〜 銀 世 界 〜
〜コスタ・デル・ソル in ストライフ一家〜
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 ヤズー
 

 

 

「……ああ、なるほど、ここは続きですが、別棟になっているのですね」

「そう。以前台風の被害にあったときにね、手を入れて建て増ししたんだよ」

「いいですね。敷地が広いのですから、それでも余裕があります。私はマンションですので……」

「うん。ま、イーストエリアはノースに比べて土地、安いから」

 そういって、俺はカラカラと笑ってやった。

 コスタ・デル・ソルの地価は、ノースエリアが一番高いのだ。交通の利便性などに鑑みても納得がいく。俺たちの家があるイーストエリアは、良心的なお値段で、十分戸建てが購入できる居住区域だ。実際、在住するでなく、別荘も多い。

「いえ……いい場所です、ここは。こんな天候でなければ、美しい海が見渡せることでしょうね」

「ああ、まぁね。浜辺は目の前だからね。……ねぇ、支配人さん、一緒のベッドでもいい? ソファベッドだと足が出ちゃうでしょ? セミダブルだから、セフィロスの部屋ほどの広さはないけど、カダとは大抵ここで一緒に寝ちゃうし」

「ええ、まったくかまいません」

 支配人さんは、何の躊躇もなくそう応じてくれた。

 

 やれやれ、昨日からたった二日しか経っていないのに、なんだかものすごく時間が経過したような気がする。

 燃料の残りが少なくなったことから、森へ暖を取るための木を切り出しに行ったのが昨日なのだ。そこで崖崩れに巻き込まれそうになった兄さんを、セフィロスがあわやといったところで救いだし、結果、彼自身が崖下に落ちてしまった。

 そして今日。

 どうしてもと引かない、ヴィンセントと支配人さんを連れて、セフィロスの救助に向かった。

 普通に考えれば、かなり差し迫った状況といえよう事態ではあったが、相手がセフィロスということで、どこか俺は安心している部分があった。

 結果的には、予定外だったヴィンセントのことも、そしてセフィロスのことも、無事に助け出すことができた故、万事上手く収まったといえようはずなのだが……

 

 

 

 

 

 

「……セフィロスが無事で良かったです」

 傍らの枕に頭を落とすと、支配人さんは独り言のようにつぶやいた。

「ああ、ははは、あの人は殺しても死なないよ。ま、今回はちょっと普通の状況とは違うから気がかりではあったけどね」

「……すっかり足を引っ張ってしまったようです。すみません」

 ため息混じりにそういう支配人さん。

 おそらく、ヴィンセントとふたりでセフィロスを見つけたにも関わらず、自力で救出できなかったことを悔やんでいるのだろう。

 しかも、セフィロスの負傷を悪化させる方向になってしまったことが、慚愧の念に堪えないといったところか。

「っていうか、別にあなたのせいじゃないでしょう。むしろ、あなたが俺たちを呼びにきてくれたおかげで、彼らを救助できたんだから」

「……いえ…… やれやれ、自分ではもう少し冷静な人間だと思っていたのですが……情けない」

「フフフ、ヴィンセントと一緒だったからテンション上がっちゃったんじゃない? あの人もねェ、普段はいるんだかいないんだかわかんないくらい物静かな人なんだけど、こと我が家の人間のこととなると頭に血が上っちゃうみたいでね」

「ふ……ヴィンセントさんらしいです。彼はセフィロスのことを、とても大切に思っておられるのですね」

「あー、まぁね。セフィロスだけっていうんじゃなくて、ウチの連中のことはね」

 支配人さんの物言いに、どことなく含むものを感じて俺はそう答えた。

「いずれにせよ、今日のMVPはジェネシスじゃない? あのセフィロスをずっと背負ったまま、この家まで歩いて来たんだから。明日、肩でも揉んであげようっと」

「ジェネシスさん……」

「うん。いい人でしょ。ウチのヴィンセントのお気に入り」

「……ふふ、彼はヴィンセントさんのことを、女神と呼ぶのですね」

「そう、大分以前に出会ったことがあったそうなんだけど、そのときに一目惚れしたんだってさ。……コスタ・デル・ソルで再会したのは偶然だったんだけど、あっという間に仲良くなったみたいだね」

「ええ、そうでしょうね。……ヴィンセントさんはどなたからも好かれるでしょう。あのような心根をもてる人はなかなかいない……」

 支配人さんがつぶやいた。なんだかその物言いが自嘲気味だったのが気になった。

「支配人さんにだって、崇拝者はたくさんいるでしょう? その中でウチのセフィロスを選ぶっていうのが、ものすごく酔狂に感じるけどね」

「いえいえ、誉めすぎですよ。……あの人はのめり込んでこないですからね。楽なんです」

「……セフィロスのこと?」

「ええ。最初から……わかっていたので、付き合いやすいと考えていたのですが……」

「最初からって?」

 話の途中だったが、俺は訊ね返した。

「……君がうちの店で働いてくれていたとき、家族の皆さんがいらしたことがあったでしょう?」

「え……あ、ああ、そうか。そういえば、あのときが初対面か」

「ええ。クラウドさんとヴィンセントさん、カダージュくん、そしてセフィロスがいらっしゃいました。ヴィンセントさんと私の身体的特徴はよく似通っていますので……」

 『身代わりとわかっている』と言いたいのだろう。そして、そういう輩の方が、後腐れなく相手をしやすいと彼は考えたのだ。……最初のうちは。

「……深入りをしすぎたのは、むしろ私のほうのようです」

 額の上に腕を乗せて、彼は低く笑った。ミイラ取りがミイラになった……ということなのだろう。

「支配人さん…… つらいの?」

 そう訊ねてみた。俺の言わんとしていることは、明敏な彼に伝わるはずだから。

「ええ、そうですね。……そうなのかもしれないですが…… どこかで冷静に、今の自分を眺めている、もうひとりの自分がいるような気がします。今さら、誰か一人しか見えなくなっている私自身を嗤っているような……」

「今さらって…… 何言ってるのさ。あなたは綺麗だし、若いんだし、これからいくらでも人を愛することが出来るよ。……もっともセフィロスはオススメじゃないけどね」

「フ……ありがとう、ヤズー。これまで……あまりにもいろいろなことがあったから…… 自分という人間が損得勘定抜きに、誰かを本気で好きになることなど、もうないと思っていました」

「支配人さん……」

「……そういう意味合いでも、セフィロスに出会えたのは収穫だったのかもしれません」

「……過去形にしないでよ。セフィロスとは現在進行形でしょ」

「イミテーションは、どれほど磨いてもイミテーションですよ」

 話は終わりというように、彼は大きく息を吐き出した。ベッドの向こう側で、静かに寝返りをうつ。

「やれやれ……罪作りだねェ……あの人は……」

 と、独りごち、俺は聞こえないようため息を吐いた。