コスタデルソルへようこそ 
〜コスタ・デル・ソル with ヴィンセント&銀髪三兄弟〜
<8>
 クラウド・ストライフ
 

 

 

 

 

10:00 

「はい、あーん、して」

「……いや、クラウド……」

「大丈夫だ、ちゃんとフーフーしてあるから」

「そうではなくて……微熱がある程度だ。自分で食べられる」

 ベッドの背の部分にクッションを敷き詰め、身体を半分起こしたヴィンセントが低く言う。もちろん新しいパジャマに着替えさせ、身体を冷やさないよう十分注意してだ。

「ダメダメ、腕出すと、肩が冷えるだろ? ほら、あーんして、あーん」

「……クラウド……子どもではないのだ」

「子どもじゃなくても病人だろ? ちゃんということ聞け」

「そんな恥ずかしいこと……」

「全然恥ずかしくない! たまには素直に俺のいうこと聞きなさい!」

 俺がまじめな顔をしてそういうと、やがて観念したように、ヴィンセントはおずおずと口を開けた。

「はい、あーん」

 やけどしないように、覚ましたスープをそっと運んでやる。

 

「どう?」

「ああ、おいしい」

「よかった。少しは食べてくれそうだな」

「……あ、ああ」

「メシ食わないと薬飲めないだろ? ヤズーも気が利いてるよな、ちゃんと病人食、別に作っておいてくれるなんて」

「迷惑をかけてしまったな」

「ほらほら、アンタはすぐそういう風に考える。ヤズー、けっこう楽しそうにやってたよ。三人ともアンタのこと心配してた」

「……クラウド、まさか……」

「え? ああ、大丈夫、大丈夫、そういうことじゃないって」

「…………」

「いや、ホント、聞こえてるはずないだろ? 部屋、ずっと離れてるんだし。ほら、口開けて。あーん」

 そんなやり取りをしながら、ヴィンセントに食事をさせる。

 ヴィンセントの部屋は、南西の角部屋だ。

 窓の外にオレンジの樹と青い空が見える。その奥で眩く煌めくのは、コスタデルソル特有の紺碧の海だろう。

 白い壁、ペールグリーンのカーテン。枕元に置いたガラスの水差しが、陽光を受けて、まるでクリスタルのように輝いている。

 世界が、この一部屋だけになったような、不思議な気分。

 

 ヴィンセントの形よい口が、俺の与えた食べ物を咀嚼する。

 雪のように白い肌。血の色の双眸。壊れたからくり人形を思わせる、力無い華奢な肢体。 

「……クラウド? どうした?」

「……ん?」

「なんだかぼんやりとしていたようだが……」

「ふふ、アンタに言われると何か笑っちゃう。ああ、ゴメン。ちょっとね、不思議なこと考えてた。それとアンタのこと」

 俺は笑ったままそう告げた。

「……不思議なこと?」

「うん。平和だなぁって」

「?……それのどこが不思議なことなんだ?」

「だって、二年前からは考えられないだろ。こんなやり取りさ」

「…………」

「それとアンタのことも考えてた。聞きたい?」

「……そっちはいい」

「聞かせてあげるよ。ヴィンセントは綺麗だなぁって。肌真っ白で、目、ルビーみたいで。アンタの黒髪もすごく好き」

「…………」

 ヴィンセントは何も言ってくれない。率直な誉め言葉には反応できないのだ。



10:50 

「さて、もうごちそうさま?」

「……ああ、十分だ」

「そう? ああ、でも、アンタにしてはよく食べたほうかな」

「ああ」

「じゃ、歯、磨いたらちゃんと寝るんだぞ? 起きてフラフラするなよ?」

「……わかった」

「じゃ、ヴィンセント」

 そういうと、俺は彼の唇に口づけようとした。だが、細い腕でぐいと押し戻される。

「……ダメだ。伝染ったらどうするつもりだ」

「うつんないよ、俺には」

「そんなこと、わからないだろう」

「平気平気」

 骨張った肩を抱え込むと、俺はヴィンセントに無理やり口づけた。密着した細い身体は、やはり熱かった。

 

 そのとき、部屋の扉が不意に開く。

 

「兄さん……薬……あ、これはお邪魔さま」

 ヤズーは、何事もなかったように、風邪薬と水の入ったコップを机の上に置くと、あっさり出ていった。

 

「……あ……ドア、ちょっと開いてたのかな……」

 俺はポリポリと頭を掻いた。

「…………」

「あ、怒るなよ怒るなよ? もしくは泣くな! 熱上がるぞ?」

「…………」

「あ、俺もう行くから。薬飲んで寝ろよ、じゃ、そういうことで!」

 ヴィンセントが口を開く前に、サッと手をあげ、扉の外に飛び出る俺。

 今日はとんだ一日の始まりらしかった。