〜 午 睡 〜
〜コスタ・デル・ソル in ストライフ一家〜
<3>
 
 ヴィンセント・ヴァレンタイン
 

 

 

「こちらが補佐官殿の執務室です。こちらの扉は、そのままタークス中央本部からの部屋続きになっております」

「あ、ありがとう、ツォン。あの……『補佐官殿』というのはちょっと……」

「では、ミスタ・ヴァレンタイン。資料の方はすでにナンバリングの上、備え付けの書架に収めてありますので、後でご確認ください。これから私室のほうへご案内いたします」

「は、はぁ……」

 いや、ミスタ・ヴァレンタインと呼ばれるのも違和感があるのだが。

 『ヴィンセント』と、ファーストネームで気軽に呼んでくれればありがたいのだが、折を見てお願いしよう。

 

 ツォンの後について執務室を出る。

 ちなみにタークス中央本部が位置するのは、神羅本社の59階だ。その上のフロアには副社長室がある。さきほどのやり取りから鑑みるに、ツォンのチームは、実質的に副社長付として、動くことが多いのではないかと感じられる。

 実際……いや、実際というか、現実世界で、ルーファウス率いるタークスとは何度か戦う場面があった。もちろん、私自身が直接会話したわけではなかったが、有能な人物だと言うのは一目見て理解できたのだ。

 

 本社からエグゼグティブルームに行くには、噴水公園(中庭)を通ってゆくか、少し長い渡り廊下を歩くことになる。遊歩道のような造りになっているので、多少の距離はストレスにならない。だが、ここを利用できるのは、ある一定の身分以上である。

 私などはそれに該当するわけだが、年若い女性社員が、大量のコピーを抱えて、中庭を小走りしている様などを見かけると、ひどく理不尽に感じたものだ。

 

 ツォンはゆうゆうと遊歩道を進み、エグゼグティブルームの高層階へ案内してくれた。

 

「こちらのお部屋になります。到着した私物はすでに室内に運んでありますので」

「あ、ありがとう……」

 ツォンはキーカードで部屋を開けると、そのままカードを私に手渡した。

「日常生活上必要なものはすべて揃っていると思いますが、ご希望のものがあればすぐに取り寄せます」

「い、いや、そんな……」

「このフロアは軍事部門で役付上層部の居住空間となっています。あまり人に会うことはないでしょうから、ゆっくりと荷物を解いて、部屋でおくつろぎください」

「あ、あの……ッ!」

 あっさりと退室していこうとするツォンを慌てて引き留める。

 ゆっくりとくつろぐなどと……まだ昼前なのだし。

「なにか?」

「ええと、この後の予定は? 今日中にすべきことがあるなら、今のうちにスケジュールが欲しい」

「今朝方、特殊研究施設からの長旅を終えたばかりではありませんか。ルーファウス副社長も、今日はゆっくり休まれるようにと……」

 身振りを交えてツォンはそう言った。

「いや……何もせずにいると返って落ち着かなくなってしまう。荷物を解いて一休みしたら、執務室に行きたいのだが、かまわないだろうか?」

「はい、補佐官室はミスタ・ヴィンセントのための執務室ですから」

「そ、それから、君以外のタークスの方たちだけでも今日中に面通しをしたい。ああ、もちろん、今居る人たちだけでもいいから。後からやってきたのに挨拶一つしないで執務に入ることはできない」

「…………」

 ツォンは言葉を飲み込み、不思議そうに私を見つめた。

「あ、あの……何か……?」

「あ、いえ、失礼しました。……上役でそういった発言をされる方を初めて見ました」

「え……あ、あの、すまない、わがままを言ってしまって…… で、でも……」

 ツォンは多忙なのだ。いろいろと都合もあるのだろう。私はつい自分の感覚で、反論する立場にない部下に、物を言ってしまっていた。

「君を困らせるつもりでなくて…… ああ、そう、君さえ許可してくれれば、私のほうから、頃合いを見計らって、タークスの本部に出向くから。どうせ、部屋は隣なのだし! あ、あの……」

「いえ、申し訳ありません。返って気を遣わせてしまったようです。そうですね、可能ならば、午後4時頃、執務室においでいただけますか。3時からミーティングが入っていますので、ちょうど皆が集まる時間です」

「あ、ありがとう!」

 ツォンの丁寧な答えに、私は頭を下げた。

「礼を言うのは私のほうです。……これからも補佐官殿……いや、ミスタ・ヴァレンタインと共に働けることを嬉しく思います」

 そう言い残すと、彼は一礼してきちんと扉を閉めて出て行った。

 私は火照る頬を押さえ、ソファに身を沈めた。磨き込まれた鏡をのぞき込むと、案の定顔が真っ赤だ。

「ツォンはいい人なのだな……」

 私はクセになっている独り言をつぶやくと、さっそく荷物を開けることにした。

 いくつかのスーツケースを端からきちんと整理してゆく。

 日用品はそれほど持ち込んでいないらしかった。まぁ、ここにはたいていのものは揃っているのだからかまわないのだろう。

 服の入ったハンガーボックスを開封する。

「……あ……これは……」

 思わず言葉がこぼれ落ちていた。

 見覚えのあるグレイッシュパープルのスーツ。薄いオリーブ色のシャツ。これらはコスタ・デル・ソルで、セフィロスが見立ててくれた一番のお気に入りだ。

 中を探っていくと、クラウドが買ってくれた淡い藤色の春物のセーター、クリームベージュのカーディガンなどが出てくる。

 

 そう……やはりこれは間違いなく、コスタ・デル・ソルの私が見ている夢なんだ。でなければ、時間軸的に過去にあたる神羅時代に、これらを持っているはずがない。

 さらにいうのなら、神羅にいた頃、私は髪を今のように長く伸ばした記憶もないのだ。

 

 あらかたの物をかたづけると、私は浴室へ入った。

 やはり疲れていたから。

 いや……夢なのに、疲れるなどというのはおかしいのかもしれないが。

 

 熱い湯が少し痛いくらいに肌を打つ。

「これでも目覚めないとは……ずいぶんとしぶとい夢なのだな……」

 他人が耳にしたら、阿呆かと思われるような文句をつぶやく私であった……