〜 a life of dissipation 〜
〜コスタ・デル・ソル in ストライフ一家〜
<5>
 
 ヤズー
 

 

 

 

 

「ヤズー、どうだった!?」

「女神の具合は? 熱は計ったんだろう!?」

 キッチンに戻るなり、一挙にふたりに詰め寄られた。

 兄さんはともかく、ジェネシスがかなり深刻な表情をしている。

「えーと、うん。大丈夫だと……思うよ。ちょっとゴメン。飲み物持って行くから」

「おいおい、ヤズー。わざわざ様子を見に行ったんだろ? 部屋の中へは入れたのか?」

 ジェネシスは真剣だ。料理の準備をしてくれていたが、いつでも差し出せるように、氷と冷水、タオルの準備をしてくれている。

「あー、そうだね。冷たいタオルもあった方がいいかな。後、麦茶、もらってく。冷たいヤツね」

 なんとかごまかして準備をする。

 ……いや、ヴィンセント、彼ら相手に、黙っているのはやはりキツイよ……

「ヴィンセント、冷たい物飲むの?」

 兄さんが言った。

「う、うん。確かにちょっと熱っぽいみたいだからね。喉が渇いたって」

「やっぱ、熱高いんだ。ヴィンセント、普段は冷たい物飲まないもんね。温かいお茶とかばかりだし」

「う、うん、今は熱いものより、クールダウンできそうなもののほうが……」

「ヤズー、君、何か隠していないか? ヴィンセントのことだろう? 俺たちには話してくれよ」

 泣き出しそうな兄さんと、真剣そのもののジェネシスにかき口説かれ、早くも白旗を揚げてしまう俺だった。

 ヴィンセントの名誉のためにも、茶化した物言いでごまかすのは、返って面倒になりそうだったから。

「あー、ええとね。まずはヴィンセントにこれ持っていくから。御飯の後……カダたちがいなくなってから話すから。今はそっとしておいて」

 ……ヴィンセント、ごめん。

 俺はやれやれと心の中で謝罪したのだった。

 

 

 

 

 

 

 そして食後。

「……言って置くけど、兄さんが悪いんだからね!」

 呆然としている三人を眺め回し、俺は突っ慳貪な口調でそう言った。

「プッ……ブハハハハハッ! ハハハハッ! あいつ……あいつ、面白れェ! なんか、いきなり突飛なことしやがる。ああ、飽きない男だッ! ギャッハッハッ!」

「セフィロス、うるさい。ヴィンセントに聞こえちゃうでしょ。……まぁ、そういうわけだから、しばらくそっとしておこう。薬の効果が切れるまでは俺が面倒見るから」

 ほぅとため息を吐き出し、俺はそう言った。

「……そんなに強烈に効いたの?」

 疑いの眼で兄さんが言う。自分も飲んでみて、効果らしい効果がなかったので、半信半疑なのだろう。

「うん、可哀想なほど。ちょっと腕に触れただけで、ヘタヘタって座り込んじゃってさ」

「……すまない、ちょっと失敬」

 ジェネシスがゆらゆらと立ち上がり、窓辺に行く。たぶん、風に当たりに。……わずかに前屈みで。

「兄さんは何ともなかったのにね。ヴィンセントに渡したヤツって、本当に兄さんが飲んだのと同じヤツ?」

「え……た、たぶん。だって同じ場所に置いてあったんだよ。サンプル品っぽくさァ」

「確かにパッケージとかは似てたけど……配色が違ったような気がする」

「そ、そこまでは気づかなかったけど…… じゃあ、いずれにせよ、病気とかそういったことじゃないんだな」

 やはり兄さんとしては、そこが一番重要なポイントだったのだろう。繰り返し、念を押した。

「うん、それは大丈夫だよ。とにかく、あのサプリメントの効果が、かなり強く出ているだけ」

「……どんな様子だった?」

「だから言ってるじゃない。顔真っ赤で目なんか潤んじゃって。俺は別に変な気で部屋に入ったわけじゃなかったけど、あの姿は不意打ちだったなァ。ジェネシスじゃないけど、ドキドキしちゃった」

 ちょっと冗談めかしてそう言った。とりあえず、皆に打ち明けられてホッとしたから。

「まー、ほら、男同士なんだからさ。けっこう軽口叩いたんだけどさ。そんなつらいなら抜いちゃえばとか言ったんだけど、眉間にしわ寄せて我慢してるんだよね〜。あそこまでいくとマゾっ気があるのかなと思っちゃうよ」

