〜 CAIN 〜
〜コスタ・デル・ソル in ストライフ一家〜
<19>
 
 セフィロス
 

 

 

 

 

 

 

「……ヴィンセント、部屋に戻っていろ」

 具体的な策を口に出す前に、オレは真っ青な顔をして縮こまっている男に声を掛けた。極力事務的に、感情をあからさまにせず、だ。

「……セ、セフィロス……」

「おまえはいないほうがいい」

「で、でも……」

「昨夜も言っただろう。誤解されている人質の安全を考えれば、おまえを連れていくわけにはいかん。話を聞けば、不安が増幅されるだけだろう。おとなしく部屋で休んでいろ」

「…………」

 ウサギのような瞳がゆらゆらと揺れるが、ヤツが泣き出す前に上手くヤズーがフォローを入れてくれた。

「兄さん。ヴィンセントを部屋に送ってあげて。昨夜もほとんど眠っていないみたいだから」

「ええッ、うそ! そうなの? なに無理してゴハンなんて作ってんのッ? さ、行こ、ヴィンセント」

 すぐさまヴィンセント大事のクラウドが、彼の腕をとった。

「あ……で、でも……クラウド……」

「いいから! なんだったら、眠っちゃったほうがいいんじゃない? アンタが寝てる間にケリつけて帰ってくるし!」

「………………」

「心配しないで、ヴィンセント! 行こう。ホントは俺も一緒に寝たいけど、ガマンするし」

 わけのわからない慰め方をしつつ、ヴィンセントを引っぱり出す。最後まで心許なげな面もちで、こちらを見つめていたのは可哀想に思ったが、やはりヴィンセントに詳細を聞かせるつもりはなかった。

 クラウドはすぐに居間に戻ってきた。

 いつもならば、ヴィンセントの部屋でグズグズとするところだろうが、非常時だという自覚はあるのだろう。

「おまたせ、セフィ。とりあえず、部屋で落ち着かせたから」

「じゃ、話が済んだら、ハーブティでも持ってくよ」

 一段落した雰囲気の中で、オレは口を開いた。

「……さっきの電話だが、話は聞いたとおりだ」

 皆が頷く。

「オレひとりで行くつもりだったが、捕まってるのは民間人だ。人手があったほうがいいかもしれん」

「だーかーら! 俺ッ! 俺が一緒に行くってばッ!」

 と、クラウド。

「まぁ、アホチョコボでも居ないよりはマシかもしれんからな」

 適当にいなしておいて、オレはイロケムシとクラウドのガキを指名した。

「おまえらふたり一緒に来い。それから、カダージュとロッズ。他に頼みたいことがある」

 ふたりが真面目な面もちでオレを見る。

 クラウドとヤズーを指名したことで、のけ者にされたなどと、不満を吐くほど、奴らは阿呆ではなかった。他に役割があるということをあらかじめ予測していたようだ。

「ロッズ、おまえは人質の自宅周辺および店の安全確保だ。さらわれたということは、自宅もバレている可能性がある。単独で解放された場合、帰途に着く間、襲われないともかぎらん」

「…………」

「彼は無関係な民間人だ。……守ってやってくれ」

「うん、わかった!」

 きちんと返事をするのに、目で頷き返し、末のガキに声を掛けた。

「カダージュ」

「う、うん」

「……おまえはヴィンセントに着いていろ」

 一瞬言われた意味がわからなかったのだろう。両の瞳を大きく見開く。

「何の情報も与えていないからな。どうしようもないはずだが…… あいつは平気で他人のために自分を犠牲にしやがる。……万が一ということもある。絶対に目を離すな。……一番重要な仕事だ」

 殊の外最後の一言をゆっくりと、含めるように言うと、末のガキは、

「わ、わかった!」

 と、大きくかぶりを振った。

「うん、そうだね。セフィロスの言うとおり。ヴィンセントのことよろしく頼むよ、カダ」

「まかせて、ヤズー。ちゃんとヴィンセント、見てる。あ、大丈夫! 見張るような真似はしないから。黙って出ていったりしないように、ちゃんと気を付けるから」

「カダはかしこいな。俺がいちいち言わなくても、ヴィンセントの気持ちに配慮できるんだな」

「そうだよ。僕、もう子供じゃないもん。ヴィンセント、大好きだし」

「いや、まぁ、アレだ、カダージュ。本来なら、ヴィンセントの側に付いて守るのは俺の役目だから、コレ。でも、今回はちょっと相手がアレだからね。もう、息の根とめるイキオイだから。おまえにオイシイ役目任せるけど、それは、これ、今回かぎりっていうか……」

「ちょっと兄さん、よけいなこと言ってんじゃないよ。こんなところでカダと張り合ってどうするの、まったくも〜」

「このアホチョコボが。貴様は貴様できちんとテメーの仕事をしろよ。いいな?」

「わかってるもん! あ、ちょっとォ、とどめ、俺が刺すからね。セフィは支配人さん守ってて」

「あー、わかったわかった。とにかくドジは踏むなよ、おまえら」

「やだなァ、誰に言ってるのォ、セフィロス」

「ホントだよな。ぶっちゃけ、今回、俺たちセフィの助っ人状態なのにね〜」

 ねぇ!と井戸端会議の主婦のように顔を見合わせるヤズーとクラウド。ったく可愛い気のないヤツラだ。クラウドはガキの頃は愛らしかったが、今じゃ小憎たらしいクソ生意気な野郎になってしまった。オレはあらためて、現場に赴くふたりに注意を促した。

「おまえらにだ、おまえらに! 言っておくが、民間人が人質になってるんだからな。慎重にコトを運べよ」

「はいはい。もちろん。店長さん、大切だからねェ。もしかしたら今回の一件がきっかけでもっと親しくなれるかもォ」

「おい、バカ、ヤズー! 相手はセフィロスの恋人さんですよ、コレ。手ェ出したら斬られちゃいますよ、アナタ!」

「足なら出してもいいかなァ、なんちゃってェ」

「まー、俺もね〜、ヴィンセントに似てる人だし、興味はあるんだけどさ〜。セフィみたいな意地悪な人でなしと付き合ってるくらいだから、我慢強い人だろうしね〜。お茶飲みながら愚痴くらい聞いてあげたいよねー。支配人さんの紅茶美味しいもんね〜」

「そうそう。お酒の趣味もいいんだけどさァ、手ずから淹れてくれる紅茶とかコーヒーがね〜。お茶菓子との合わせ方も品がいいんだよね〜。ガナッシュにアイリッシュカフェとかさ〜」

「いいなー。今度食べに行っちゃお」

「ちょっ……ダメだよ、兄さん、ただ食いは。なにか手みやげ持って行ってあげて」

「おい、テメーら! 無駄口聞いてないで、武器の手入れでもしてきやがれッ! 夕刻になったらすぐに出るぞッ!」

 いつまでものんきにアホ話を続けるふたりを一喝し、オレも長刀を確認しに一時、自室へ戻ったのであった。

「……ヒステリー」

 ボソリとつぶやいたクラウドを、ぎろりと睨み付けてやってから。