〜 CAIN 〜
〜コスタ・デル・ソル in ストライフ一家〜
<34>
 
 支配人???
 

 

 

 

 

「存在自体が…… 私は…… やはり……私は……」

「およしなさい」

 ぴしゃりと私は彼の言葉を遮った。

 きっと強い口調になっていたのだろう。

 俯いたままのヴィンセントさんが顔を上げた。綺麗な……そう、やはり私などよりもずっと繊細な造形が、不思議そうに私を見る。

 じっと見られると、血の色の瞳に魅入られそうだ。

「およしなさい、ヴィンセントさん。そんなことを口にしてはいけない」

「……だ、だが……」

「存在自体が罪になる人間などいません」

「…………」

「生きてそこに居ること。それ自体が罪になるはずがないでしょう」

 私は何を言おうとしているのだろう。

 ネロではないが、ヴィンセントさんはただの知り合い……顔見知りというだけの人だ。私の愛した人が、本当に欲している……いわば恋敵にあたる人とさえ言える。その相手をどうしてここまで思ってしまうのだろう。

 これまで人と深く関わらないで生きてきたはずなのに。よけいな荷物を増やしたくなどないのに。

「き、君は…… やさしい……から」

「違います」

 ネロを封じ込めた口調で切り返した。どちらかというと動作の遅いヴィンセントさんが呑まれたように口を噤む。

「私はただ事実を口にしているだけです。『罪』というものが発生し、そう認識されるのは、あくまでも『行動』によってです。つまりその人間の選ぶ生き方です」

「……あ……」

「あなたがどういう方なのか、私はくわしくは知りません。ですがセフィロスはじめ周囲を取り巻く人々の在りよう、そして私のために涙を流してくれるあなた自身。鑑みるに、あなたは『罪』を犯してはいません。……むしろ尊敬に値する方です。……自らを卑下して、あなたを大切に思う者達を卑しめてはいけません」

「き、君……」

「はぁ…… やれやれ大したご高説ですねェ。この口調で何度やられたことか」

 パチパチと当てつけがましく手を打って、ネロが口を挟んだ。

「ですがねェ、ヴィンセント。僕も今の話については、こちらの方の味方をさせていただきます。貴方の存在が罪? なんと愚かしい思い違いなのか! 貴方は選ばれた人なのです。衆愚の輩と同列に並ばれては困りますよ」

「……おまえの話を聞くつもりはない!」

 低く……だが、激しい言葉に、ヴィンセントさんの本能的な嫌悪の情が滲んでいた。だが、その険しさはすぐに顔を引っ込め、彼は私に向き直った。

「あの……ありがとう……! 君は何て理知的で……しかも心のやさしい人なのだろう……! 最期に君に会うことが出来て良かった……! セフィロスの愛した人は、こんなにも素敵な人だったのだと……確かめられて……!」

 一気にそこまで言うと、ヴィンセントさんは勢いよく立ち上がった。

「あ、あの、ヴィンセントさん? それは……」

「大丈夫だ。もう、大丈夫。みっともないところを見せてすまなかった……」

「い、いえ、そうではなくて……」

「ネロ。エンシェントマテリアの話をしよう。彼を解放してくれ。それからセフィロスたちにも手出しは無用だ」

 私の言葉など耳には入らぬのか、ネロに向かい即座にそう命じた。

「……先にエンシェントマテリアを渡していただきたい」

「………………」

「どうしました? まさか持参していないなどと……」

 眉を顰め、ヴィンセントの出方を窺うネロ。

 

「……違う」

 ヴィンセントさんは首を振った。

 どうしたのだろう……? 様子がおかしい。

 エンシェントマテリアというものが、何やらひどく大切なものらしいが、ネロに聞いたところによると、私の身柄とセフィロスたちの安全の引き替えに、持参するという話であったはずだ。

「ならば早く渡してください。そちらの方を放すのはその後です」

「……そうか……そうだな」

「……ヴィンセント・ヴァレンタイン?」

「………………」

 ヴィンセントさんが瞳を閉じる。

 深くきつい色味の双眸が閉じ合わされると、一層ノーブルな雰囲気になる。殉教者のような……いや、なにをいっているのか。例えとしてはあまり好ましくない。

 淡い色の口唇から、細く息が漏れた。

 ……そう、何か決心を……いや、静かな覚悟を確認するように……

 

「持ってきている」

 抑揚のない低い声で厳かに彼は言った。

 そして次の瞬間、私はとんでもない情景を目の当たりにしなければならなかった。

「……ここから……取り出してくれ」

 そういうと、ヴィンセントさんは、脇腹から下腹にそっと手を滑らせたのであった……