〜 ディシディア ファイナルファンタジー 〜
 
<24>
 
 スコール・レオンハート
 

 

 

 

「……では続けさせていただく」

「好きなように」

 セフィロスが相変わらずだらしない格好で、横になりながら俺を促した。こちらを眺めもしない。

 ゴホンとひとつ咳払いをして、俺は口を開いた。

「その……幼年期はどのような生活をしていたか……記憶はないのか? 側に居た人とか……」

「……幼年期…… 子供の頃……か。 まぁ、あの頃はおのれの呪われた出生など、なにも知らなかったからな。それなりに平穏だったのだろうがな」

「……そ、そうか……」

「……クククッ、なんて顔をしている」

 話の途中で俺をちらりと見ると、さもおかしそうに低く笑った。

「別におまえがそんな顔をする必要はなかろう……」

「いや……その……」

「……私は神羅で育ったのだが……母親らしき女はよく覚えていない。職場に出入りしていた記憶はあるのだが」

 ……俺がそう信じたかっただけなのかもしれないが…… セフィロスは思いの外、この作戦に積極的に参加してくれているのではなかろうかと感じた。

 もちろん、本人も失われた記憶を思い出したいという希望があったのだろうが…… 

 彼はこちらの問いかけに、それなりに真剣に答えてくれているように見えた。

 物言いはゆっくりだし、どこか半覚醒のようにも感じられるのだが、深い記憶の淵から、少しずつ、その断片を掬い出そうとしているように思えたのだ。

「……そう……女ではなく、男が…… 私の側にいたな…… 黒い服を着た……長身の……大人しやかな人物だった。低く優しい声で、静かに話をしてくれて……」

 セフィロスは双眸を綴じ合わせ、ほんの少し笑った。

 さきほどまでの皮肉をはらんだ微笑ではなく。

「セ、セフィ…… そ、それ、ヴィンセント……! ヴィンセントなんじゃないかな……?」

 ずっと黙って身を縮こまらせていたクラウドが、急いた様子でそう言った。

 『ヴィンセント』

 今のクラウドの恋人という人物だ。

 ……だが、セフィロスの幼年期の頃の話なのだから、年齢が合わないのでは無かろうか。

「……何の話だ?」

 思考を遮られたのが不快だったのか、セフィロスは冷ややかな声で、クラウドに問い返した。

「ほ、ほら、言ったじゃん。今、セフィは俺とヴィンセントと……他にもいるけど……一緒に暮らしてるんだよ? ヴィンセントは俺の恋人なんだけど……それでも、いつでもセフィにやさしくて……心配してる」

「……フ……バカバカしい」

 鼻で笑うと、セフィロスはくだらなそうに言い返した。

「おまえの恋人……? さきほど、おまえは、私の幼年期に側にいたのがその男ではないかと言ったな? どれほどの年齢差があると思っているのだ」

 セフィロスの指摘は、俺もさもあろうと頷きたい内容だった。

「そ、それは……その……じ、事情があるんだよ。ヴィンセントは…… ヴィンセントの身体は……」

「クラウド? どういう……」

 俺が再度、問い返そうとしたとき、セフィロスの冷たい言葉がそれを遮った。

「もし、その男が私の幼年期に出逢った輩だとして…… そいつが今、おまえの側にいるというのなら、ただのバケモノだろう」

「…………!」

「人間じゃない。この私と同類の化生なのか? ククッ」

 セフィロスの心ない一言に、クラウドがガタッと音を立てて、身を起こした。

「この……ッ!」

「よせ、クラウド」

 掴み掛かろうとするクラウドを、背後から引き留めた。

「アンタは……アンタは……! ヴィンセントになんてこというんだよ! あ、あんなにアンタのことを想っているのに……!」

「落ち着け、クラウド。セフィロスには記憶がないんだ」

「そ、そうだけど…… でも……」

 ぐしゃっと顔を歪め、今にも泣き出しそうになるクラウド。彼にとって、ヴィンセントという人物は聖域らしい。

「でも…… あんまりだよ……なんだよ、このセフィは…… うちにいたセフィとは別人だとしか思えない。……ヴィンセントにあんなこと……あんなこと……!!」

「相変わらず泣き虫だな、クラウド」

 そういったセフィロスの声には、からかいの色が含まれていた。

 

 

 

 

 

 

「そう……そして、私は神羅で成長し……ソルジャーとなり…… この子が入社してきたんだ」

「クラウドが入社したときに、アンタはもうクラス1stとやらになっていたのか」

「当然だ。私は最初から所属クラスが1stだった。すでに十代のころにはカンパニーのソルジャーだった」

「…………」

 そこにセフィロス本人の意志はなかったように感じられた。

 親の記憶がなくて、幼い頃から神羅カンパニーとやらで育てられたセフィロスには、選択の術はなかったのだろう。

 それに、この並外れた戦闘能力、身体能力。

 ともなれば、その組織で軍人の頂点に立つ……というのは、必然的な結末だったのだろう。

 

「……クラウドが入社して、互いに知り合い…… その……交際を始めたと……」

「『交際』ね。よほど固い言い回しが好みのようだな」

 セフィロスはそんなふうに俺を茶化した。

「すまんな。言葉が得手ではなくて」

「よいのではないか、おまえらしい。……クラウドとの『交際』はそれなりに長く続いた。あの日……ニブルヘイムでその子に殺されるまでは」

 何の抑揚もなくそう言われ、うっかりと聞き流すところであった。

「なに……?」

「そうだろう? フフッ」

「……セ、セフィ…… だって……それは……俺……」

「ああ、そうだな。おまえには道理がある。別に今さら、恨み言を言おうとは思っていない」

「そんな……言い方…… 俺だって……あんなこと……」

「クラウド、いいから落ち着け。……今はセフィロスの記憶を辿る作業を行っているだけだ。いちいち動揺するな」

 俺は敢えて事務的にそう言った。