〜 ディシディア ファイナルファンタジー 〜
 
<28>
 
 スコール・レオンハート
 

 

 

 

「……セフィロス、アンタはこれからどうするつもりなんだ」

 間抜けにも俺はそう訊ねた。

「さぁ……私は囚われの身なのだろう? すでに用がなければ、帰りたいのだが」

「か、帰るってどこへ……? カオスの人たちのところ? それともまたひとりで誰も知らない場所へ行くの?」

 おずおずとクラウドが訊ねる。

「……先にも言っただろう。おまえには関係ない」

「か、関係なくないよ! セフィ、話聞いてよ。俺にはもう、アンタと命がけで闘う理由がないんだよっ!」

 興奮して昨夜と同じ遣り取りをくり返すクラウドだ。気持ちはわかるが、俺はその肩を引き戻した。

「クラウド……セフィロスには記憶がないんだ。おまえの気持ちはわかるが……」

「もうッ! 記憶記憶って…… そういうんなら、俺はつい最近までのことを覚えているんだから! 今はヴィンセントも居て、みんなで一緒に暮らしているんだよ! いくらこの世界でのセフィロスだって言われても、俺……」

 いっきに捲し立てるクラウドだが、そのときお調子者のティーダが、彼にしてはずいぶんと落ち着いた口調で疑問を呈した。

「……そう……なんだよな。問題はその『記憶』なんスよ。どうもクラウドとセフィロスさんを見ていると引っかかるんだよな」

「なんだよ、ティーダ。今さら……」

 ジタンが口を挟むが、彼はさらにブツブツと続けた。

「オレはちゃんとユウナのこと……覚えてる。つまり、生活していたザナルカンドでの記憶と、ユウナたちに出逢った後の記憶はある」

「それって、つい最近までの記憶なのかい、ティーダ?」

 そう問い返したのはセシルであった。

 その一言で、騒々しい野郎だらけの居間が、シンと静まりかえった。

 

 

 

 

 

 

「……それはもちろん! って、いや……その……」

 勢いよく頷き返したティーダが口ごもる。

 皆それぞれに自身の記憶を辿っているのだろう。俺だとて、おのれのことをわかっているつもりだが、それは『どの時点での』俺のことなのだろうか。

 クラウドのことを心配しつつ、これまで自身の記憶は揺らぎ無いものだと考えていた。

 だが、それは……

「……その……どう……なんだろ。オレ、よくよく考えてみると、ちゃんと覚えてはいるつもりだけど……ユウナと出逢って、ブリッツの大会に参加して……それから……」

「やれやれ、仕方ないな、ティーダ。その点、俺はちゃんと覚えてるぜ! 劇場艇プリマビスタが不時着しちまって、霧の大陸から氷の洞窟を抜け……」

 鼻高々といった調子で述べたジタンだったが、途中で言葉に詰まる。

「……ええと、それから……そのとき、一緒だったのは、ガーネットだろ、ビビだろ……」

「なんだよ、ジタンだって曖昧じゃんか!」

 即座にティーダが突っ込む。

「いや、ここに来たばっかりの時は覚えていたんだってば! あ、あれ、おかしいな? トレノに行ったのは……?」

 ジタンの不安そうな顔に、ふたたび場が静まる。

 居心地の悪い雰囲気に、セフィロスが嫌みのひとつでも言ってくるかと思ったが、黙ったままであった。

 その薄い氷色の瞳は、どこか遠くを眺めている風情で、何か考え事をしているらしかった。

 反射的に、

『どうした、ぼんやりして?』

 と声を掛けたくなるが、ここは我慢だ。思索している状態の彼に、他意なく呼びかければ、きっと彼は俺を無神経と罵るだろう。

 昨夜の対話で、ずいぶん笑われもしたが、『無神経』とも『鈍感』とも言われた。

 未成年としては、年長者の言葉に耳を傾けねばならない。

 ……念のため、この場合、クラウドだけは『年長者』のくくりには入れないことにしている。

 

「記憶……ね。確かに、おかしな感じだね。クラウドはつい最近までの記憶があるって言っていたけど、僕のもつ記憶は、『僕の人生の、いつの時点』のものなのだろうか?」

 セシルの慎重な声が、波紋を描いて空間に広がる。

 不安の波紋はどんどん大きく円を描き、ここにいるすべての人間を飲み込んでいくようだ。

 

『いつの時点?』

 ここに呼ばれた、前日までの時点ではないのか?

 いや……いや、違う。

 最初、クラウドと出逢ったとき、俺を含め、他の皆も自分の記憶が不鮮明だったではないか。だからこそ、まさに前日までの出来事を、口にできるクラウドに驚きを隠せなかったのだ。

 クラウドは言っていた。26才になった俺と出会ったと。

 

『つまりさ。この場所に居る俺は、これまでの人生の『現段階での自分』じゃないってことだ。……みんなのことはよくわからないけどね』

 

 セフィロスの記憶に合わせるのなら、今、自分は21才時点のクラウドだとも。

 

「……ダメだ。頭がこんがらがってきた」

 セフィロスが居ることも忘れて、道化のようにひとりつぶやいた。

「『記憶』がキーワードなんだ。…クラウド、お前、言っていたよな」

 だが、細い糸をたぐり寄せなければならない。俺は思いついたままをしゃべりつづけることにした。

「え、な、なに……?」

 いきなり名指しされたのに、驚いたのだろうか。オドオドとこちらを見る。

「初めて俺に逢ったとき、『レオン』と」

「そ、そうだよ。だって俺、自分の世界でアンタと出逢っているんだもん。アンタが今現在生活しているホロウバスティオンにも行ったしさ」

「そう……そして、俺たちの食い違いに言及したとき、この時点での自分は21才みたいだと。セフィロスの記憶がないことと、自分の服装からそう結論づけた」

「うん……これ、神羅のソルジャーの戦闘服なんだ。だから、そうなのかもって……」

「……嫌な感じがするな」

 ぼそりとつぶやいたのは、今や客人という有様のセフィロスであった。自然、彼が発言すると、皆が注目する。

「……非常に不快だ。妙に居心地の悪い気分になる」

「ええ、セフィロスさん。僕もそう思います」

 年長者には敬語を使うセシルである。女性と見紛うまでに美しく整った彼の顔も曇った。