〜 CAIN 〜
〜コスタ・デル・ソル in ストライフ一家〜
<33>
 
 支配人???
 

 

 

 

 

 

 重厚な扉がゆっくりと開く。

 そこには三人の人間が立っていた。

 ……真ん中にヴィンセントさん。そして両脇をネロの近侍が挟んでいる。

 私は鎖に繋がれたまま、中央の椅子から腰を浮かせた。

 

「……ようこそ、ヴィンセント・ヴァレンタイン。お久しぶりですね」

「……ああ」

「ふたたびお目にかかれてこの上なく嬉しく思います」

 恭しく挨拶をすると、ネロはヴィンセントさんのほうへ歩み寄った。

 

 口元を覆う立て衿のマント……色は深い紅だ。長い髪を同じ色の布で留め、彼は静かにそこに佇んでいた。

 そう……高名な画家が描いた一幅の絵のように……

 

「……話したとおり一人で来た。そちらも約束を守ってもらおう」

「ええ、ええ。わかっております。ほぅら、目的の方はちゃんとご無事ですよ」

「…………」

 嵩高の衿のせいで、口が動いているのが見て取れない。それはいっそう彼を「いきもの」離れして見せた。

 ……こんな人と私が似ているなど……

 確かに肉体的特徴は似通っているかもしれないが、纏う空気の格が異なる。

 ……セフィロスの愛した人は、こんなにも人離れした別世界の人物だったのか……

 

「……君っ……君ッッ!」

「……あ……」

 唐突に呼びかけられ、ハッと意識を現実に戻す。

 どうやら不躾にも、私は彼に見取れてしまったらしい。いつの間にか側近くまで駆け寄ってきたヴィンセントさんに、間近で声を掛けられるまで、虚けのように惚けていたのだ。

「大丈夫か……!?」

「あ……は、はい……」

「怪我は……? どこか痛むところなどないだろうか……? ああ、すまない……! すまなかった……! 私のせいで……!! さぞかし恐ろしい思いをしただろう……! すまなかった……ッ!」

 そういうと、ヴィンセントさんはガバリと音がしそうな勢いで私の前に膝をついた。

 鎖でくくられたままの手を取り、突っ伏すようにして泣きだしてしまう。

「え……あ、あの……ヴィンセントさん……」

「ネロッ! 早くこれを外せ! 彼は無関係の人だ……ッッ!」

 ヴィンセントさんの剣幕に口を挟めなくなってしまう。

 ……本当は先に謝罪したかったのに。ヴィンセントさんは自分の責任だと思いこんでいるようだが、捕まったのは私自身が間抜けだったからだ。

「早くしないかッ! ああ、大丈夫か? 痛くないか? もう何も心配はいらないから……!」

 さきほどまでは、巻き絵の天人のように端然と……それこそ人離れしたように佇んでいたのに。

 今、私の膝元に足をついて、泣きだしているこの人は本当に同一人物なのだろうか……

 そんなことを考えてしまうほどに、彼は沈黙しているときと、感情を露わにしたときのギャップが激しかった。

 

 

 

 

 

 

「やれやれ……そんなにお怒りにならないでください」

「いいからはやくしろッ!」

「はぁ……どうぞ、鍵です」

 ヴィンセントさんは、ネロの手からひったくるようにそれを奪い取り、もどかしげに私の腕と足の戒めを解いてくれた。

「あ、ありがとうございます……」

「ああ……ッ! 痕がついてしまっている……! 擦れたのだな……痛むだろうか……? すぐに……すぐに解放させるから……! そうしたら、きちんと消毒をして傷の手当てをしてくれ……! そうすれば痛みは消えるし……傷も残らないから……!」

「……ヴィ、ヴィンセントさん? 大丈夫です……大丈夫ですから…… 泣かないでください」

 こんなときだというのに、ボタボタと惜しげもなく涙をこぼし、それを拭おうともしない彼に困惑した。

 おまけに彼が泣いているのは、私の傷のせいらしいのだ。確かに多少擦ってしまったが、ほとんど痛みはないし、心配してもらうようなものではないのに。

 ……それどころか、ヴィンセントさん自身の方が、遙かに危険に晒されているはずなのだ……

「ヴィンセントさん……大丈夫です。私のことは心配ないです。深い傷はありませんし、痛めつけられたりなど致しませんでした。あなたとセフィロスのおかげです」

 私は宥めるように言って聞かせた。もちろん、夜ごとネロにされた行為については触れずにおく。

 ……たぶん、年齢は私よりも上のはずだが、小さな子供に言って聞かせるように、何の問題もないということを噛んで含めた。

「……そ、そうか…… すまなかった……謝罪して済むことではないが……本当に申し訳ない……!!」

 両手をついて頭を下げる彼。

 私は慌てて彼を起こそうとした。ネロが茶番劇を楽しむように嘲笑を堪えていたが、そんなことはまったく気にならなかった。

「やめてください。あなたのせいではありません。……あなたは何も謝罪するようなことはなさっていません」

「……だが……私のせいだ…… 君が私に似ていたから……! 私はただそこに居るだけでまわりの人に迷惑を掛けてしまうらしい……存在すること自体が罪なのだ……」

 ヴィンセントさんが、まるで何かに憑かれたように言葉を綴る。それは私への謝罪というよりも、目に見えぬ何かに向けての懺悔に聞こえた。

 ネロも思うところがあるのか、嘲けりを潜め、神妙な面持ちで彼を見つめた。