End of Summer
〜コスタ・デル・ソル in ストライフ一家〜
<14>
Interval 〜04〜
 
 セフィロス
 

 

 

  

 

 

 

 

「『ねぇ……ヴィンセント?』」

 クラウドの口調を真似て、甘えたように言ってみる。その言葉が自分の口からの出ているとは信じがたいような、甘ったれた気色の悪い声音だ。

「ん……? どうした?」

「『ヴィンセント、セフィのことどう思ってるの?』」

「え……?」

「『ヴィンセント、いっつもセフィのこと心配するよね。今だって傷口見てたし』」

 ツンと不平そうに口をとがらせて言う。

 

「そ、それは……彼は私を庇ってケガをしたのだから……」

「『だって、そんなこと、セフィが勝手にやってくれたんでしょ? ヴィンセントが頼んだわけじゃないじゃん』」

「クラウド……なんて言い方を…… セフィロスはとても強く、やさしくて賢い人だ。彼にとっては守ると決めた人間たちを、その手で庇ってくれたのだろう。その時に負った傷なのだぞ?」

「『……じゃあ、セフィはヴィンセントのこと、好きなんだね。守る人って決めたんだから』」

「……なぜ、彼があんなふうにしてくれたのか……それは私にもわからない。だが、そのことは本当に嬉しいし、身に余る光栄だとも思うし……そう、僥倖だ」

 『僥倖』と来たか。

 ……まったく堅苦しいヤロウだ。

 

「『……ねぇ、ヴィンセント』」

 オレはやや口調を変えてイタズラっぽく切り出した。

 クラウドの物真似はお手の物だ。特徴がハッキリしているし、長い間、側に置いていたのだから。

「……ん……?」

「『もし……もしもだよ?』」

「……何なのだ……?」

「『もしも……セフィロスがヴィンセントのこと、好きって言ったらどうする? なんて答えるの?』」

「……クラウド……」

「『ねぇ、なんて答える? 困る……? 嫌……? 怖い……?』」

「クラウド……何を言い出すのかと思えば……」

「『だって俺、ヴィンセントのこと好きなんだもん。気になるじゃん』」

「やれやれ……」

 手の焼ける子どもを持て余す、母親のようにヤツは大きな溜め息を吐いた。

「『ねぇったら、ヴィンセント、もし、セフィがさ……』」

「よしなさい、クラウド」

 ヴィンセントにしては、めずらしいような毅然とした物言いで遮った。

 オレ自身も、多少吃驚した。

「埒もないことを口にしてはいけない」

「『ヴィンセント……』」

「そんな問いかけはセフィロスに失礼だ……」

「『どうしてよ? 仮定の話だろ? もし、セフィがヴィンセントのこと……』」

「仮定であろうと無かろうと、そんなことはあるはずがない。私など、到底彼につり合わない。セフィロスが気を悪くする」

 真顔で宣うヴィンセント。

 クラウドぶりっこが、思わずいつもの口調に戻ってしまう。

 

「何なのだ……それは……」

「言葉通りだ、クラウド。あんなに優秀で……美しくて、強くて……慈悲深い人に、私のような罪深い人間がつり合うと思うのか……? クラウドは以前からずっと一緒にいて、私のそういう不出来な部分を知ってくれているから……側に居られるが……」

 スッと悲しげに視線を落とす。

「……おまえな、不出来な部分って……」

「愚図だし……頭も悪いし、言葉も上手くないし……銃は使えるが、力はないし……」

 コンプレックスの固まりのようなセリフを吐くヴィンセント。いつもからかい半分で、非道い言葉を投げかけていたが、相応に傷ついていたのだと知れる。

 

