〜 CAIN 〜
〜コスタ・デル・ソル in ストライフ一家〜
<29>
 
 クラウド・ストライフ
 

 

 

 

「あーあ……ひもじいなぁ〜……お腹空いたな〜。スニッ○ーズもっと持ってくればよかったなー。やっぱ、ヴィンセントに付いてる役目のほうがよかったかもね〜」

 ヘタレな俺は、ブツブツと口の中でつぶやいた。

 我ながらさっきのデカ蜘蛛ダメージが想像以上に激しかったらしい。情けないと思われるかもしれないが、俺はああいったモゾモゾ、ウゾウゾ系は大の苦手なのだ。

 余談だが、ゴキブリとかそういった類も苦手である。カブトムシの幼虫を、喜んで掘り出している近所のガキなど、見るのもおぞましいというのが正直なところだ。

 ああ、そういえば子どもの頃、ニブル山の近くで遊んでいたとき、木から毛虫が降ってきて、ビービー泣いた覚えがある。あのときは、ティファが助けてくれたっけ……

 

 ちょっと恥ずかしいから、さっきの一件はヴィンセントには言わないようにしよう。

 そうだ! ヤズーとセフィロスにも口止めをしておかないと。ああ、もちろん、ヴィンセントはそんなことで俺をバカにしたりはしないけど、知られないならそのままのほうがいい。

 

 目の前には細長い道が続いている。

 ぶっつり途切れてくれれば、引き返せるのに、細々と繋がっているのだ。もちろん、支配人さんを助けに行くのが嫌なのではない。怖いのはさっきのような蜘蛛責めにあったとき、ぶっちゃけ、ひとりだと不安なのだ。

 心臓に毛が生えているヤズーやセフィロスなら、虫だのなんだのなんて、どうってことはないのかもしれないが、俺は繊細な美青年なのである。

 あの不気味に膨らんだ赤い背……そして、ウゾウゾとうごめく長い足……蜘蛛というのは、ただそこに居るだけで気色悪くてたまらない生き物だと思う。(全国の蜘蛛愛好家、ゴメン)

 ポケットから繋ぎっぱなしの携帯を取り出して声を掛けた。ずっとオープンになってはいるが、口元に持ってきた方がよく聞こえるだろうと思ったから。

 

 

 

 

 

 

「あー、あー、あ、あ、マイクテス! ふたりとも聞いてる? 俺、クラウド! あのね、さっきのことヴィンセントには言わないでよ? 俺、頼りない男だと思われたら、マジヤバイからね、コレ」

『あー、もう電話してきたと思ったら何なの〜? 忙しいんだからね!』

 ブツッ!

『アホは死なねーと治らんらしーな、ボケチョコボ!』

 ブツッ!

 ……なんて冷たい奴らなんだ。

 ホンット、ヴィンセント以外のうちの住人って最悪ですわ、コレ。もっとこう……真っ暗な坑道に三人きりで臨んでいるわけなんだから、お互いに声を掛けて励まし合うとか……そういう発想がないものだろうか。

 もういい、セフィにもヤズーにも何にも期待しない。

 そうと決まれば、サクサク行くに限る。どっちにしろこの暗い洞穴から抜け出すには、先に進んでいくしかないのだから。

  

 それにしても支配人さん……大丈夫だろうか。

 セフィロスの話だと、昨日今日捕らえられたわけではないらしい。しばらく姿を見なかったと言っていたから……

 その間、奴らの手に堕ちて……そう、ヴィンセントと間違われて。

 エンシェントマテリアについて訊ねられても、答えようがなかっただろう。普通の人が知っているような話ではない。俺だって、具体的なことはほとんどわからないのだから。

 

 ……あの人、捕まっている間に何かされたんだろうか?

 フツーに考えれば、拷問……とかだよな。

 でもエンシェントマテリアのことについてなど、拷問されたからといって答えられるものではない。

 それにネロはあまり『そういうタイプ』には見えない。これは俺の独断と偏見だが。

 人質をぶん殴ったりシメあげたりするようなキャラクターではないと思う。

 どちらかといったら、自白剤とか……もっとエロイ拷問とか。

 あー、どうか、後者でありませんように!

 ヴィンセントと同じ顔した人がそんな目に遭うなんて……恋人の俺としては耐えられない。そもそも似てるだの何だのと言う前に、支配人さん自身、すごくやさしくていい人だし。ゴハン食べさせてくれるし……

  

 暗闇の中をズンズン進みつつ、俺は囚われの身の彼のことを考え続けた。今現在の自分の状況に鑑みてしまうと、どうしても思考が毒蜘蛛に行ってしまうからだ。

 しかし、ネロに××されている支配人さん(=ヴィンセント似)とか考えちゃうと、頭より下半身が暴発しそうで困惑する。

 支配人さんは、受け答えがはっきりしているし、やっぱりああいう仕事だからなのか、すごく世慣れてドライな面もあるのかもしれない。ヴィンセントよりは、遙かに実社会に適応している人なのだと思う。

 だが、今回は相手が悪い。

 ネロとヴァイス……そしてDC。

 普通の人間相手ではないのだから。

 

 ……ゴ……ゴ……

 

 背後から迫ってくる鈍い音に気付いたのは、そんなことを考えているときであった。

 ひとりきりで歩いているわけだから、他に注意を促してくれる者もいなかったのだ。

 

 ……ゴ……ゴ……ゴ……

 

「なに……へんな音……」

 ボソリとつぶやき、俺は前を照らしていたペンライトで背後を映し出した。

 するとすぐそこに壁が迫っているではないか。

 壁……壁だぞ、壁!

 ごつごつとした岩壁が眼前を塞いでいるのだ。

「なんで……ウソ……だってさっきまで……」

 この場に自分自身しか居ないにも関わらず、声に出してしゃべっていた。

 今まで歩いてきた坑道……腰をかがめる必要はないが、閉塞感のある空間だ。だが、普通に歩いてきたわけだから、俺の通り過ぎた場所はちゃんと人ひとり通れるスペースがあったはずなのに。

 

 ……ゴ……ゴ……ゴ……

 

 思わず後ずさっていたのだろう。

 すると俺が前進した分のスペースを埋めるように、岩盤がせり上がってきた。

「ちょっ……ウソ……ウソでしょ……?」

 勢いよく迫ってくるわけではない。

 だが、俺が進んだ分だけ、確実にこちらに向かって押し迫ってくるのだ。

 

 ……走るか?

 

 いや、走ってどうする……

 本当に俺が進んだ分だけ迫ってくるので、いきなり走り出すのは危険かも知れない。

 だが……もしかしてこの道は『ハズレ』だったのであろうか……?

 

 セフィのせいだッ!

 もうバカセフィ!

 これでセフィの道が安全路だったら許さない!!

 蜘蛛ショックから立ち直れないうちに、またもや俺はピンチに陥ったらしい。

 コイツもネロの『お遊びの仕掛け』のひとつなのだろうか?

 俺たちは指示どおりエンシェントマテリアを持ってきているんだぞ!? それとも死体から回収すればいいとでも思っているのだろうか?

 

 ……ゴ……ゴ……ゴ……

 

 岩壁の迫る音に、冷たい汗が背中を流れる。

 何故か俺は、昨夜踏みつぶしたゴキブリの映像を思い浮かべていた……