〜 ディシディア ファイナルファンタジー 〜
 
<5>
 
 スコール=レオンハート
 

 

 

 

 

 

「いや……わざわざ礼を言われるようなことではない」

 俺はすぐにそう応えた。実際そのとおりに思っていたから。

「ううん。だって俺のこと助けるの、すごく危険だったはずだもん。あのセフィロスが相手だったんだから……」

「…………」 

 間一髪のところで、救い出すことができた。

 いや……むしろ、あの銀髪の男は、もともとクラウドをあの場で殺すつもりなどなかったのだと思う。

 ガンブレードで威嚇射撃し、彼が振り向いたその瞬間……目が合った。

 凍てつく湖面のような……薄い青の瞳。細い鼻梁と雪のような肌の色が、よりいっそう、その人物を彫像のごとく見せた。

 力を失ったクラウドの身体を抱き寄せ、即座にセフィロスの側から逃げようと跳躍した時、彼は笑ったのだ。形のいい口唇を、にいっと三日月型にゆがめて嘲笑した。

 肌の色のせいだろうか。紅を指しているわけでもないのに、そのときだけ彼の唇が禍々しい朱色に染まったように見えたのだった。

「スコール……?」

「あ、ああ……」

 黙り込んだ俺を不審に感じたのか、クラウドが不安げにこちらをのぞき込んでいた。

「ああ、いや……なんでもない」

「……本当? 怪我とかないの? それともセフィに何か言われた?」

「いや、まさか……言葉を交わす状況じゃなかった。『セフィ』というのか、彼は?」

 俺はクラウドに訊ね返した。

「あ、うん。『セフィロス』っていうの」

「セフィロス……」

「昔ね……っていうか、21才の俺なら、今現在になるんだな。セフィロスを倒すために、仲間と旅をしてたんだよ。でも、その後いろいろあって……」

「いろいろあって?」

「うーん、説明するのは難しいんだけど、今は敵対する関係じゃなくなってる……と思う」

「…………」

「でも、それは現在から見れば、未来の話だよね。さっき、俺を殺そうとしたセフィロスは、敵だった頃のヤツなんだ…… ああ、ややこしい!」

 クラウドはつらそうなため息を吐いた。

 

 

 

 

 

 

「……その人が、君の知り合いなんだってことはわかったよ。近い将来には、和解できる予定の相手だということも。でもさ、クラウド。この不可思議な世界にいるセフィロスさんは、まだ君を敵視している頃の彼なんだ。情を掛けてしまっては君の方が危ないよ?」

 クラウドより年下のセシルが、穏やかに言い聞かせた。

「うん……そうだよね。わかってる」

「僕もね……カオスの側に兄さんがいるんだ。ゴルベーザっていう」

「兄さん? 実の兄貴なのか?」

 クラウドにとっては、身内と闘うなどということは想像もつかないらしい。大きな目をさらに見開いて、セシルに訊ね返した。

「僕だけじゃないよ…… その……ティーダも……」

「いいッスよ、気ィ使わなくて。俺の親父もカオスの側にいるんだよ、クラウド」

「え…… ど、どうして……そんな……」

「ま、別に俺にとっちゃどうでもいいことッス。必ず、この手で親父をぶっ倒す!」

「お、おい……ティーダ」

 目に見えて困惑するクラウド。俺は見かねて声を掛けた。

「……皆、いろいろと事情があるということだ。幸い、おまえのように、過去に戻ってしまったという輩はいないようだがな」

「そ、そうなの……?」

「ああ、俺は魔女を倒す旅を続けている最中、この空間に引き込まれた」

 俺の言葉に、他の連中も頷いた。クラウドよりは前に合流したから、そういったたぐいの会話は交わしていたのだ。

「……そっか……俺だけ……」

 チョコボの尾のような髪が、ぺこんとへこたれた。気落ちした彼の心を代弁するように。

「まぁまぁ、クラウド! そんなにガッカリしないで!」

 声を励まして彼を慰めたのは面倒見のいいジタンであった。

「確かにおまえにとっちゃ、いきなり過去に戻っちゃったのはしんどいと思うけどさ。俺たちが協力してクリスタルを見つけ出せば、きっと世界の調和が取り戻せるはずだ! クラウドも元の世界に戻れるぜ!」

「……元の世界に……? この状態のままで……?」

「違うよ。ちゃんと昨日からの続きが待っているはずさ。そんな不安そうな顔すんなよ。恋人が待ってんだろ?」

「うん……」

「なら、なおさら、張り切っていこーぜ! な、クラウド!」

「ああ……そうだよな。考え込んでいてもしかたないもの。これまでもずいぶんいろいろなことあったのに……全然免疫ができてないみたい」

 潤んできた蒼い瞳をぐいと拭って、クラウドが微笑んだ。桜色の肌と、睫毛の多い大きな瞳。鼻はやや小さめでツンと尖っている。

 ああ、なるほど……21才とは言っても、クラウドの造形は綺麗に整っていると同時に、やや幼いのだ。童顔とさえ言えるだろう。それに、わずかに舌足らずな物言いも相まって、彼をより子供っぽくみせるのだ。

「……皆のいうとおりだ、クラウド」

 しょげている彼が哀れになって、俺も言葉を重ねた。クリスタルを入手したからといって、我々がいっぺんの狂いもなく、記憶通りの状態で元の世界へ戻れる保証はない。

 だが、今はそんなことを口にすべきではないだろう。

「……スコール」

「……情報交換も兼ねて今夜は、この辺りでねぐらを探そう。ばらばらになってしまった連中もいるしな」

 そう提案し、俺たちは身体を休める場所を探しに歩き出した……