「は? あいつはモロそのタイプだろ。ドMなんじゃないのか?」

 と、どぎつい表現で割って入るセフィロス。

「……本人に自覚はないけど、確かにそっち系だね」

「ヤズー……もうちょっと…… 俺の方がヤバイ。ポカリもらうから……冷えてるヤツ。頭冷やさないと……」

「氷も入れたら? 兄さんはホント直情型だよね。今、つらいのはヴィンセントだよ。もう二度と変なサプリなんか持って帰ってこないでよね」

 よろよろとポカリスウェットのボトルを持ち出す兄さんに、少々強い口調で言ってやった。

「う〜、わかってるってば。でもまさかヴィンセントが飲んじゃうとはね……」

「ああ、でも、その好奇心が可愛らしいじゃないか。俺としては逡巡する姿を想像しただけで…… ああ、めまいが……」

「ジェネシス……うざいんだけど。アンタもポカリ飲む?」

 そういうと兄さんは、ジェネシスが返事をする前に、大量の氷を投入したアルカリイオン飲料をどんと突き出してやったのだ……

 

「じゃあさ〜、今のヴィンセントって、ホントにアレ? CMでやってたような昼は淑女、夜は……ってヤツ?」

 真っ赤な顔をして兄さんが訊ねてくる。コーフンするなっていうの!

 サプリメント飲んだときは何ともなかったクセに、今のヴィンセントの状態を想像して興奮しているのだ。……単純な人。

「ちょっとよしてよ。ヴィンセントはそういうキャラじゃないでしょ」

「そ、そうだけど、今はフツーの状態じゃないんだろ? ヤリたくて仕方がないわけじゃん。少なくとも身体は」

「……あくまでも身体の問題だね。彼の心はそんなつもりはこれっぽちもないと思うけど」

「ってことは、ここは俺の出番じゃね? だって、恋人なんだもん」

「兄さん、人の話聞いてた? ヴィンセント本人の意志は、自慰行為すらも忌避するような状態なんだよ? まさかこんなときに兄さんの相手をするとは思えないけど」

 俺はせいぜい冷ややかにそう言ってやった。

 そりゃ、なりゆきとか雰囲気でそうなるならともかく、無理強いは好ましくない。そしてこの兄さんという人は、恋人同士なら何をしてもいいと勘違いしているところがあるのだ。

「だって、別に俺とならいいじゃん。浮気とかじゃないし、あっちも慣れてるわけだし」

「……どうして、そうロコツなのかなァ、あなたは」

「まったくだ、おまえはそんなにデリカシーのない子だったっけ!?」

 めずらしくも非難口調でジェネシスが言った。

「ジェネシス、うっさい」

「今、女神はひとりで耐えて居るんだぞ!? 自称恋人なら、こんなときこそ平静を装って距離を取らないか!」

「自称ってなんだよ! 言って置くけどね、俺は自称なんかじゃなくって……」

「あ〜……もう、ふたりともいい加減にして。ジェネシスもいつもみたいに涼しい顔しててよ。兄さんと同レベルで言い争うなんて、あなたらしくもない」

 むしろ兄さんに失礼な物言いではあったが、彼は別につっこんでこなかった。目下、意識が完全に恋人のところにすっ飛んでいるのだろう。

「さぁ、そろそろ俺たちも休もう。湯冷めしちゃうよ。ジェネシスはサンルームのベッド使ってね」

「あ、ああ、ありがとう。……本当に女神は大丈夫なのかい? 医者に行けば鎮静剤のようなものを打ってくれるんじゃ……」

「もうこんな時間だしね。ヴィンセントの性格的に、事情を話すのは清水の舞台から飛び降りるくらいの……っていうか、もう切腹して果てたいくらいの勢いだろうからね。病気じゃないんだし、収まるのを待った方が精神衛生上いいでしょ」

「まぁ……確かに。だが気の毒に」

 紳士のジェネシスが眉をひそめる。

「ったくおまえらは大げさなんだよ。別にビョーキだのなんだのって話じゃねーんだし、時間が経てば元に戻るんだぞ?」

 ドカドカとセフィロスが彼らを押しのけて扉に向かう。そろそろ好い時間だし、彼ももう休むつもりなのだろう。

「あー、アホらしい。だがイジメのネタができたな。ったく間抜けな野郎だ。クックックッ」

「ちょっと……セフィロス。あんまりひどいこと言わないでよ。本人も大分後悔してるみたいだからね。バカにしたらきっと泣いちゃうよ」

「あいつはいつでもベソベソやってんだろ。ふぁ〜、じゃあ俺はもう行く」

「ハイハイ、おやすみ」

 そういってセフィロスを送り出し、兄さんたちもそれぞれ部屋に引き取っていった。