に失礼ですよ」

「ああ、失敬。つい、驚いて本音が口をついてしまいました」

「ラザード統括!」

 気色ばむツォンを、まぁまぁと宥めてから、彼はふたたび背筋を伸ばして私と向かい合った。

「失礼いたしました、補佐官殿。貴方のような方が上役になられるのは、タークスにとっても、ソルジャーにとっても僥倖とさえいえるのかもしれませんね」

「そんな……大げさです。私は至って常識的なことしか口にしておりません。……それで、早速なのですが、ラザード統括」

「はい。明日の話ですね。何時頃ならばよろしいでしょうか?」

「いえ……あの、今この時間、ソルジャーの方々はどなたも執務室に居られませんか?」

 いささか唐突すぎる問いだったのかもしれない。だが、わざわざ時間を決めて、足を運んでもらうよりも、今まだ執務室にいるような状況なら、顔を見せるくらいのことはできると思う。

 ソルジャーはタークス以上に、出払っていることが多いから、まだ居る人たちには、今日中に面通しをすませ、後日、改めて挨拶に赴けば、より多くの人に会えるはずだ。

「ああ、いえ…… まだ7時台ですからね。下の者はともかく上の連中は、MTルームか執務室にたむろしていると思いますが……」

「それはよかったです。さっそく伺いましょう」

 私はさっさと立ち上がった。

「お待ちください、ラザード統括。……今居るソルジャーというのは……」

 低いうめき声のような声音で、ツォンが訊ねた。この上まだなにか心配事があるというのだろうか? ただ挨拶に行くだけなのに。

「ああ、たいていこの時間なら、1stの連中がだらだらと……」

「……ミスタ・ヴァレンタインがどうしても行かれるというのなら、私も同行いたします」

 ツォンはきっぱりとそう言った。

「え……、あ、あの、ツォン。私は大丈夫だ」

「いいえ、統括を前にして、このように申し上げるのも心苦しいのですが、タークスとしてもソルジャークラス1stには何かと手を焼いております。まさか補佐官殿に無礼を働くとは思いませんが、念のために」

 反論は受け付けないという紋きり口調でツォンが言った。

「やれやれ。好きにしたまえ、タークスの主任。私は補佐官殿のご希望に添ってお連れするだけだ」

 と、手振り付きでラザード統括は受け応えた。

「すみません、ラザード統括。返って手を煩わせるようなことを……」

「ラザードとおよび捨てください、補佐官殿。敬語を使われる必要もありません」

「は、はぁ……あの、でも……」

「さ、それではさっそく参りますか。彼らも空腹を覚えればさっさと消えてしまうでしょうから」

 そういって立ち上がった彼に、少しばかり待ってもらい、私は髪に櫛を入れた。

 あさましいとは思うが、もしかしたら本当に、昔日のセフィロスと会うことができるのかもしれないのだから。

 

 ついさきほどまで、『夢よ、醒めろ』と願っていたその口で、今度は『セフィロスと会いたい』と祈った。

 我ながら、誠に現金な人間だと、そう思う……