〜 午 睡 〜
〜コスタ・デル・ソル in ストライフ一家〜
<4>
 
 ヴィンセント・ヴァレンタイン
 

 

 

 プルルル……プルルル……

 枕元に置いた目覚まし時計が、規則的な機械音を発した。

 私は慌ててベッドの上に飛び起きた。ほとんど反射的に周囲を見回すが、どうやら私はまだ夢の続きに居るらしい。

 だだっ広く無意味に瀟洒な一室…… サイドテーブルには、眠る前に飲んだ、ミネラルウォーターのペットボトルが起きっぱなしになっていた。

 

 あれから風呂に入り、ゆっくりと思考を巡らせていたのだが、やはり慣れない場所で疲労したのだろう。そのままベッドに横たわると、あっという間に睡魔に襲われた。

 

「あ……じ、時間……!」

 目覚ましはきちんと午後三時に鳴ってくれた。

 四時にツォンと約束しているのだ。自分から言い出したことなのに、遅刻するわけにはいかない。

 眠る前にも風呂に入ったのだが、頭をハッキリさせるためにも、もう一度浴室に向かった。保温された湯船のお湯は、まだ十分温かく、シャワーで汗を流した後、ゆっくりと身体を浸す。

 私がツォンに連れられてこの部屋にやってきたのは午前十時前……それから片付けものを済ませたので、ベッドに潜ったのが午前十一時として……なんだかんだで四時間近く眠っていたことになる。

 頬が赤らむような醜態だが、そのおかげでずいぶんと身体が軽くなった感じだ。

 

 それにつけても、今はいったいどれくらいの時間軸なのだろうか?

 ミッドガルで出逢ったツォンよりも、ここにいて世話をしてくれた彼のほうがやや年若く見える。

 クラウドはまだ入社していないのだろうか……? いや、もし居たとしても、修習生か見習い兵か…… なかなか会うチャンスはないのかもしれない。

 それから、セフィロスとジェネシス。彼らは同期のソルジャークラス1stだと言う。 セフィロスは子供の頃から神羅にいたはずだから、もしかしたら今もまだ……

 

 ああ、いや、だいたいこれは私の見ている夢なのだ。なにもそのように整合性が図られているとは限らない。

 今、私が目の当たりにしているこの世界に、クラウドやセフィロスという人間が存在するのか否か、何の保証もないのだ。

 髪をドライヤーで乾かし、櫛を入れる。

 巨大な鏡に、青白い陰気な顔が映っている。支給されているスーツに着替えると、よけいに病的な雰囲気が強調されて嫌な気分になってしまう。

 当時はそれほど抵抗がなかったはずなのだが……

 

 私は再度時計を確認し、小走りに部屋を出た。夢の世界とはいえ、それでもどうしても確認したいことがあったからだ。

 先ほど手渡されたキーカードでしっかりと施錠し、資料室へ急いだ。

 

 

 

 

 

 

  ……資料室……

  一言で言っても、第一資料室だの第二資料室だの、施設研究、人事部、兵器薬品だの、神羅カンパニー本社には数多くの資料室が設けてある。

 私の目的は、第一資料室の閉架書庫だ。本当は人事部資料室のほうに行きたかったのだが、あそこは人事部以外の人間の入室を禁じている。部外者が立ち入る際には身分証明や記帳など、煩わしい手続きが必要だったはずだ。

 私は第一資料室の閉架書庫へ足を運んだ。

 第一資料室では汎用性のある資料をおいている。

 社史や経済誌など、一般の人間でもごく普通に読めるようなものだ。

 もっともこんな場所に立ち寄るのは、よほどの物好きか、来客などが時間つぶしに眺めるくらいで、用のない社員はまず立ち寄らない。

 目的の閉架書庫のコーナーも、オープンルームの開架と一緒の場所で、書棚を開くために社員証が必要だ。逆に言えば社員なら誰でもここの閉架を覗くことが出来る。

 私の目的は、パーソナルファイル……人事台帳である。

 もちろん、人事部ではなく、こちらに置かれた一般閲覧用のものは、ほとんどプライベートについては触れられていない。

 各職員のそれぞれの所属と階級、特に手柄をあげた者などには付記が施されている程度だ。毎年更新されるこのファイルなら、今現在のカンパニーの様子を知りうることができるだろう。

 

 私はまず、ルクレツィアの名前を探した。

 『ルクレツィア・クレシェント』……

 私がここにこうしているのだから、彼女は存在しないはずだが……この世界では何か起きてもおかしくはない。そして宝条……! あいつはこの場所に居るのだろうか?

 それこそ目を皿のようにして、分厚いパーソナルファイルをチェックしてゆく。

 だが、何度くり返して眺めてみても、念のため端末を使って調べてみても、『ルクレツィア・クレシェント』という名の女性は存在していなかった。

「……ルクレツィアが姿を消して、社員登録が抹消されたということなのか?」

 私の独り言に答える輩はいない。

 続いて宝条の情報を調べると、あの……男はこの世界に存在しているらしかった。ただ所属項目を見ると、本社からかなり遠方に所在している、特殊実験施設の研究施設長という肩書きになっていた。

 人知れず私は安堵のため息を吐き出した。

 ここがいかに夢の世界とはいえ、あの男とは会いたくない。……絶対に。

 いや……面と向かって対峙したならば、私は平静ではいられないだろう。

 動悸を押さえ、私は次に現実の世界で共に生きている人たちについて調べようとした。

 クラウドやジェネシスはともかく、セフィロスは居るのだろうか……?

 もし存在するなら、まだごく普通に神羅のソルジャーとして活躍している頃の彼なのだろうか……?

 手のひらにじわりと汗が滲んでくる。ついつい気が急いてしまい、ページを手繰る指先も、上手く操れない始末だ。

 腕時計のアラームを、約束の時刻にセットしておいたのは正解だったらしい。その音でようやく私は正気に返れたのだから。

 調べきれなかったファイルを定位置に戻し、後ろ髪を引かれる思いで資料室を後にした。

 時間を見つけて、またすぐに見に来ようと心に決めて……