Fairy tales
〜コスタ・デル・ソル in ストライフ一家〜
<24>
 
 クラウド・ストライフ
 

 

 

 

 

 くるくるくる。光がまわる。

 きらきらきら。星が瞬く。

 

 巨大な広間の真ん中で、シャンデリアの洪水の中、本物のシンデレラちゃんになったつもりで、俺は踊った。

 物語の中の王子様と。

 レオンにそっくりな……姿形ばかりでなくて、その生真面目な心根さえも生き写しの彼と。

 

 うろ覚えだったワルツだけど、彼は巧みに俺をリードしてくれている。

 こんなところは、やっぱり本物のレオンとは違うんだろうなァ。あいつは、絶対ダンスなんて踊れないだろうから。

 視界の端に映るのは、吃驚した様子のヴィンセントと、なにやら楽しげに微笑むヤズー。そしてクソ意地悪いセフィロスのにやにや笑いだ。

 だが、今は気にしないことにした。

 せめて今だけは、彼のことを考えていたくて。偽物のシンデレラを愛し始めた彼に、精一杯の気持ちを捧げたくて。

 

 長かった曲が終わりに近づいてゆく。

 ああ、後、もう何小節だろう?

 俺は、踊ったまま、彼の手を引いた。広間の中央から外れ、部屋の隅に移動する。

 少し驚いた風のレオン王子だったが、俺の促しに逆らわず一緒に動いてくれたのだった。その心遣いに、胸が小さく痛んだ。

 

「……どうした?」

 先ほどまでと同じような暗がりに引っ張っていった俺を、彼は不思議そうに見つめた。大広間では、弦楽団が新しい曲を奏でている。

「やはり……足が痛むのか?」

 あまりにも疑いを感じさせない、木訥な問いかけに、俺は吹き出しそうになった。

「違うよ。そうじゃない……」

「では……」

「あのね。時間がなくなっちゃったんだ。ほら、もう0時になるだろう?」

 俺は敢えて明るい口調でそう言った。

「ああ、だが……」

 これ以上彼の言葉を聞いていられなかった。

 『クラウド』にとっては、ただのゆきずりの人なのに……俺なりに正当な理由があって、身代わりを務めたのだけど…… 胸が苦しくて、喉が痛くてたまらなくなった。

 泣き声になりそうなのを、必死にごまかして俺は口を開いた。

「うん、それにね、やっぱし、足、痛いしさ。上手く踊れないや」

 そういってガラスの靴を乱暴に脱いでやった。俺のとても淑女とは言い難い行為を目の当たりにして、彼はびっくりしたようだったが、やはり見とがめる様子は全く感じられなかった。

「そんなことはない。……短い時間だが楽しかった」

 レオンはそうつぶやいた。まるでこれでお別れなのだと、覚悟しているかのような口調で。

 

 

 

 

 

 

 ……違うじゃん、コレ。

 物語の本編はそうじゃないじゃん!

 シンデレラは0時の鐘を聞いて、まだ一緒に居られると信じ込んでいる王子の元から、姿を消すんだよ。

 そう……ガラスの靴を置き去りに……

 

「ねぇッ、コレ!!」

「…………?」

「これ!」

 俺は脱いだ靴ではなく、用意してきた本物の彼女に合う靴を取り出すと、ぐいと彼に押しつけた。

「おれ……じゃない、わたしを探して!」

「え……?」

「これで、わたしを見つけて、レオン! 待っているから。来てくれるの、必ず待っているからッ!」

 そう叫んだ途端だった。

 目の奥がジワッと熱くなって、鼻がツーンとした。

 そんな顔を見られたくなくて、俺は彼を振り切り、駆けだした。

 エントランスに続く、長い螺旋階段を、裸足のまま走った。

「待ってくれ……!」

 ちゃんと聞き取れたわけじゃない。

 でも、多分、そう言って引き留めてくれたんだと思う。

 だが、足を止めるわけにはいかなかった。俺はもうシンデレラじゃなくて、クラウドになっていたから。

 最後の華やかな明かりが点るエントランスを駆け抜け、そのまま石畳みを抜ける。

 

 きっと、察しのいいセフィやヤズーが、途中退室した俺の行動を先読みしていたのだろう。

 すでに車が回され、出発の準備が整っていた。

 

 ヴィンセントが俺に向かって走り寄ってきてくれる。ひどく心配そうに……それでも精一杯の愛情をあらわした表情で。

 

 本当は上手くごまかせればよかったんだけど。

 さっさと涙をぬぐって、夜の暗がりで紅く腫れた目を隠してしまえばよかったんだけど。

 でも、このときの俺は、バカみたいに泣き顔のまま、ヴィンセントの胸に飛び込んだ。彼がやわらかく俺を受け止めてくれて、なんだか本当に女の子になっちゃった気分だった。

 

「……クラウド……?」

「ご、ごめっ……な、なんでも……ない……」

 俺はあえぎながらそう言った。でも、ほとんど言葉になっていなかった。

「クラウド……クラウド……」

 ヴィンセントは何も言わず、何も聞かず、ただ女の子の姿の俺を抱きしめてくれた。

 ヤズーやセフィロスも驚いたのだろうけど、彼らも何も問わなかった。

 

 なんだか久しぶりに思い切り泣いたような……そんな気がした。