End of Summer
〜コスタ・デル・ソル in ストライフ一家〜
<最終回>
Interval 〜04〜
 
 セフィロス
 

 

 

  

 

 

 

 

「ぎぃあああッ! 開けろーッ! バカセフィー! ヴィンセントに触んな〜〜ッ!」

 むなしく響く、クラウドの叫び声。 

「あ、あの……セフィロス……?」

「しっ……黙ってろ。オレの身体で勝手なことをしてくれた罰だ。……ガキは甘やかすとつけ上がるからな」

「……そ、そんな……」

 ヴィンセントとこっそり会話をしている間にも、扉を壊さんばかりの攻撃が繰り返されている。

 

「くっそー!剣、剣ーッ! あ〜、どこ置いてあるかわかんない! あ、ヤズー!ヤズーってば!!」

「ふぁぁ〜……オハヨ。……何騒いでるの、セフィロス……?」

「違うのッ! 俺、俺だってば!」

「ああ、はいはい。朝ご飯まではもうちょっと時間掛かるよ。お風呂にでも入ってきたら?」

「ねぇってば! ヤズー! 聞いてよッ!」

「ほら、どいて頂戴。新聞取りに行くんだから……」

 

 ……気の毒に。

 イロケムシにまで見放されたクラウド。 

 

「うわぁぁん! セフィーッ! 開けてよーッ! お願いッ! もう勝手なことしないから〜ッ! ごめんなさいィィィッ!」

 とうとう、どうしようもない猪突猛進のクソガキは、盛大に泣き出した。

「クックックッ……」

「セ、セフィロス……もう、ゆ、許してやってくれ……ク、クラウドは悪くないのだ」

 ビクビクと震えながらも、ヴィンセントはようやくまともに口をきいた。

「おまえなァ。お人好しもいいかげんにしておけ。あんな状況で押し倒されたら、怒鳴りつけて追い出してやれ!」

「わ、私は……力ではクラウドにかなわないし……」

 伏し目がちになって、ボソボソと言い訳する。

「そ、それに……昨夜は、ものすごく不安そうで……その姿がひどく可哀想に思えて……」

「フン。不安で可哀想な思いをしていたのは、おまえのほうだったのではないか?」

 先ほどの会話を引っ張り出して、そう言い返すと、ヴィンセントは面白いように頬を上気させた。

「すまない……あんな見苦しいところを……君に煩わしい思いをさせたくないのに……まさか、元に戻っていたとは思わなくて……」

「なァ、ヴィンセント。そんなにおまえはオレの言うことが信じられないか?」

 俯く顎を片手で捉え、無理やり持ち上げ目線を合わせてみる。

 ……まぁ、確かに散々、意地の悪いことをしてきたし、普段の生活の中でも、からかったり笑ってやったりで、ほとんどやさしい言葉なぞ掛けてやった記憶はない。

 口先だけの「信じろ」では説得力がないのかもしれない。

 

「……それは……あの……」

「別に怒っているわけではない。優しくしてやった覚えもないし、おまえが怯えているのも知っている」

 クスッと笑いが口をつく。

……そう、こいつは未だに、オレを恐れ、怯え、それでも共に居たがるのだ……まったく酔狂なヤツだと思う。

 

「ち、違うんだ……セフィロスは……本当は優しい人なんだと思う……いや、私はそれを知っている」

「ほぅ……貴様はまったく物好きな男だなぁ、ヴィンセント。クックックッ」

「…………」

 恨みがましい眼差しで、下から見上げるヴィンセント。笑われたのが不快だったらしい。

「私は……自分をよく知っているから。……至らないところや醜いところ……君のような優れた人から見たら、さぞかし情けなく、唾棄すべき人間に見えようと思う」

「唾棄すべき、ね。さすがに古めかしい言葉を使うな、ヴィンセント」

 そう言って鼻で笑ってやっても、ヤツは吊られて笑いも、また眉を顰めることもなかった。

「だから……君が必要な人間たちを連れて……いつの日か、この地を捨ててゆくのだと思うと……怖くて……本当に……怖くて……」

 ボトボトと、大粒の涙がシーツに染みを作った。

 やれやれとため息をつきたいところだったが、さすがにそれは可哀想な気がした。

 これまで散々、「一緒に連れて行く」と言っているのに、こんなにも埒のない不安感に苛まれるヴィンセント。それを「何故わからない?」と責めるのは簡単だ。

 だが、ヤツはわからないのではない。「わかってはいけない」と思っている。

 

