Fairy tales
〜コスタ・デル・ソル in ストライフ一家〜
<22>
 
 クラウド・ストライフ
 

 

 

 

 いや、もうちょっと、コレどうするよ?

 ヤバくない? 本気でマズくない!?

 この状況で巻き返しとか可能なの?

 いや、いっそ、「さよならーッ!」って逃げちゃったほうが、俺のためにもシンデレラちゃんのためにも、まだマシなんじゃないだろうか……!?

 

「……どうした?」

 王子の静かな声が俺の現実逃避を遮断した。

「えッ……あ、い、いや……その……」

「真っ青だぞ、具合でも悪いのではないのか?」

「え……あ…… そ、そうじゃなくって…… あ、あのッ、ゴメン……じゃねー、失礼しました!! 王子様とかってわかんなくて……」

「ああ……なんだ、そんなことか」

 そうつぶやいた王子の物言いは気怠げで、ひどくうんざりしているように聞こえた。

「別に…… 確かに私は次期当主になる者だが、ただ単に、この場所に生を受けたという、それだけのことだ」

「いや、だってそう言われてもさ…… やっぱ、アレ、王子様って偉そうじゃん?」

「偉そう……か。フフ……」

「あ、違う! 違うの! アンタ……いや、レオンが偉そうっていうんじゃなくて、その身分がそんな風にカンジさせるってだけであって、別に王子様自身が偉ぶってるとかそーゆーんじゃないからッ!!」

 女言葉をしゃべるのも忘れて、俺は慌てて弁解した。なんだか彼がすごく傷ついた顔をしたから。たまらなくなって急いで言いつのった。

「『レオン』……」

「えッ、あ、ゴメン、つい……」

「いや、いい。長ったらしいファミリーネームやファーストネームを呼ばれるよりも、気持ちがいいものだな。よい響きだ。……気に入った」

 俺はあらためて、隣に腰掛ける男の顔を見つめた。いや、正確には『盗み見た』だ。

 さすがにこれだけいろいろ言ってしまった後に、直接凝視する勇気はなかったからだ。

 だが、すぐに俺の視線は王子……いや、レオンの瞳と出会っていた。彼も俺のことを見ていたのだ。

 

 ……ああ、本当によく似ている……

 もうひとつの世界で、『クラウド』と一緒に生活しているあのレオンに。

 俺がホロウバスティオンに迷い込んだとき、親身になって世話をしてくれた彼に……

 

「……おまえは……どこの家の者だ?」

 王子が訊ねてきた。よくよく考えればごく当然の質問なのに、俺は慌ててしまった。

「えっ……あ……う、うん……ええと……その……」

「……城は初めてか?」

「えッ…… あ、ああ、うん。あんまし、こういった場所にはこないから」

 そんなふうに俺はごまかした。

「そうなのか……? だが、おまえは上流貴族の娘なのだろう? その年ならばサロンや、城での定例舞踏会に……」

「あー、いや、悪いけど、あんましそういうの、好きじゃない。あ、違うの。お城が嫌いって言うんじゃなくて」

「…………」

「なんかさ。ちょっと見ただけだけど、来ている人たち、あんまりイイカンジがしないんだよね。初対面なのに相手の家柄とか訊き出そうとしたりさ。似合いの娘がいるから紹介したいとかさ。……なんつーか、さもしいカンジ」

 俺は口を尖らせてそう言っていた。これは本音だった。

 さっきヴィンセントが周りの連中に言われていたこと……悪気はないんだろうけど、ヴィンセントは「モノ」じゃないんだ。

 仮にヴィンセントがこの世界の人で、本当に大貴族の跡取りだとしても、ただそれは彼のおかれている立場がそうってだけで、ヴィンセント本人の魅力は別にある。

 俺はヴィンセントが国家主席でも、スラム街の出身でも、変わらず彼を愛したはずだ。

 家柄や地位だけに興味をもって、ヴィンセントにたかってきた輩は、見ていてひどく不愉快だったのだ。

 ……ま、もちろん、連中を引きつけたのは、ヴィンセントのすこぶる美しい容姿があってこそとも思うけどさ。

 

 

 

 

 

 

「……だから、ここに来るのは初めてだよ」

 俺はそう締めくくった。王子はたいそう興味深げに話を聞いてくれていた。ちょっと寄り道して、ヴィンセントのことを考えちゃったのが申し訳ないほどに。

「……では、今宵は何故に?」

「え……あ〜…… な、なんとなく!」

 力一杯曖昧な理由でやり過ごす。

 しかし言うに事欠いて「なんとなく」とは。我ながらアドリブのきかなさに嫌気がさしてくる。

 セフィがいたら「ボケナス!」と怒鳴られるところだ。

「……ふふ、なんとなく、か。おまえらしい物言いだな。あ、いや、初めて会ったのに、そんなふうに感じるのは可笑しいのかもしれないが」

「あ、で、でも、お互いを知り合うのに、時間とかあんまし関係ないじゃん」

「ふふ……そうかもな。……おまえの話は実に興味深かった。そして感心した」

 まんざら冗談でもなく、王子はそう言った。

「え〜、そんなふうに言われちゃうと困るけど。本音だからさ〜」

「おまえのいうとおりだと思う。私もつねづねそう感じていた。……だが、それを明確に言葉にした娘はおまえが初めてだ」

「そ、そう?」

「ああ……初めてだ。おまえのような娘は……」

 そうささやくと、王子さまは笑いながら言葉を続けた。もっとも『笑う』とはいっても、彼のそれはいつでもほとんど『苦笑』なのであるが。

「今宵の生誕祭は、私の妃候補の選定のようなものだ。父君ももうお年ゆえ、そろそろ孫の顔が見たいなどと所望される」

「あ……そ、そーなんスか」

「今夜の集まりには、国中の貴族の娘が集まるからな。その中から好きに選んで良いという有り難い仰せなのだ」

 独り言のようにそうつぶやくと、彼は少し骨張った綺麗な指で、長めの前髪を掻き上げた。

「フ……ッ」

 と、笑みのようなため息のような吐息をする。

「あ、あの……あんまり有り難くなさそーなカンジっすね」

 正直者の俺は、ついそんなことを口走ってしまっていた。

 すると彼は顔を持ち上げ、さもくだらなさげに俺に言った。

「では……おまえならどうだ? 世継ぎを作るためだけに、二十歳になったら初対面の男たちの中から、適宜ひとりを選択しろと迫られたとしたら」

「あー……まぁ、そりゃぁ……」

「家柄だけを認知し…… 人柄など何も知らぬその者と、褥を……あ……その、いや……失敬」

「ああ、ほとんど初対面の野郎とエッチして子供作るのはどうかってこと?」

 俺がそういうと、王子はキョトンとした面持ちで俺を見つめた。

 いかん。

 超ストレートに訊いてしまった。どうもこの手の話になると、俺は率直になりすぎるらしい。よくヴィンセントに言葉を注意されていたのに。

「あー、いや、その……直接話法過ぎだよね。ゴメン」

 一応謝ってはみたが、その必要はまったくないようだった。彼の俺を見る目は、さきほどよりもずっと真っ直ぐで、言葉はなかったけど、好意的に感じられたからだ。

「……おまえは、つくづく面白い娘だな」

「は? いや、そういわれると、褒められてんだか、貶されてんだか……」

「褒めているのだ。おまえのような少女は周りにいなかった」

 しみじみとした感慨深げな口調でそうつぶやくと、王子は手袋をした俺の手を、そっと取った。

 …………?

 ぶっちゃけ、『キモッ』と、思ったが、「放せ」とは言わずにおいた。

 その方が……いいような気がしたから。