End of Summer
〜コスタ・デル・ソル in ストライフ一家〜
<16>
Interval 〜04〜
 
 セフィロス
 

 

 

  

 

 

 

 

「セ、セ、セ……ッ!!」

 ヴィンセントが奮える指先をオレに向ける。

 サーッと血の気が引いた後、面白いように真っ赤になった。

「アッハッハッハッ! ああ、可笑しい! 本当におまえは退屈させないな」

「まさか……ッ!? セ、セフィロス……? セフィロスなの……かッ?」

「フッフッフッ……ようやく気付いたか、軟弱者」

 

「……〜〜〜〜〜ッッッ!!!!」

 おそらくヴィンセントは、驚愕のあまり、悲鳴を上げたのだろう。

 だが、その声は、扉の向こう側の大声に掻き消された。扉を叩き壊すかのようなノックの音。

 ……本物のクラウドだ。

 

「ぎぃああぁぁぁぁーッ! ヴィンセントーッ! 開けてーッ!開けて〜〜っ!」

 ダンダンダンダンッ!!

「セフィッ! 起きてんだろっ! 早く開けろよ! ヴィンセントに触るなッ!!」

 ズガッ! ドコッ!   バキィィィ!!

 

 どうやらドアを蹴り飛ばしているらしい。クラウドの慌てる顔が目に見えるようだ。

 さもあろう。昨夜の続きの寝物語の続きを、このオレ様が引き継いでいる状況なのだから。もちろん、ヴィンセントもオレ自身も何一つ身につけていない。

「開けろーッ! エロエロ魔人ッ! ヴィンセント、がんばってーッ! 早く逃げてェェェェ!」

「……フフフ、クソガキが目覚めたようだな」

「……あ、あ、あ……わ、わ、私は……私は……」

「フフン、どうしたそんな顔をして? 今さら怯えることもないだろうが? おまえはオレとずっと一緒に居たいんだろう? 離れたくないと泣いていたではないか?」

「あ……あ……ああぁぁーッ!!」

 唐突に頓狂な声を上げ、ヴィンセントはもぐらのようにシーツに潜り込むと、オレから距離を取ろうと身をよじった。

 ……そうはいっても、しょせん狭苦しいセミダブルだ。ヴィンセントの華奢な体躯はシーツにひっ絡まったまま、ずるりと滑って、ベッドサイドにこぼれ落ちた。

 ドシンと鈍い音がする。 

「おい、大丈夫か、少し落ち着け」

 クスクス笑いながら、手を差し伸べるが、完全にパニック状態なのだろう。シーツにくるまったまま、芋虫のように丸まり、頭を横に振って泣くだけだ。

 

「ちょっ……セフィーッ! 何だよ、今の音ッ! 何かヤラシーことしたんじゃないだろうなッ! ヴィンセントに触んなよッ!!」

 ダンダンダンッ!

「ああ、おまえかクソガキ。朝っぱらから騒々しいぞ」

 扉の向こうのクラウドに、煩わしげに声をかける。

「セフィ!! 開けろよッ! 早く開けろったらーッ!」

「……ハァ? オレの身体でやりたい放題したくせに、よくもまぁエラそうに言ってくれる」

 ちらりと目線を投げると、ヴィンセントは今にも人事不省に陥りそうなほど動揺した。

「す、すま、すま、すま、すま……」

「スマスマ?」

「すま、すまない……ッ! も、もう、もう……ほ、ほんとうに……な、なんと謝罪すれば……」

 ガチガチの歯の根の合わない口で、必死に謝るヴィンセント。

 別に虐めるつもりはないのだが、こいつの怯えた表情を眺めるのは、思いの外心地良い。やはりオレは「イジワル」なのだろう。

 

「セフィッ! ごめん!ごめんってば! 俺が悪いの! 俺が無理やり……」

「バーカ、そんなこと聞かなくとも容易に想像がつくわ」

「……あ、謝るから、謝るから! ご、ごめんなさいッ!セフィ! 勝手なことして、ほんとゴメン!! だから開けて! ヴィンセントにひどいことしないでッ!」

 クラウドは必死だ。

 この子の必死の形相も泣き顔も可愛らしくて好ましい。もっとも今は、固く閉ざされた扉の向こう側なので、見ることは出来ないが。

 

「フフフ……別に謝ることはない、クラウド。オレはこいつを気に入っている。入れ替わりであったのが残念だな」

「不穏な発言をするなーっ! でもやっちゃったことはゴメンなさいッ! とにかく開けてよ、セフィ!! 中に入れてッ!!」

「おまえひとりでいい思いをして、それで終いか?」

「だ、だって……だって……! ごめんってば! とにかく……とにかく許してよッ! ヴィンセントは悪くないんだから!」

「こっちも30分程度で終わる。……邪魔をするなよ、クソガキ」

 扉に向かって、イタズラっぽくそう言ってやると、オレは床に蹲ったままのヴィンセントをひょいと片手で抱き上げた。そのままベッドの上に戻してやる。

 

「……ひッ……」

 ヴィンセントの高い悲鳴。

 それにかまわず、オレはか細い四肢を、シーツに縫いつけた。

 ギシッと鈍い音を立て、寝台が抗議する。

「ああッ……! セ、セフィ…ロス……ッ!」

 まさか殴られるとでも思っているのか、ヴィンセントは完全に怯えきっているようだった。その声を聞きつけてクラウドが大慌てに慌てる。

「ちょっとォォォ! 何してんだよーッ! セフィロスーッ! 開けろーッ! ここ開けろよ〜ッ!」

「クックックッ……」

 クラウドの進退窮まったような慌てぶりが可笑しくて、オレは扉のほうを向いて笑ってやった。

 

「開けろーッ! いいかげんにしろよ、セフィーッ!!」

 クラウドの怒声。

「扉の外は気にするな。おとなしくしていろ、ヴィンセント!」

 あえてクラウドに聞こえるように、声を上げる。

 睦言のボリュームとしては不自然な大きさだが、動揺しまくったクラウドは、そんなことにも気付かない。

 ヴィンセント本人は、惚けたように四肢を磔にされたまま、身体の上のオレを見つめている。

「きああぁぁぁ!ヴィンセントーッ! 逃げてーッ! 開けてーッ!」

「フッフッフッ……おまえがこのオレに逆らえるか…… 無駄な抵抗は止せ、ヴィンセントッ!」

 ベタなセリフにも、一向疑う様子もない。オレはわざとらしく寝台を足蹴にしてみせた。ドカッ!と不穏な音が響く。

 クラウドの動揺は最高潮に達し、扉を蹴り壊す勢いになった。