〜 ディシディア ファイナルファンタジー 〜
 
<29>
 
 スコール・レオンハート
 

 

 

 

「クラウド、おまえが今、本当に21才の時点であるのなら、『昨日までの記憶』が、コスタ・デル・ソルでのなんとやらにはならぬはずだ」

 セフィロスに話しかけられて、クラウドは少し驚いたようだ。ずっと目を合わしてさえいないふたりであったから。

 声を掛けてもらったのは嬉しかったのだろう。ポッと頬を上気させはしたが、セフィロスの言葉を正確に理解するのは難しい様子であった。

「え……え……? 何なの? 俺、よくわかんない……」

「頭を使え。おまえの口にする、昨夜までの記憶とやらは、私はまったくあずかり知らぬことだ。そして、私の言葉に対し、おまえは、それはすでに過去のことで、もう済んだ話という」

「そ、そうだよ。セフィ、俺に悪かったなって言ってくれたよ? 可哀想なことをしたって」

 クラウドの物言いに、セフィロスが眉をひそめる。

 不快そうな面持ちで何か言い返そうとする彼であったが、俺は慌ててふたりの間を割って入った。

 クラウドをこれ以上傷つけたくなかったし、今は口論している場合ではないのだ。

 『記憶』

 『記憶』……それこそが、キーワードなのである。

 

「ということはだ、クラウド」

 セフィロスの謎の解明の先を引き取るように、俺は言葉を続けた。

 きっとセフィロスが指摘しようと考えていた内容を、極力わかりやすく説明する。

「ここにいるおまえが、『本当に21才のおまえ』なら、コスタ・デル・ソルでの記憶はもっていない。だが、それを有していると言うことは、もっと未来の時点でのおまえなんだ。26才になった俺と出会い、セフィロスと和解し、ヴィンセントさんという人を好きになった、その時点でのおまえなんだ」

「……そ、それこそ、おかしいじゃん!セフィロスは俺と同じ世界の人なんだから! なんでそんなふうにズレがあるの? やっぱりセフィが昨日までの記憶を忘れちゃってるんだよ!」

 クラウドは叫んだ。それは決してセフィロスを非難するようなものいいではなかった。

「いや、クラウド…… もし、そうでないとしたら?」

「何いってんの、スコール。アンタもセフィの記憶を呼び覚ますために、協力してくれただろ?」

「昨日までは、俺も同じように思っていた。だが、今は少し違うような気がする。セフィロスは……彼は、やっぱり、おまえが21才の時点での『セフィロス』なんだ」

 俺はやや強い口調でそう言いきった。

「どうして? おかしいよ! だったら、時間軸が……」

「……おかしいのは、この世界であり、この戦いだ」

 しんと静まりかえった間隙の後、

「……私もそう思う」

 と、抑揚のない声が続いた。セフィロスであった。

「セフィロスさんが、そういうなら、やっぱこの世界っておかしいんスね!」

 力強くいうティーダに、セフィロスは冷ややかな眼差しで応えると、目線を俺に向け、口を開いた。

「……そもそも、秩序の神と混沌の神の戦とは何なのだ? 単純にどちらかが勝利すればそれで終了というものなのか?」

「それに何を持って勝利というのか……」

 彼の言葉に応じるように、疑問符がおのれの口から出た。

「いや、そりゃ、あれだろ、スコール? 神様同士で直に闘っているわけじゃないから、それぞれの戦士で戦闘して、生き残った方が勝ちなんじゃないのか? そのためにクリスタルを集めて……」

 ジタンが慌ててそう言った。

 コスモスの戦士とカオスの戦士として、双方の神のために闘うという大前提を覆されては、俺たちの存在意義がなくなってしまうというように。

「それで生き残った戦士が、相手方の神を倒して……? 神など『倒せる』ものなのか? クリスタルとやらを集めえすれば、自動的に勝負がつくのか?」

 ジタンに言い返したわけではなかったが、彼は困惑した面持ちで、言葉を拾った。

「そ、そりゃ……その辺はよくわかんないけど…… でも、コスモスが言ってただろ。クリスタルを集めることが、世界を救うことにつながるって」

「この世界でのクリスタルとは何なのだろうな。ただ集めるだけで、神という存在をも消し去るとは……どうしても思えない。そもそもカオスもコスモスも不死の存在ではなかろうか。生身の人間とは異なり、『神』という概念は……」

 いずれの世界においても、俺は魔女アルティミシアを倒すことに異論はない。

 だが、この問はさらに根本的なものだ。

 

 奇妙な沈黙が、空間を満たす。

 座り心地の悪い椅子に、無理やり着席させられ、なにもわからぬままに時を過ごしている……そんな感覚だ。

 だが、ずっとこうしていても致し方がない。

 いずれにせよ、この根本的な問題を解決するには、コスモスかカオスに訊ねる他はあるまい。

「なぁ、皆……」

 そう提案しようと声を発した瞬間。

 

  バァンと音を立てて、玄関扉が開かれたのであった。

「あー、やっぱ、人の声!仲間、見っけ〜! 俺サマの耳最強! 視力も2.0〜ッ!」

 咄嗟に武器を構えた俺たちであったが、あまりにも脳天気な大声に出鼻を挫かれた形となった。

「ほらほら、ティファちゃん、ライトニングくん、人が一杯いるよ〜! やさしそうなお兄さんたちだよ〜! 俺には負けるけど」

 黒髪を肩に掛かるほどに伸ばした男が、気色の悪い声音で仲間を呼んだ。

「おい、ラグナ。そう大声で名を呼ぶな。どこに敵が潜んでいるのやもしれぬのだぞ!」

「まぁまぁ、ライト。よかった、これでちょっと休めそう」

 ふたりの女性が、ラグナと呼ばれた男の後ろからやってきた。

 ……コスモスの戦士なのだろうか。だが、初対面だ。

 他の皆もそうなのだろう。武器を置きはしたが、警戒を解いた様子ではない。唯一、セフィロスだけはまったく反応しようとしなかった。

「あ、ども〜、ちょっと休ませて欲しいんだけど。あ、腹も減ってるしィ」

 『ラグナ』はズカズカと中へ入ってくる。

「おい、ちょっと待ってくれ…… アンタ……」

「おおぉぉぉぉッ! お、おまえは!! スコ〜ル〜! 我が最愛の息子よ! 逢いたかったぁ!!」

 

 ……いったい、何が起こっているのだろう。

 俺は初対面の黒髪の男に抱きしめられ、その勢いのまま、ソファに倒れ込むことになったのだ。