コスタデルソルへようこそ 
〜コスタ・デル・ソル with ヴィンセント&銀髪三兄弟〜
<4>
 
 ヴィンセント・ヴァレンタイン
 

 

 

 

 

20:30

 片づけを終え(とはいってもディッシュウォッシャーなのでタイマーセットだけだ)、風呂の沸くのを待っていると、さっそく先ほどの少年……カダージュが私の側にやってきた。

 話しかけたいのなら、私のとなりに座ればいいのに、猫のようにそのまま絨毯の上に寝転がる。

「ねぇねぇ、話、してもいい?」

「……あ、ああ」

 ヤズーとロッズと一緒にDVDを見ているクラウドが、ぴくりと反応した。正直、クラウドはそれほど気が付くタイプではないと思うのだが、今日はいささか神経質になっているようだ。

「ヴィンセントって、兄さんとずっと一緒にいるの?」

「……え?」

「だって、ここ、兄さんとヴィンセントのおうちなんでしょ?」

「……あ、ああ、まぁ」

 昼間の一件があったので、あえて否定はしない。

「じゃあ、ずっと一緒にいるんだね、いいなぁ」

「……ずっと、とはいっても、その……まだそれほど長くというわけでは……」

「ヴィンセントは、兄さんの家族なの? 恋人なの?」

 ……困惑する。

 ああ、私は50数年生きてきて、未だにこういう事態への対処法が身に付いていない。背後で飛ぶ鳥を落とせても、目の前の少年の言葉に冷や汗をかくおのれが滑稽でもある。

「……そ、それは……その……私は……」                     

 ……クラウド……今こそ、助け船が欲しいところなのだが。

「私は……クラウドの……」

「兄さんの?」

「クラウドの……ええと……その……」

 クラウドが聞き耳を立てている。聞こえているくせに割って入ってこないのは、私の応対を伺っているのだろうか。

 彼はやさしい人間だが、時たま、ひどく意地の悪いことをする。もちろん本気ではなかろうが、私が困惑したり、返答に窮したり、冷や汗をかいたりする様を見るのが楽しいらしいのだ。

「その……私は……」

「カダージュ、ヴィンセントはね、兄さんの家族であり、恋人でもあるんだよ」

 何時の間に私の背後に回っていたのだろう。ヤズーがソファの後ろ側から私の肩をやんわりと抱きしめ、耳元でささやいた。まるでカダージュに答えてやるよりも、この私に向かって語りかけるように。

 

「そうなの?」

 ヤズーを見た後、私のほうに目線を戻し、カダージュがそう訊ねた。

「……あ、ああ、そうだな」

「いいなぁ!」

 彼は大声でそういうと、あわてて口を塞いだ。おそらく、クラウドがさきほど私のことを、騒々しいのが嫌いな人間と説明したからだろう。

「いいな、ヴィンセントは兄さんと家族になって、恋人でもあるんだね、いいなぁ」

「ふふ、そうだね」

 ヤズーがカダージュに相づちを打つ。

「ヴィンセント、毎日、楽しい? 幸せ?」

 カダージュが言う。この子には質問攻めにされている。

「え……」

「楽しい? 幸せ?」

 雛鳥のように同じ言葉を繰り返すカダージュ。

「え……あ、ああ」

 曖昧に頷こうとしたとき、ふと先ほどの一件が脳裏をよぎる。

「ねぇねぇ、ヴィンセント、幸せ? 楽しい?」

「こらこら、カダ」

 ヤズーが止めに入ってくれるが、私はここできちんと言葉にすべきなのだろう。

 

「……私は……今、とても幸福なのだと思う」

 私はそう答えた。カダージュがじっと私の顔を見つめる。ヤズーがひどく満足そうな……だが、どこか寂寞とした微笑を浮かべた。

 クラウドはこちらに背を向けたまま、ロッズとテレビ鑑賞をしていたが、願わくば今の私の言葉を、正直な気持ちとして聞き取っていてくれたならと思わずにはいられない。

 

 

23:00

「ふぁ〜……」

 カダージュが大きなあくびをした。時計を見ればすでに夜の11時。

 入浴もすませたし、人は皆、眠りにつく刻限だ。一番大柄のロッズという青年は一時間ほども前に、寝床に入ってしまった。

 

 なぜだろうか、私は夜のほうが思考が冴える。

 おのれのこと、これから先のこと、過去のこと……つらつらと思いめぐらす間に眠れなくなることもしばしばだ。そのかわり日中はあまり深い考え事ができない。

 ……眠い、というわけではないのだが、頭の奥に霞がかかったような、はっきりしない部分があり、何を考えてもその部分に触ると、ぼんやりと形をとらなくなる。そしていつの間にか煙のように消えてしまうのだ。

 だから思考作業は夜間に行うことにしている。もっとも、現在の私には思考して行わなければならないほど重要なことも、逆に考えることによって解答を得られるような、平易な課題も持ち合わせていないのだが。

 

「ふぁ〜……」

 カダージュが大きくのびをしてあくびをする。この子は動物に例えると猫のような雰囲気だ。

「カダ、眠いならベッドで寝ろ。ほら、おいで」

「うん……」

 ヤズーがカダージュの脇に手を添え、ひっぱりあげる。だらりと伸び上がった彼は、なんだか妙に可愛らしくて、やはり猫のようだと感じる。

「カダ、ひとりでいいか? それとも一緒に寝るか?」

「ふぁぁ……ヤズーと一緒に寝る〜……」

 そのまま、長身の兄にもたれかかり、すでに半分寝ているような様子だ。

 宵っ張りのクラウドも、そろそろ休むだろう。

 

 すぐに寝付けるとは思わないが、私も自分の部屋に引き取ることにする。

 ああ、ちなみにこの別荘には個別の部屋が大小合わせて6つほどあり、そのうちふたつを彼らに開放した。大きめの部屋ひとつとそれほどでもない広さのものひとつだ。

 大きな方には可動間仕切りがついており、ベッドも大きなものがふたつある。簡単なキッチンもついている来客に宛うには最適な客間である。

 

「じゃ、ヴィンセント、兄さん、おやすみ」

 ヤズーが丁寧にそう言った。彼はいつでも薄く微笑を浮かべている。

「ああ、お休み、ヤズー。カダ、よろしくな」とクラウド。

「……ああ、お休み」

 と私もこたえた。