〜 CAIN 〜
〜コスタ・デル・ソル in ストライフ一家〜
<36>
 
 セフィロス
 

 

 

 

 

『きあああぁぁぁぁ! ムカデー! 死ぬ〜〜〜ッ! うわぁん、ヴィンセントォォォ!』

『ちょっ……泣いている場合じゃないでしょ、兄さんッ! それよりもこの岩壁だよ! まずいなァ、ちょっとやそっとじゃビクともしない感じ』

 前者はクラウド、後者はヤズーだ。

 いうまでもないと思うが。

 

 しかし厄介なことになった。

 三又に別れた坑道……そのうちのひとつが当たりだとしても、残りのふたつはハズレ。

 その『ハズレ』を、後のふたりが引いたらしい。

 しかし、ムカデに岩壁か……まったく良くできたゲームだ。

  

 毒づいている暇はない。

 ヤズーやクラウドのほうだとて、そうは保たないだろう。

 オレは暗い坑道の周囲を見回した。手を伸ばし壁を確認してゆく。

 ここが当たりなら、完全に道がふさがれているというはずはないのだ。

 あちこち出っ張った石ずくめのそこは、お世辞にも動きやすいとはいえなかったが、文句を言っている場合ではない。

 普段なら、ヤズーとクラウドのアホがどうなろうと知ったこっちゃないが、今回はオレの協力者として同行させている。それに連中に万一のことがあれば、ヴィンセントが自害しかねない。

 なんとか三人揃ってネロの野郎に会わなければならん。

 

 ゴッゴッ!

 ガンガンッ!

 

 金物で壁を叩き、反響音を確認する。

 オレの見解に間違いがなければ、必ず突破口があるはずだ。

 ……ようやくそれに気付いたのは、クラウドの何度目かわからぬ泣き声が聞こえていたときであった。

 

 

 

 

 

 

 コンコンッ!

 ……ここだ。やはり思ったとおり……

「おい、ヤズー!クラウド!」

 電話に向かって怒鳴りつける。

『うわぁぁん、なんとかしてよ、セフィ〜〜〜っ! ウゾウゾ気持ち悪いよぅ!!』

『セフィロス!? どうしたの? 何か見つかった!?』

「思った通りだ。おまえらの道とオレの居る場所は繋がっているぞ。壁の厚さが違う場所がある!」

『早くーッ! 俺、セフィのとこ行く〜ッ! 行くぅ〜〜〜っ!』

 ギャンギャンと子犬のように泣き喚くクラウド。

 苦手なウゾウゾどもに囲まれ、完全に幼児退行しているらしい。

『セフィロス! 俺たちどうすればいい?』

 冷静なのはヤズーだ。クラウドはともかく人選に誤りはなかった。

「オレが合図したら進行方向に走れ。……崩落はないと思うができるかぎり急げよ」

『わかった! 兄さん、大丈夫!? セフィロスの話聞こえた!?』

『うんッ!うんッ! 走る、走る〜ッ!』

『セフィロスの合図があってからだからね! セフィロス、頼むよ』

「よし。いくぞ」

 マサムネを抜き、構える。

 天井の高さ、脇の広さを考慮し、最適な場所を選んだ。

「ハッ!」

 キィンという硬質な音。黒々とした岩の成分は鉄鋼石が混じっているのだろう。だが、マサムネの前には粘土岩も同然だ。

 手応えはあった。

 間隙の後、予想通り眼前の一枚壁がずれて地に砕けた。そこは平らな空洞で、オレの出てきた坑道の他に細い二本道と通じていたのだ。

 

「おい、壁を落としたぞ!そのまま走れ!」

『わかった!』

『うわぁぁぁん、セフィ〜ッ!』

 ほとんど時を置かず、クラウド、ヤズーの順番に空洞で落ち合った。

「うわぁぁぁん!セフィ〜〜ッ! ねっねっ、ムカデくっついてない?大丈夫ッ!?」

 この場にヴィンセントがいないせいもあるのだろう。

 ガキの頃と同じように、胸の中に飛び込んできて、ぐりぐりと頭を押しつける。土で汚れた背を払ってやり、関節が真っ白になるほど必死にしがみついてくる手を握り返す。さすがにこの期に及んでからかうのは大人げないと思ったのだ。

「落ち着け、大丈夫だ、クラウド」

「気持ち悪かったよぉぉぉ! もう、何なんだよ、ネロのヤツ!」

「やれやれ。……ホント、根性悪い男だよねェ。確かにDCの兵隊差し向けられるよりは、こたえるわ」

 のんびりとヤズーがいう。

 こいつもそれなりに疲労しているだろうに、図太さは三兄弟の中でもトップクラスらしい。

「おい、手を貸せ。今さらかもしれんが、岩で通路を塞いでおくぞ」

「あ、そうだよね。ムカデが入って来ちゃう」

「早く塞いで!早く早く!」

 鼻水を啜りながら叫ぶクラウド。

 ……やれやれ、ヴィンセントに見せられたツラではないな。

 ようやく岩をずらし、ムカデの進入路を塞ぐ。

 二三匹ちょろちょろと迷い込んだヤツは、迅速にヤズーが処理した。

 

 アホチョコボの嫌いなウゾウゾどもを駆逐し、一息つくべく、オレたち三人は手近な岩に腰を下ろした。未だ不安なのだろう、クラウドはそわそわと身の回りを何度も確認している。

「もう大丈夫だよ、兄さん」

「う、うん……でも……」

「平気だったら。通路は岩で塞いだし、迷い込んだヤツは俺が処分したから」

 イロケムシが宥める。まったくどっちが『兄さん』だかわかりゃしない。

「……ようやく一時間……ほどか」

 オレは持参した時計を取り出し、低くつぶやいた。

「ウソ!? まだ一時間!?」

 クラウドが素っ頓狂な声を上げる。

 無理もない。さすがのオレでもこの閉塞空間に閉じこめられると時間の感覚がなくなる。しかも、一刻も早く地上に出たいという欲求に囚われ、もう半日近く閉じこめられているような気分であった。

「……この密閉された穴の中だからね。時間の感覚おかしくなるのも無理はないよ」

 ヤズーがそんな言葉でフォローした。

「でも、空気通ってるよね」

「どこかに穴が空いてるんじゃない? もっともこの近くじゃないだろうけど」

「よし、進むぞ、時間がない。おら、おまえら。ヴィンセントが大事なんだろ」

 オレは連中を鼓舞して立ち上がった。

「よし、いこう、兄さん」

「うん」

 幸い、続く道はふたたび一本に統一されている。

 三人一緒なら、クラウドのガキもそうそう不安になりはしないだろう。

 

 暗闇の中、ペンシルライトを取り出す。

 胸ポケットの携帯電話が鳴ったのは、それと同時であった。