〜 ディシディア ファイナルファンタジー 〜
 
<48>
 
 セフィロス
 

 

 

 

 

「セ〜フィッ! なにしてんの?」

 背後から声を掛けられた。

 こ奴が行動を共にするようになってから、まだ一週も経っていないのに、馴れ馴れしく近寄ってくる。

 ラグナ・レウァールという、年長の男だ。

「もうすぐ晩ご飯の時間だよ〜!」

「…………」

「セフィも夕方まで寝てたんだから、お腹空いてるでしょ? メニューは消化の良いシチューだって!」

「……何の用だ、ラグナ・レウァール」

 ひとつため息を吐き出し、一方的に話しかけてくる男に言葉を返した。

「なんだよ、用事がなくちゃ、来ちゃいけないの?」

 わざとらしいむくれ顔で、不服そうに言う。

「……用件がないのならば、息子の側にでも着いていればよいのではないか」

「え〜、スコールってば、可愛いのは寝顔だけだもん〜。もう、目ェ覚ましちゃったからさァ。憎まれ口しか叩かねェよ」

「…………」

「それに比べてセフィはさァ〜、寝顔も綺麗だし、起きているときの、無愛想なカンジも萌えなんだよね〜」

 両腕で自身を抱きしめ、ひとりで身もだえしている。

 『実は俺、大統領なんだよ!』などと、ふざけたことを言っていたが、こんな醜態を見せられては信用のしようがないというものだ。

「ひとりで踊っていろ。……どけ」

 コートを引っかけ、腰に長刀を携える。

「ちょ、ちょっとセフィ! 何してんの? まさか今から出かけようってんじゃないだろうね?」

「……貴様には関係ない」

 奴の顔も見ずにそう告げた。

 だが、その程度で怯むラグナではない。

「関係あるよ。仲間でしょ? それに俺、セフィのこと好きだし」

「……仲間ではない。私はカオス側の人間だ」

 『好き』と言う部分は完全に無視して言い返した。

「どっち側とか、もうどうでもいいじゃん。なにより、この世界のからくりを解くって、みんなで決めたんだから」

 そうだ。

 カオス側がどうのというこだわりはとうにない。ラグナのいうとおり、異世界の謎解きをせぬまま、何者かに操られて刀を振るのは不愉快だ。

 

 

 

 

 

 

「そうだ。理由も知られず、他者の意のまま動かされるのは本意ではない」

 私は答えた。

「でしょ? だから、みんなで力を合わせて……」

「……調べ事は、ひとりででもできる」

 素っ気なく返すと、戸口のところで頑張っていたラグナは、ズンズンと室内に入ってきた。

「セフィ! まさか、今からひとりで出て行こうとしてたのッ?」

「…………」

「何考えてんだよ! キミは今、大けがしてんだよ!? フツーの人より強いのは知ってるけど、まだ傷口もふさがっていないのに!」

「……貴様の息子ほど、重篤ではない」

 静かにそう返した。

 スコール・レオンハートは相当な深傷だ。貫通した肩の傷口、袈裟懸けにされた肩から背。大腿部の出血も相当だろう。

 いかに若い肉体とはいえ、本復するのに相応の時間はかかる。

 

「……目的は、おまえたちのいうとおり、この世界の謎解きだ」

「だから! だったら、俺たちと一緒のほうが、頭数だけでも有利で安全だし……」

 ラグナの言葉を遮って続けた。

「ここを離れたからといって、私は貴様らを襲うはない。……クラウドのことも、ひとまずは置いておく」

「セフィ! ちょっ…… ちょっと、待ってって! こ、こうなったら、力づくでも……」

 いつものマシンガンは持っていないが、小銃は携帯している。

 それを抜こうと、奴は手を腰元に動かした。私はそれをただ眺めていた。

「………………」

「ダ、ダメだ! 俺はセフィに武器なんて向けられねェェェェェ!」

 ラグナは乱暴に頭を引っかき回し、その場に蹲った。

「……別に素手でもかまわぬが。こちらも貴様相手に抜こうとは思っておらん」

 侮蔑を孕んだ嫌みをぶつけたつもりだったが、ラグナは言葉通りに受け取ったらしかった。

「わかってるよ。セフィが俺に刀なんて向けるはずがないもんね」

「……幸福な男だな」

 その言葉も真意が伝わらなかったのか、『よく言われる』などと返してきた。

 

「どけ、ラグナ」

 問答をするのが面倒になって、私は端的に告げた。

「……退いたら、セフィ、出て行っちゃうだろ」

「しつこい男だ」

 ゆるゆると歩きながら、つぶやく。

 瀟洒な窓辺に近づき、夜風を招き入れる。それはひんやりと乾いていて、火照った肌を冷ましてくれた。

 奴は絶対に扉から動かないというように、仁王立ちで踏ん張っている。

 

 ……騒々しく、鬱陶しい男だと思うが……

 悪くない気分でいる己が可笑しかった。

 

 広げた窓から、身を踊らせる。

 ぞうきんを引き裂いたような悲鳴が響いてきた。ラグナだ。

 ここが三階だからだろう。

 

 翼を広げ、夜闇に溶け込む。

 窓枠にしがみついて叫び続けるラグナの姿も、しばらくして見えなくなった。