〜 CAIN 〜
〜コスタ・デル・ソル in ストライフ一家〜
<37>
 
 セフィロス
 

 

 

 

 

「セフィロス、携帯」

 ヤズーがオレを促した。

 携帯電話の音声は共有にしてあるが、通話できるのはもちろん個別なのだ。

「……ああ」

「どうしたの?」

 一瞬、嫌な予感が頭をよぎった。

 そして、大抵、『嫌な予感』ってヤツは当たるものなんだ。

 オレは腹の中で一呼吸置き、迅速に電話を繋いだ。もちろん、傍らのヤズーとクラウドにも聞こえている。

「……オレだ」

『セ、セフィロス…… セフィロス……! ごめんなさいッ!ごめんなさいッ!』

 続いて、うわぁぁんというガキの泣き声。

 確認しなくともわかる。

 ……カダージュのガキだ。

「……なにがあった」

 冷静に先を促した。イロケムシも、内心は動揺していようが、ツラには出さない。

『ヴィンセントが……僕、ヴィンセントと一緒に…… で、でも、ヴィンセント、ここで待ってろって……支配人さん連れて帰れって……』

「おい。落ち着け、ガキ。ゆっくりでいい。……きちんと話せ」

 怒鳴りつけたい思いは、オレもクラウドも同じだっただろう。だが、ここで激昂しては取り返しのつかないことになる。

 ……嫌な予感……

 そう、予兆が現実のものとなってゆく苦い味を、軍人のころ、何度経験しただろうか。 

『ヴィンセントにずっとついてたんだけど…… ヴィンセント、言ったの。捕まってるのは、セフィロスの大切な人なんだって…… もし、ヤズーが囚われていたら、僕にどうするって…… そしたら……僕……僕……』

「…………」

『僕……僕……だから……』

『カダージュくん、代わって下さい。……いいから、さぁ!』

「…………!!」

 落ち着いた声が、受話器から漏れ聞こえた。

 オレだけでなく、クラウドもヤズーも気づいただろう。

 

『セフィロス、聞こえますか?』

「ああ、おまえか。……無事なんだな」

『はい。……それよりも時間がありません。必要なことをすべて話しますから、落ち着いて聞いて下さい』

 支配人の、端的だが穏やかで低い声が、言葉を綴る。

 ……彼が解放されていると言うことは……? そしてカダージュのガキのあの言葉。

 鍵はヴィンセントだろう。あのボケ野郎が何かしでかしたに違いない。

 オレの傍らで、クラウド、ヤズーも息を飲んで、続きを待った。

 

『さきほど、ヴィンセントさんがネロの屋敷にいらっしゃいました。……自らの意志と言っていましたが、私を助けるためにです』

「……あのバカ……!」

 チッとオレは舌打ちした。ぎりりという歯噛みはクラウドだろう。

『セフィロス。エンシェントマテリアはヴィンセントさんが持っています』

「……なんだと!?」

「ど、どういうことなの……? じゃ、預かったヤツは……」

 ヤズーがつぶやく。

『……あなた方が預かったマテリアは偽物です。いえ、正確には偽物を渡す他はなかったのです』

 そこで電話の向こうの彼は、一瞬息を詰めた。

 ……また、あの苦い味だ。

 嫌な予感が現実になる……苦い苦い……じわじわと来る……アレだ。

『本物のエンシェントマテリアは、ヴィンセントさんの体内に取り込まれています。……それが、あなた方を欺き、私を救うために単身でやってきた……理由なのです』

「……馬鹿な……」

 すぅっと脳天から血が抜けていくような脱力感……そして眩暈。

 オレは電話を握ったまま、頭を振った。

 ……バカな……

 腹に取り込まれたままだと……? 

 

「……セ、セフィロス……じゃ、ヴィンセントは……」

「うそ……ヴィンセント…… なんで……どう……して……」

 ヤズーとクラウドが、口々になにやらつぶやくが、言葉は聞こえても頭には入ってこない。

「……あの野郎……! 最初からそのつもりだったのか……!」

「どういうことなの……セフィ……?」

 クラウドが尋ねる。

 こいつももう、普通にしてはいられないのだろう。声は震えているし、これ以上電話の話を聞くのを恐れているようにも見えた。

「どういうこと……? セフィ…… ヴィンセントの身体の中にって……

「今、聞いただろう。エンシェントマテリアは最初からヤツの腹の中に収まってやがったんだ。例の一件で取り出されたものだと勝手に勘違いしていた。……ヤツは何も言わなかったからな。もともと『はい、どうぞ』と渡せるような状況じゃなかったんだ」

「……じゃ、じゃあ……セフィの持ってるヤツって……」

「……偽物だ。まんまとヴィンセントにだまされたというわけだ」

「ど、どうして……なんでそんなウソ……」

 クラウドは思考が停止しているのだろう。自らの頭で考えようとはせず、何で何でと訊ねてくる。だが、丁寧に答えてやる気持ちの余裕も時間の余裕もなかったのだ。

「セ、セフィ……?」

「……事情を知らないネロはマテリアと引き替えに人質を取る。……本物のエンシェントマテリアでなければ、当然人質は戻らない。だが、本物は腹の中だ。だから、ヴィンセントはオレたちに真実を告げずウソをついた。そして単身ネロに会いに行ったんだ」

「……もしヴィンセントの身体の中だって知ってたら……どうしようもなかったものね、俺たち…… ヴィンセントを差し出すこともできないし……」

 ヤズーがつぶやく。

「そりゃそうだ。ヴィンセントもそう思ったんだろう。だからオレたちを偽物で欺いた」

「……セフィロス」

「簡単に騙されたオレは、大馬鹿野郎のピエロだ」

 ガッと床を拳で叩いた。小さな破片が砕け散る。

 その痛みで、オレは自らを正気づかせた。