〜 ディシディア ファイナルファンタジー 〜
 
<8>
 
 スコール・レオンハート
 

 

 

 

 

 

 ……それから数日……

 いや。こちらの時間でいうところの数日、だ。

 ときおり、コスモスからの呼びかけを感じたこともあったが、まだ時間はあるらしい。

 我らの目の前には、様々な『影』が現れた。それは俺の天敵である魔女……アルティミシアであったり、ジタンの敵、クジャ。ティーダの親父だという、ジェクトなども現れた。

 雑魚モンスターなんぞに比べれば、それなりに手応えはあるが、所詮は『影』。本体の力はこんなものではないはずだ。

 俺たちはそれらを順調に切り抜けて進んだが、クラウドを締め上げた『セフィロス』という人物の『影』はまだ一度も現れていない。

 クラウド本人は、それを不思議に感じながらも、心のどこかで安堵している様子が見て取れる。俺たちと違って、現在から過去へ時を移し、この世界に呼ばれてしまったクラウド。

 彼はおそらく……いや、ほぼ間違いなく、『セフィロス』とは闘いたくないのだ。

 多くは語らないが、元の世界において、彼の中でのセフィロスへのわだかまりは、消えつつあるのだろう。それにも関わらず、ふたたびこのような形で相対するのは苦痛に違いない。

 クラウドの気持ちはよくわかる。

 ようやく氷解した憎しみや悲しみを、今、ふたたび思い出せと命じられているようなものなのだから……

 

 今日もいくつかの影を倒しはしたが、本命のカオス陣営の輩は、ひとりとして姿を現しはしなかった。

 

 

 

 

 

 

「……なんかさ、じれったいよねェ〜……」

 となりのベッドで休んでいるクラウドが、ひどく不満そうにつぶやいた。身じろぎしているのか、ギシギシと古びた寝台が鳴いた。

「……気持ちはわかるがな。焦っても致し方がなかろう」

「スコールって相変わらずだ。っつーか、俺の知っているヤツの基盤がアンタだもんな」

「ふふ、面白い言い方をする」

「話戻すけどさ。……なんか先が見えないのって、ストレスにならない? カオスの影みたいな連中はずいぶん倒したけど、本物は出てこないね」

 心に巣喰った不安を押し隠すように、クラウドがつぶやいた。 

「…………」

「思うんだけどさ……」

 クラウドは多少思案深げな声を出した。あくまでも『多少』だが。

「……? なんだ」

「クリスタルのことなんだけど……」

「ああ」

「たぶん……カオス側に自分と関わりの深い相手がいるじゃない? ティーダやジタンたちの話を聞いても、みんなそれぞれに対応する相手がいるよね?」

「そうだな……」

「だから、ヤツらを何らかの方法で倒せば……手に入るのかもね」

 クラウドはため息まじりにつぶやいた。

「もちろん、自分の因縁の相手を自分の手で……さ」

「……俺もそう思う。いや、むしろそうでなくとも、俺は俺の敵を必ずこの手で仕留める。……あの魔女だけは逃がすわけにはいかない」

 俺は常から考えていることをハッキリと口にした。

「そっか…… スコールは自分の世界でも、そのために闘っているって言ってたモンね」

「……ああ、あ、いや……その……すまん」

「どうしたの?」

「いや……無神経な言い方をした。悪かった」

 クラウドの事情を知っていながら、断定的な物言いをするのは好ましくないと感じたからだ。だが謝罪してから、さらに気づいた。口にしてしまってから謝る方が、さらに印象を強めてしまうばかりだということに。

「……スコール、やさしい」

 そんなふうに言って彼はクスッと笑った。隣接した寝台だから、息づかいも聞こえる。

「別にそんなことはないが……ただ……」

「ただ……?」

「おまえは他の連中と事情が違うからな。せっかく元の世界で、良好な関係を築きつつあった相手に、こんな形で……」

「ん……」

 こんなことは言うべきではないのかもしれない。

 俺たちの目的はクリスタルを手に入れることなのだ。そして、おそらくそのためには、我々に相対する因縁の相手を倒さなければならない。

 だが、彼は……

「……クラウド」

「なぁに?」

「その……もし、セフィロスと会ったら……」

「あ、うん、わかってる。ちゃんと闘う。そうしなきゃ」

 きっと、俺に諭されると思ったのだろう。彼は覆い被せるようにそう告げてきた。

「いや……そうじゃないんだ。おまえの納得いかない気持ちはよくわかる。だから、なにも無理に闘わなくても……」

「レオン……いや、スコール。本気で言っているの?」

 クラウドは、寝台の上で、コロリと寝返りを打って、そう問い返した。

「俺がおまえの立場なら…… 俺なら闘うと思う」

「えー、別に、俺だっていざとなりゃさぁ〜」

「違うんだ。そうできるのは……俺が人と関わるのが苦手な……冷たい人間だからだ。そもそも自分が、一度敵となったヤツを許容できるとは思えない」

 静かに、ゆっくりとした口調で、俺は言った。