 オレの言葉を「わかって」、永遠に皆と一緒に居られると信じて……その状況の中で、万一裏切られたら? 望みが叶えられなかったら?

 ヤツにとっては、もはや生きていくことさえできないほどの苦痛なのだろう。

 だから、「わかってはいけない」「わからないことにしておかなくてはならない」。

 もし……万一、捨てられたとしても、「ああ、やっぱりな……」と、その衝撃を緩衝したいから。傷口を少しでも浅くしたいから。心を引き裂く痛みをわずかでも楽にしたいから……

 簡単には死ねない身体のヴィンセント。どれほど残酷なことがあっても、長らえてしまうヤツの肉体……だからこそ、長い生を楽なものに……安寧なものにしたい。

 そう考えるヴィンセントを、嘲笑する気にはなれなかった。

 

 

 

 

「怖いか……ヴィンセント?」

 オレは扉の外の騒音を無視して、そう訪ねてみた。

 彼は黙ったまま、コクリと頷いた。

「そうか、怖いか」

 そっと手を伸ばし、黒髪に触れる。

 ビクリと身を固くしたが、抗いはしなかった。

「……おまえはそれでいい」

 オレはヤツの耳元に口唇をよせ、低くささやいた。

「……え……?」

 不思議そうな声音。

「……そのままでかまわん。ずっと怖がっていればいい」

「……セフィロス……?」

「オレはな、そんな愚かなおまえを気に入っている……好きなだけ恐れていればいい。そう……オレのこともな」

 この上なくやさしい声音でささやき掛けると、半開きになった唇にそっと口づけた。

 ヴィンセントは惚けたまま、微動だにしなかった。

 

 ……と、そのときである。

 

 ドカッ! バキバキバキ! ドッガァァァン!

 

 クラウドの真空跳膝蹴りが、ドアに炸裂した。

 重厚な扉がベキベキと音を立てる。どこぞの金具が吹っ飛んだようだ。

 

「ゼッゼッゼッ ヴィンセントーっ! 今助けるからなーッ!」

 息を切らせながらも、果敢に飛びかかってくるクラウド。

 シーツを抱きしめたまま、石像のように固まっているヴィンセント。

 そして、オレはローブをひっ掴んで、素手で応戦した。

 

 ドッタンバッタンと取っ組み合いになるのを、寝台の上から口のきけない姫君よろしく眺めるヴィンセント。

 どこから現れたのか、魔女のヤズーがガウンをヴィンセントに着せ掛け、そっと連れ出す。

 

「セフィのバカーッ! ヴィンセントは俺のだぞーっ! 勝手に触んなーッ!」

「黙れ、やりたい放題のクソガキがーッ! てめェもアイツもいずれオレのものになるんだ! このオレ様に逆らうなーッ!」

「キィィィィ〜ッ!」

「かみつくな、ボケナスがァァァ!」

 

 ……ようやく日常が戻ってきたようだ。

 騒々しくてクソ慌ただしい、コスタデルソルの家……

 

 大人しくてトロくさいヴィンセントに、おっちょこちょいのワガママ・クラウド。そしてまさしく魔女と評すべき、イロケムシ……もといヤズー。こまっしゃくれた末のカダージュに、泣き虫ロッズ。

 

 まぁ、もうしばらく、ここに居ようと思う。

 時間はまだまだ十分にあるのだから。

 

 このクソくだらない日常も……そう悪いものでもない……最近そう感じている自身に、つい苦笑が漏れる夏の日のできごとであった…… 

 
 
 
 
 
 
 

 
 
 
 
 終わり