〜 CAIN 〜
〜コスタ・デル・ソル in ストライフ一家〜
<25>
 
 支配人???
 

 

 

 

『ぎゃぁぁぁぁ! ヤダッ! 背中ッ! 足ッ!』

『兄さん、素手じゃダメだよッ! クソッ!』

 泣き叫ぶクラウドさんの背から、剣のようなもので毒蜘蛛を叩き落とすヤズー。

『おい、こっちだ! 走れッ!』

『セフィロスッ! 足ッ!』

『チッ! クソッ!』

『急げッ! まともに相手をするな!』

『だって…… うわぁぁあん! 気持ち悪いよぉぉぉぉ!』

 

 三人の中で、クラウドさんが一番取り乱している。

 だからと言ってセフィロスとヤズーが落ち着いているわけではない。

 蜘蛛はウゾウゾと、まるで大きな蛇がのたくるように、群れを為して岩盤をうごめき、この暗い洞窟の中で、唯一生きている三人に向かって襲いかかるのだ。それだけでも、生理的な恐怖は尋常では無かろう。

 しかも、猛毒を持つセアカゴケグモ。刺されたら数刻後に死に至る可能性もあるのだ。

 

『ぎゃあぁぁ! い、今、顔に触ったぁぁッ! ぎえぇぇぇ! なんか踏んだ踏んじゃったァァァァ!』

『落ち着かんか、クソガキ! パニックに陥れば敵のおもうつぼだぞ!』

『だって、気色悪いィィィィ!』

『兄さん、手! ほら、こっちッ!』

『ヤズー、ペンシルライト点けろッ!』

 

 阿鼻叫喚を見て居れず、私はキッとネロを睨み付けた。

「ネロッ! いい加減にして下さいッ! 脅しではなく……もし万一、彼らがあの中で死ぬようなことがあったらどうするつもりなんですッ!? セフィロスはあなたの目的の物を持っているのですよッ!」

「……別に、死ぬのなら死ぬでまったくかまいませんが」

「なんですって……?」

「貴方がたにはそれ相応のことをされましたのでね」

 目線を兄のヴァイスの後ろ姿に投げかけ、憎々しげに口唇を歪めた。

「マ、マテリアは……!?」

「あの迷路は私の管理下にあります。遺体のポケットから、エンシェントマテリアを取り出すくらいわけはありません」

「……では……では……あなたは最初からセフィロスをなぶりものにするつもりであの場所に呼びつけたのですかッ!? あの迷路は本当にこの場所に続いているのでしょうね!?」

 自ら投げつけた問いに、私は愕然とした。

 

 

 

 

 

 

「ヴィンセント・ヴァレンタイン……」

 激昂する私に向かって、ネロはツ……と音もなく歩み寄ってきた。

「そんなにあの人たちが大切ですか……?」

「触らないで下さいッ!」

 触れられた腕を、私は力一杯振り解いた。戒めのくさりがシャラシャラと冷たい音を立てる。彼に対する激しい怒りと嫌悪で身震いがした。

「ヴィンセント。……僕がエンシェントマテリアを手に入れ、目的を果たしたら、この地にいる必要はなくなります」

「だから何だというのですッ! 側に寄らないでください!」

「僕と一緒に行きませんか? 僕と……兄さんと一緒に……ずっと……」

「やめてくださいッ! 聞きたくありませんッ!」

 尚も拘束された私の腕を取り、ささやきかける彼を本気で怒鳴りつけた。

「……どうして……」

 独り言のように彼はつぶやいた。

「……どうして……貴方は僕を選んでくれないのです……? あの者たちより、ずっと僕のほうが貴方に近い人間のはずなのに……」

「………………」

「貴方はまた僕を捨てるのですか……? 僕ではなく、また彼らを選ぶのですか……?」

 そう訊ねてくるネロの言葉は、これまでのような人をくった物言いではなく、まるで縋るような口調で……私はすぐさま拒絶の言葉を口に出来なかった。

「ヴィンセント……僕は貴方を大切にする……誓います」

「……やめてください」

「僕と一緒に来ると言ってください」

「……聞けません!」

「ヴィンセント……!」

「やめてくださいっ……違います……私は、私は……違うんですッ!!」

 

 ピピピピピッ……ピピピピピピッ……ピピピピピッ……

 

 ネロのポケットの携帯電話だ。

 助かった……と私は思った。

 手足の自由を奪われたまま、ああいった形で責められるのは耐え難い。

 ネロはひどく不快そうに眉を顰め、尻ポケットに入っていた小さな電話を取り出した。CPからコードを引き出し、携帯に接続しマイクをオープンにする。どうやらこの一件の関係者かららしい。

 

「…………僕ですが」

 ゆっくりとした口調でネロが電話に出た。さきほどまでの切羽詰まった様子は微塵にも感じさせない。彼は以前のままの、不貞不貞しいこましゃくれた美青年に戻っていた。

「……え? 貴方は……?」

 ネロが柳眉を顰め、電話の相手に聞き直す。

 私もまた自分の耳を疑っていた。

 

『ヴィンセント・ヴァレンタインだ。……ネロと話がしたい』

 低く、物静かな声が、機械で覆い尽くされた部屋に流れてきた……