Fairy tales
〜コスタ・デル・ソル in ストライフ一家〜
<18>
 
 クラウド・ストライフ
 

 

 

 

 

 

「はい、兄さん、顔上げて、『うーッ』ってカンジで」

「うーッ……」

「クラウド……後ろを留めるから……少しじっとしていてくれ」

「はい、ヴィンセント」

「クソガキ、言っておくが軽率な行動は慎めよ。目標は王子ただひとり。ヤツさえ落とせばそれで終わりだ」

「ケッ、セフィ。えらそーに!」

 大人組三人でよってたかって、俺をシンデレラちゃんに仕立てあげている。

 チャームポイントのツンツンヘアをムースで落ち着かせ、長いブロンドの巻き毛をピンで留めてゆくヤズー。ヴィンセントはドレスに合った清楚な色合いのリボンをやさしく結んでくれた。

 こんな感じで、ヤズーとヴィンセントは、もっぱら衣装を整えたりなど、支度を手伝ってくれているのだが、セフィは偉そうに指示をかましてくるだけだ。

 まぁ、最初からあのエロ大魔神には期待してないけどね。

 

 ……しかし。

 なんと、まぁ、おとぎの世界でまで女装することになるとは。

 ぶっちゃけ、俺はヴィンセントみたく恥じらいタイプじゃないから、女装することそれ自体がひどく嫌なわけではない。もちろん、喜んでしているつもりでもないけど。

 何が不安かって、いうまでもない。

 千載一遇のチャンスに、シンデレラちゃんの身代わりとして参戦すること。

 そして物語上、ヤズーのいうとおり、王子の記憶の中に俺との『出会い』のフラグを立てるほど、好印象でなくてはならないこと。

 こいつはなかなか重そうな課題だった。

 

 あわよくば押し倒し……まではいかなくてもいいから、なんとなく将来的な展望がみられるような……つまり甘い雰囲気で終えることができれば大成功だと思うけど、相手あってのことだから、確信をもって任せておけ!とはいえない。

 さらに言わせてもらえれば、ぶっちゃけ、好きでも何でもない男を口説くこと……それ自体が非常にかったるい。

 だって、俺の恋人はヴィンセントなんだから。

 他の野郎を相手に愛想振りまくなんざ、まるきり興味のない事柄なのである。面倒くさいし、煩わしい。

 だが、現実としては、その大切なヴィンセントのためにも、このチャンスは完全に活かしきらねばならなくて……失敗は許されない状況なのが、ストレスなのだ。

 だって、やりたくもないこと、無理にやらされて、そのうえ、失敗は許されないなんて……たまらないと思わない?

 ま、もちろん、可愛いシンデレラちゃんの将来もかかっているわけだから、ベストを尽くすけどさ。

 

「……クラウド、すまないな」 

 口には出せない苦情を、心の中でこねくり回していると、ドレスを直してくれていたヴィンセントが、傍らからそっと声を掛けてきた。

 たぶん、シンデレラちゃんに聞こえないようにとの配慮だろう。

「ん? なにが?」

「いや……こんな大変な役目を……」

「えー、まぁね。でも仕方ないよ。それにヴィンセントのせいじゃないし」

 極めて軽くそう言ってみたつもりだったが、彼の心は晴れないようであった。

 ふぅとため息をはき出すと、心配そうなまなざしで俺を見つめる。

「おまえは頼りがいがあるから……つい皆、無茶を承知で期待してしまう」

「えー? ホント、へへへ!もっと言って! でも、ヴィンセントがそう思ってくれるんなら、すっごく嬉しいな。女装のひとつふたつどうってことないよ」

 茶目っ気たっぷりにそう言ってみると、ようやく彼は笑ってくれた。『苦笑』といったふうな曖昧な笑みであったが。

 セフィが、俺たちのラブラブムードに、さも、くだらなさげに「ケッ」と悪態を吐いたが、そいつは黙殺した。

 

 

 

 

 

 

「はい、兄さん、できあがり。やっぱドレスのサイズ直しに手間取ったね!」

 ヤズーとヴィンセントが俺から一歩離れた。

 シンデレラちゃんが不思議そうに俺を見つめる。

 なるほど……等身大の鏡には、俺…… いや、綺麗なハニーブロンドを肩に垂らしたお姫様が立っていた。

 シンデレラちゃんは感動した様子で、俺の手をとってぎゅっと握りしめてくれた。

「うーん、兄さん、可愛い可愛い!」

「本当に愛らしいな…… もともとおまえは容姿に恵まれているから」

「へへへ〜、ありがと」

 普段あんまり誉められることがないせいか、手放しの賞賛についつい口元がゆるむ俺であった。

「バカヤロウ、気を抜くなボケナス。言っておくが、舞踏会ではおまえは女なんだぞ? あくまでも貴族の娘として振る舞わなければならんのだからな!」

 ツケツケと苦言を呈してくるセフィロスに、

「わかってるよ、そんなの!」

 と、言い返した。

 もう、ここまできたらやるっきゃない!という気持ちで。そう、シンデレラちゃんの幸せのために、ここでやれなきゃ男じゃねェ!

 胸にはしっかりアンマンを仕込んだんだし、どっから見ても、可愛い女の子のはずだ!

 だいたい、初めて女装体験したコルネオの館ででさえ、一緒にいたティファ、エアリスを華麗にスルーして、俺がお相手に選ばれたのだから!

「クラウド……私たちも付いているから……どうか、気をしっかり持って……」

「う、うん、わかってるよ、ヴィンセント…… って、ヴィンセントたちも一緒に行くんだったよね!?」

「たりめーだろ。そのために、わざわざ招待状を偽造までしたんだからな」

 そういうと、セフィロスが二通のカードをひらひらと振って見せた。なんせ、この時代……というか、世界の『手紙』である。

 最小限の内容しか書かれていないから、まずバレることはなかろうが……会場についた後に、トラブルに巻き込まれないよう、十分気をつけなければならないだろう。

「そろそろ時間がないな……まもなく舞踏会が始まってしまう。我らも身支度を調えよう……セフィロス」

 ヴィンセントが未だソファでくつろいでいるセフィロスを促した。そして、カダージュとロッズに、シンデレラちゃんの身柄をしっかりと頼んでいた。

 何の心配も要らないということ、安心して我々の戻りを待つようにとのこと。

 本当なら貴族の車っぽく、運転手役をしてもらいたいところなのだが、彼女をひとりで残していくのはよくないとヴィンセントが判断したのだった。