「……ヴィンセント」

「いずれ……セフィロスは目的の場所を見つけだしてしまうだろう……あの優れた人ならば……」

「…………」

「彼はきっとおまえのことを、連れていこうとすると思う」

 怯えた表情で、ヤツはオレを見つめた。『クラウド』だと思いこんでいるオレを、だ。

「……クラウドはとても綺麗だし、強いし、明るくて愛らしい。幼い頃のおまえを、セフィロスが愛した気持ちはよくわかる。

「……ヴィンセント……」

「あ、す、すまない……む、無神経な物の言い方をして…… い、今は、おまえが私を大切に想ってくれているのは、きちんとわかっているつもりだ」

「…………」

「差し伸べられた手を取るのは……セフィロスに応じるか否かはクラウド自身が決めることだ」

「『でも、ヴィンセントとは一緒だよ? どこに行っても。コスタデルソルでも、約束の地でも……』」

 クラウドぶりっこでそう言ってみると、ヤツは緩慢に頭を振った。泣き笑いのような表情でオレを見る。

 そうしている間に、兎のような紅い瞳からボロボロと涙がこぼれ落ちた。

「セフィロスは……きっとおまえを連れていこうとする……でも、私は……」

「……ヴィンセント?」

 昨日の続きの今日……『クラウド』だと思いこんでいる男を目の前にして、感情が高ぶっているのかもしれない。

「……彼が長い間探し求めていた場所を見つけたとしたら、きっとセフィロスは、そのことに夢中になるだろう。これから創世する世界のことに気をとらわれる……思念体の三人の青年たちと一緒に、新世界を指導していくに違いない……私など足手まといだ」

「おい、ヴィンセント……」

「三人の青年も……おまえも……強くて美しくて賢くて……陽の当たる場所に向かっていられる。でも私は……私は違う…… 私は軟弱で愚かで……醜い化け物で……」

 バタバタバタと大粒の涙が、シーツを濡らした。

「落ち着け、ヴィンセント……誰もおまえをそんな風に思っていやしない」

「……ありがとう……クラウド。でも、セフィロスは最後の最後まで私の側に居てくれたんだ。……変わり果てた姿も見られた。ヤズーやカダージュ……そしてかつて愛したおまえがいるのに、わざわざ私のような者を引き連れて行く必要などあるまい」

 震える指が口元を隠す。

 やはりカオスと融合した姿を見られたことは、こいつにとってショックだったのだろう。オレはそれを気味が悪いとも、おぞましいとも感じなかったのだが、本人がどう捉えたかは、また別問題だ。

 

「クラウド……ずっとおまえに手を引かれ、ようやく皆と一緒に、明るいところを歩けるようになった。ヤズーやカダージュ……ロッズ、こんな私に本当によくしてくれる。あんなふうに慕ってもらえることなど……想像だにしなかった」

 ヒックと大きくしゃくり上げた。

 シーツの端を手繰り寄せ、嗚咽をこらえるように口元に宛う。

「そしてセフィロス……大切なセフィロス…… もう二度と彼と離れたくはない……ようやく逢うことができたのに……!ずっと側に……居させて欲しいのに……!」

「……ヴィンセント」

「ただ……ただ近くで見ていられるだけで幸せだったのに……! 声を掛けてもらえるだけで満足だったのに……ッ! 離れたくない……! もう誰とも離ればなれになりたくない…… 怖い……怖いんだ、クラウド……!」

「……おい、泣くな」

 さすがに困惑して、カタカタと奮えるヤツの背を撫でてやった。

「……あ……すまない……つい……」

「気が立っているようだな。……大丈夫だ、落ち着け」

「……す、すまない……なんだか私の方が……あの一件が終わってから……少しおかしいようだ……」

「…………」

「……穏やかな日常が嘘のように思えて……こうしている間にも……不意にすべてが掻き消えてしまいそうで……」

 取り繕うようにヴィンセントはつぶやいた。

 やはりDGソルジャーどものあの一件……結局はオレたちすべてが巻き込まれた事件は、ヴィンセントに深い傷を負わせたのだろう。

 カオスと融合した事実も、肉体に埋め込まれたエンシェントマテリアも、自らを化け物と呼んでいたヴィンセントにとって、さらにその意識を強めてしまったのかもしれない。

 骨の浮いた薄い背……戦闘に赴いたコイツはなかなか強靱に見えたのに、やはり本質は争い事を好まぬ、穏やかな性質なのだろうと感じた。