〜 CAIN 〜
〜コスタ・デル・ソル in ストライフ一家〜
<30>
 
 ヤズー
 

 

 

 

 ……カダージュとヴィンセントはどうしているかな……?

 

 俺は地の底を歩きながら、ふと彼らのことを考えた。

 

 どこか湿気ったような、青臭い匂い。

 もっともここは、廃棄された駅から続く地下道なのだから致し方ないのかも知れない。

 苔生した深く暗い空間を、俺はひたすら前へ進んでいった。

 

 あの大部屋で蜘蛛に襲われてから次の間へ……そこでは道が三本に別れていたのだ。あの小面憎いネロのやることだ。このうちの一本が当たりくじ……そんなつもりなのかもしれない。

 だが、三本とも『ハズレ』である可能性だってなきにしもあらずだ。

 

 この坑道に入るなりDCどもに襲われた。連中程度のレベルでは、セフィロスはじめ俺たちの相手ではなかった。だが、少なくとも刺客の兵隊たちは、本気で殺そうと襲いかかってきたのだ。

 そう……セフィロスがヴィンセントからマテリアを預かってきたと告げているにもかかわらず。

 例の『GAME START』というメッセージにしろ、さっきの蜘蛛責めにしろ、この洞穴は、完全にネロの掌の中だと考えるべきだろう。つまり万一この場所で俺たちが死ぬハメに陥ろうと、ヤツにはエンシェントマテリアを奪取する算段があるのだ。

「……不愉快な」

 俺はひとりであるのをいいことに、低くつぶやいた。

 

 カダージュやヴィンセントは、俺のことを『優しい、優しい』というが、それは俺の多面性のうちの一部だ。だから誤ってはいない。

 だが、決して彼らに見せることのない部分……裏の裏の裏に……それこそ、内奥には、ドロドロと腐臭がするほど醜怪でおぞましいものが潜み、蠢いているように思う。

 認めたくはないが、俺はどこかネロという男と通じる部分がある。

 あの男がヴィンセントを欲しがり、彼をどうしたいのか、手に取るようにわかるのだ。だからこそ、ヴィンセントだと間違われている、支配人さんの身柄が心配で気が焦る。

 この状況で慌てても仕方がないとわかっているのに。

 少なくともマテリアを入手するまで、支配人さんの身に危害が加えられる可能性は少ない。ヤツは『ヴィンセント』を欲しているのだから。

 むしろひとけのない、廃坑を進んでいる俺自身のほうが、直接的な危険に晒されているといえよう。

 それでも、俺は一刻も早くネロも元に辿り着き、支配人を取り戻したかった。自分はネロと違う。気に入ったもの、大切なものを侵食し、破壊するのではなく、害悪から守り、慈しめる人間なのだと……

『俺はちゃんとこちら側の人間なのだ』と確信するために。

 

 

 

 

 

 

 ……ゴ……ゴ……

 

 鈍い音が耳に入ったのは、独りを良いことに考え事をしていたときであった。

 重い岩がずれるような、鈍い音。

 

 崩落……?

 

 いや、まさか……!

 もし、本当にネロが俺たちを殺すつもりであったとしても、そんなやりかたをしては、マテリアまでも損傷させる恐れがあるはずだ。それよりなにより、瓦礫の中から指先ほどの小型のマテリアを探し出すのは至難の業であろう。

 

 ……ゴ……ゴ……

 

 重苦しい音が近づいてくる。

 

 ……壁……!?

 俺が今まで歩いてきた道に、岸壁が押し迫ってきている。

 これもネロの言う『ゲーム』なのだろうか。

 ちょうどそのときであった。オープンにしっぱなしの携帯から悲鳴が聞こえたのは。

『ぎぃあぁぁぁぁぁ!』

「え……? ちょっ……に、兄さん!? 兄さんッ?」

『何を騒いでやがる、アホチョコボ!』

 セフィロスの声も聞こえるということは、彼も兄さんの悲鳴を耳にしたのだろう。

『壁ッ! 壁ッ! このままだとつぶされるーッ! ミンチになるッ! ねぇ、セフィ!走ってもいい? ダッシュしたほうがいいと思う!? あ、いや、でもこの道、罠が仕掛けてあるんだからハズレだよね? さっきのところまで戻らなきゃ! ああっ、でも戻れないよ! 道塞がってるもん! セフィっ! セフィ〜〜〜っ!』

『バカヤロウ! 落ち着いて状況を話さんかッ!』

「セフィロス、俺! 多分、兄さんのルートと俺のルート、同じことが起こってるんだと思う」

 そう前置きして、端的に状況を説明した。

「壁に仕掛けがあるんだよ。背後から岩壁がどんどん迫ってきてる。歩けば歩くほどこっちに押し寄せてくるから……確かにこのまま進んで、行き止まりになったら押しつぶされる。……え?ああ、ちょっと独りの力じゃ無理だね」

『きああああ! 死ぬーッ!』

『うるせぇ! 黙ってろ、クソガキ! おい、ヤズー! 銃でなんとかならんのか?』

「いざとなったらそうするつもり。でも、正直、崩落が怖いね。絶対にありえないとは言い切れないから。……セフィロスのほうは?」

『どうやら、ここは「当たり」らしいな。特に問題なく続いているように見える』

「そぉ。神様って不公平だよねェ」

 と、こんなときにも関わらす、のんびりと言ってやった。

『ぎゃ〜〜〜〜〜ッ!』

 けたたましい悲鳴が電話口から飛び出してくる。兄さんだ。

「ちょっと、落ち着いてよ、何?行き止まりになったの?」

『ぎゃあぁぁぁぁぁぁ! ちがっ! ム、ムカデ! ムカデェェェェェ!!』

「え……ッ?」

 俺は胸ポケットに入れたペンシルライトを取り出した。

 目をこらしてみれば、ウゾウゾと赤黒い物体が蠢いている。いや、一匹二匹ではなく、蜘蛛のときと同じように、地面を絨毯のように節足動物が覆っているのだ。

「う……わァ……たまんないなァ、これは……」

 言っておくが、別に俺は落ち着いているわけでも、余裕をかましているわけでもない。実際、身震いがするほど気色悪いし、背筋が怖気てそそけ立っている。

 単に、感情をあらわにする訓練がなされていないだけだと思う。

『きゃあぁぁぁ! セフィッ!セフィッ! ヴィンセントォォォォォ!』

 あからさまに恐怖心のまま泣き叫ぶ兄さん。この人くらいハッキリ喜怒哀楽が語れれば、ある意味、幸せとも言えよう。もっとも、今はそれどころではなかろうが。

「セフィロス、俺の方も百足だらけだ。刺されると面倒だな。兄さん、気をつけて。あ、でもムカデって捕まえて瓶詰めにすると火傷の薬ができるんだよ」

『きあああぁぁぁぁ! もぅヤダ〜〜〜〜!!』 

 

『……行き止まりだ』

 低く問うような口調はセフィロスの物だった。

 行き止まり……? 彼の道は当たりではなかったのか? どうして?

 

 ……ゴ……ゴ……ゴ……

 

 鈍い音がどんどん近くなってくる。前の道にはウゾウゾとした赤褐色のムカデ……

 どうやら、今回の捕り物は、ずいぶんと厄介らしい……