〜 CAIN 〜
〜コスタ・デル・ソル in ストライフ一家〜
<24>
 
 支配人???
 

 

 

 

 

 

 廊下の突き当たり……他の部屋よりも重厚な作りの扉を、ゆっくりとネロが開けた。

「……? ここは……?」

「おかけなさい」

 質問には答えずに、彼は私に椅子を勧めた。

「申し訳ありませんが、精密機械に何かあると困りますので……」

 ネロのめくばせで、側近と思わしき、屈強な男ふたりが私の両手足に枷をつけた。いつも、寝る前に施される拘束具だ。

 それは、賓客として招かれているのかと勘違いしてしまいそうな待遇の中で、唯一の囚人の証であった。

「ここがこの屋敷のメインルームですよ。……もっとも、もっと広い部屋は他にもあるようですが……重要な『脳味噌』にあたる装置は、すべてこちらに集約されています」

 自慢げにネロが言った。

 コツコツと硬質な音を立て、室内をゆっくりと歩く。

 

 数台のスーパーコンピューターにパソコン、正面の巨大なモニターには何やらよくわからない幾何学的な図形が散らばっている。私の目の前にも様々な装置が羅列され、素人目には何がなにやらわからない。

 まるで研究所と軍事司令室を一緒にしたような硬質な印象の部屋。

 周囲に侍るネロの部下も、帯剣帯銃し、戦闘態勢を整えている。

 そのなかでただひとり、場違いな風体の男が居た。

 ネロが「兄さん」と呼ぶ相手……確かヴァイスと言った。彼とは連れてこられた初日に対面したが、その後は会話することもなく人と為りはまるでわからない。

 ただ、セフィロス以上の長身巨躯と、白髪と見まごうような長い髪が印象的であった。

 

「……なのですよ、ヴィンセント・ヴァレンタイン」

「え……あ……」

 唐突に声を掛けられ、私はネロの話を聞いていなかったことに気付いた。部屋の様相に驚いたことと、椅子に座ったまま、微動だにしないヴァイスに気を取られていたのだ。

「おやおや、聞いていなかったのですか? 貴方の質問に答えて差し上げたというのに」

 大仰にそう言い放ち、やれやれと手を振って見せた。

「……失礼しました。いささか驚いてしまって」

「フフフ……まぁ、無理もありませんね」

 私の答えに気を良くしたのか、ネロはあっさりと二度目の説明をしてくれた。

「貴方の保護者殿とそのお伴の者たち……今のところ順調に迷路をくぐり抜けているようですね」

「……迷路?」

「そう。……申しましたでしょう? わざわざお運びいただいたのですから、相応のもてなしをしないとね」

「………………」

「ふふふ……ごらんなさい」

 そういうと、ネロは部屋の上部に設置されたパネルを指さした。

 そのパネルは他のものと異なる形状をしており、縦の幅はそれほどないが、横幅は壁面を覆うように広かった。普通のモニターを横伸ばしにしたような形だ。

「……なんです。あの赤いランプは」

 私は低く訊ねた。

 モニターの四分の一ほどの場所に、赤のランプがチカチカと点滅しているのだ。その数は三つ……

「ええ、あれは……そうですね、あのあたりならば、まだカメラがあったかな……奥の方はさすがに精密機器を設置できるような場所ではなかったから……」

 楽しげにぶつぶつと独り言をいうと、ネロは自ら操作盤の方へ歩み出し、いくつかのボタンを押してみせた。

 

 

 

 

 

 

『ぎぃあああああッ!』

 突如、ぞうきんを引きちぎるような鈍い悲鳴が、静かな室内を劈いた。

『ぎゃあぁぁぁッ! キモッ! セフィ、取って取ってッ!』

『ちょっ……兄さんッ! ライト! 早くッ!』

『きゃあぁぁぁッ! 死ぬッ! うわぁん!ヴィンセントーッ!!』

『騒ぐなボケナスッ! いいから動け! 立ち止まるなッ!』

『だって……動けって……出口も見えないんだよ、セフィロス!』

 

 巨大なモニターに、三人の青年が映った。

 当然だがどれも見覚えのある人たち。

 

『ね、ね、セフィ! 火、点けようよ! こいつら焼いちゃおう!』

『バカを言うなッ! こんなところで点火してみろ。一気に一酸化炭素中毒で酸欠だ!』

『兄さん、セフィロス! こっちこっち!』

 

 セフィロス、ヤズー……それにクラウドさんまで!!

「ネロッ!」

 彼の名を叫んだ私は、きっとネロでさえも、驚くような険しい顔をしていたと思う。

「これは……これはどういうことですッ! セフィロスはマテリアを持っているのですよッ!」

「ええ、もちろん、承知しております」

 いけしゃあしゃあと彼は応じた。

 その間もモニターの中には、暗闇の中で奮闘している三人が映し出された。ご丁寧に赤外線カメラで撮影しているらしく、こちらからは彼らの様子が見て取れるが、ヤズーのセリフから、中は真っ暗なのだろう。

 

 三人を襲っているのは人間ではない。

 ……蜘蛛だ。

 

 いや、正確には蜘蛛で埋まった部屋に、三人が閉じこめられたと言った方が納得のいく有様であった。

 このあたりでは見たこともないような、足の長い……大きな蜘蛛。背中が赤く膨らんでいるのが、なんとも気色が悪い。

「……セアカゴケグモですよ」

 私の心の中を見透かしたように、彼は楽しげに教えてくれた。

「ああ、正確にはセアカゴケグモの亜種といいますか、いささか『品質改良』を加えたものでしてね。毒性はもともと強い蜘蛛ですが、性格がかなり凶暴になっています」

「…………ッ」

「咬まれたとしたら、どれほど屈強な人物でも、数時間は保たないでしょうね」

 内緒話を打ち明けるように、ネロはいたずらっぽく微笑んだのであった。