Fairy tales
〜コスタ・デル・ソル in ストライフ一家〜
<17>
 
 クラウド・ストライフ
 

 

 

 

 

 

「シンデレラちゃん……! どうしたの、その足……!!」

 彼女の部屋の扉をあけた瞬間、ヤズーが悲痛な声を上げた。思わず俺も抱えてきたドレスの束を落としそうになった。

 彼女は雨に打たれた子猫のように、身を震わせて泣いていた。

 片方の足には痛々しげな包帯が巻き付けられている。

「シ、シンデレラちゃん……」

 俺たちが彼女の側に寄ると、こらえきれなくなったのだろう。わっと声を上げて、ヤズーの胸で本格的に泣き出してしまった。

 ……あー、何があったかはわかんないけど、泣きつく相手はやっぱしヤズーなんだね〜

 

 尋常じゃない状況だというのは見ればわかるはずなのに、わずらわしげに舌打ちするセフィロス。大人げないなぁ、もう!

 そんな彼を奥の古ぼけたソファのほうに引っ張っていき、彼女が落ち着くのを待つことにした。ヤズーに任せれば、時間はかからないだろうから。

 カダやロッズも、彼女と仲良くしていたせいか、ひどく心配そうに、泣いている彼女の傍らについていてやった。

 

「……ねぇ、シンデレラちゃんの……あれって怪我……だよね? ……たぶん」

 俺は押し殺した声で、セフィロスとヴィンセントに向かって訊ねた。

「ああ……だが……」

「包帯巻いてるし、見りゃわかんだろ。ああして取り乱しているってことは、とてもダンスなんざ踊れる状況じゃないんだろうな。……おい、いったいどうなっているんだ、ヴィンセント?」

 セフィロスが、童話の内容にくわしいヴィンセントに声を掛けた。

「え……あ、ああ…… 物語ではこんな展開はない。私にもどうなっているのか…… もっとも、童話には私たちのような人間の登場もないわけだから、何から何まで物語り通りに話が進んでいるとは言い難いのだが…… これは困ったことになったな……」

 ため息混じりにヴィンセントがつぶやいた。

 俺だって、『シンデレラ姫』の流れくらいは覚えている。ところどころ欠けているかもしれないけど、確かシンデレラが怪我をする……なんて場面は無かったはずだ。

 

 

 

 

 

 

「あー、ちょっと、まずい状況みたい」

 シンデレラちゃんをカダとロッズに任せて、ヤズーがこっちに戻ってきた。脱力したようにソファに座る。

 実際、ハァ〜ッと、ヤツらしからぬため息を吐いた。

「どうだって、ヤズー?」

「お察しの通り、怪我……だよ。捻挫らしい。掃除をしているときに、義姉にぶつかられて、花壇に落ちたんだって。……相手に悪気があったのか無かったのかは知らないけどさ」

 参ったというように、両手を広げてつぶやくヤズー。ああ、なんだか本格的にピンチなカンジだ。

「だから言っただろう。あの娘のクソ親父と継母どもを斬っておけと!」

「……極端なんだよ、セフィは」

「だが……本当に困ったな。舞踏会は今夜きりだろう。このチャンスを逃すと彼女と王子を会わせる機会は無くなってしまう」

 とヴィンセントが言った。

 そうなんだ。この舞踏会は王子の生誕二十年を祝ってのパーティなのである。今夜一夜きりで、明日はない。

 この特別な舞踏会で、王子とシンデレラ姫は、運命的な出会いをしなければならない。

「ヤ、ヤズー…… 彼女の怪我の具合はどうなのだろうか? ダンスを踊るのは……」

「あー、残念ながら無理無理。ちょっと触るだけで痛いみたいなんだもの。腫れが引けば治るのは早いだろうけど、今夜はとても無理だよ」

「そ、そうか……」

「おい、クソイロケムシ。てめェの取り柄はツラと機転だろ。何か策はないのか?」

 偉そうに訊ねるセフィロス。

 ヤズーは、しばらく押し黙ったままだったが、もう一度、ふぅと吐息すると、ようやく口を開いた。

「……まぁ、ちょっとね。策っていうか……考えはあるよ。でも、状況が状況だから。『あのとき』とは違うからね。上手くいくかどうか……」 

「な、何なのだ、ヤズー? もう猶予がない、可能なことならば何でもしてみなくては……」

 ヴィンセントも必死に言葉を重ねる。シンデレラちゃんのため……というのもあるだろうけど、ヴィンセントもあの家に帰りたいのだ。思い出のつまったあの家へ……なんとしてでも。

「……わかったよ。でも、これは兄さん次第なんだ」

「な、なんだよ」

 そう名指しされて、嫌な予感がしてくる。セフィロスがすぐさま『なるほど』というように俺を見た。

「ク、クラウド次第……?」

「うん。……あのさ、兄さん。支配人さんのクラブでヴィンセント助けるために女装したことがあったでしょう?」

「……ええッ!? いや、でも、あれはヴィンセントのためにどうしても仕方がなかったから……!」

「そうそう、おまえ、しゃべらなければ、けっこう可愛いお嬢さんだったよな」

 茶化すようなセフィのセリフが超ムカツク!

「今回もどうにも仕方がないんだよ。むしろピンチってことでいうんなら、今のほうが大ピンチさ」

 と、ヤズー。

「……そ、それは……そうかもしれないけど……」

「なんとかシンデレラちゃんの代わりを務めてくれない? とりあえず、『出会い』のフラグだけは立てなくっちゃね」

 ヤズーが、恋愛シミュのような物言いをする。

 予想通りの展開に、半分あきらめ心地になりつつある俺であった……